見出し画像

【ラジオ】アレコード備忘録も最終回~「勝手に」あやしく輝く!俺の日本アレコード大賞・2022

 『伊集院光とらじおと』の1コーナー「アレコード」にどっぷりとハマり、その感想をTwitterからnoteに移し「備忘録」と称してマガジン化したのは2021年7月から。ただそれ以前から「俺のアレコード大賞」として、年間オンエア分から自分のツボに入った曲を勝手にランク付けしてました。

 さて2022年も、と思った矢先に突然の終了告知。本当にショックでした。番組自体もそうですが、毎週のルーティンとして楽しみに聴いてたモノが、突然無くなってしまうことの虚しさ。でも感想は最後まで続けよう、と3/24放送分まで書き記しました。これで備忘録もおしまい……

 といいたいのですが、コーナーそのものへの感謝を込めて、3ヶ月分にオンエアされた全36曲(触りの部分含む&リミックス版は除外)の中から「俺のベスト」を勝手に決めて勝手に表彰したいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。


 ※以下のランキングはあくまでも個人的感想です

<審査員特別賞>

・「男女物語/原きみ子」

 コーナー自体の大トリを務めた一曲。もはや何も語るまい、である。歌詞・歌声・旋律といい、聴いている側をここまで不安かつ不穏にさせる曲はそうそう出てこないだろう。不穏といえば有名どころで「呪い/山崎ハコ」があるものの、それとは全く違う雰囲気なので説明がしづらい。ダウナーとも違うし、何と表現したら分からない。作詞・作曲は歌唱者本人。そのセンスにやられました。自分の中ではオンエア一週間と経ってないにもかかわらず既に伝説の一曲と化しており、ランク付けは不可能。よって別枠で評価させていただきました。最後の最後に何てモノを……しかしこれを真っ昼間から流せる自体に「アレコード」というコーナーの価値があった、その集大成ともいえる曲でしょう。

<優秀賞>

・「真赤なブーツ/木の実ナナ」

・「スキーは楽し/ザ・ダウン・ビーツ」

・「ファイナル・テニス/柳田大介」

・「下っ端/金玉こんぎょく

・「チャ・チャ・チャ・お茶メンコ/アントニオ古賀」

 今回も5曲を選出。普通に楽曲として完成度が高かったり、思わずズッコケてしまう感じの作品を選ばせてもらった。スピード感満点でナナさんボイス炸裂の「真赤なブーツ」、一見爽やかだけど子供が演歌調で歌うため違和感だらけの「ファイナル・テニス」、楽しそうだけど何やってんだオイ!とツッコみたくなる「スキーは楽し」、アーティスト名に引きずられそうだけど滅茶苦茶格好いい「下っ端」、そしてさすがはアントニオ古賀だと思わせてくれた「チャ・チャ・チャ・お茶メンコ」。どれも捨てがたい。

 ここからいよいよベスト5の発表です。さあ、3ヶ月分の最高位は……

<ベスト5>

・第5位「ツァラトゥストラはかく語りき/TEMPLE CITY KAZOO ORCHESTRA」

 はっきり言うと「物凄く馬鹿」。真っ昼間から電波に乗ってオンエアされた事自体が奇跡だろう。しかし曲の壮大さはきちんと伝わってくるため、馬鹿なように見えて真剣に演奏してるのでは? と思わせてくれる点が良い。こんなに宇宙を感じられるカズーも無いと思う。彼らはやり遂げたのだ。

・第4位「父ちゃんが欲しい/赤城マリ」

 初っ端から「父親が煙になった」ときたうえに「母親のところへ行った」である。一番を聴いた時点でまあ滅入ること。それだけの苦境に立たされながらも、幼い弟を抱えながら父の屋台を守ろうとする健気さが泣ける。そんな曲をアレと呼ぶのもアレだが「父ちゃんが欲しい」という題名だけでは想像も付かない悲壮感はやはり「アレ」だとしか言いようがない。

・第3位「ドッグ・ドール/高尾真美」

 まずジャケ写がちょっと怖い。そして曲自体も、視点が人間と犬との間でコロコロ変わり、どこがAメロかBメロか、そしてサビなのかもよく分からないまま終わる迷走感が実に不穏。そもそも「ドッグ・ドール」って犬か人形なのかよく分からないのもまた。犬を人形みたく可愛がる、ってこと? その逆だとしてもやはり意味不明。B面も聴いてみたかったな。

・第2位「ノダヤのおじさんから/東京都立石神井高等学校 第34回卒業記念レコードより」

 これは曲なのか? と思えるがれっきとした曲である。『タモリ倶楽部』ではレコード自体が部分的に紹介され、こちらもオンエアされたがフルバージョンは初。そもそもこんな盤が紹介されること自体SSレアですが……挨拶から始まり、時間が余ったからと「南国土佐を後にして」を歌い上げる展開。それはアリなの? となりつつも、おじさんの人柄が感じられるのは大変良いですね。

・大賞「戸籍はちゃんと知っている/信濃町立保育所保母会」

 もう、これしかありませんでした! 森を感じる効果音から、ピアノ一本で歌い上げるママさんコーラスのシンプルさと、曲間に入る「戸籍とはどういうものか」を語る子供の台詞といい、全てに清々しさを感じる。「元気に歌いましょう」の掛け声は伊達ではない。歌ってみると本当に元気になれるし気分もスッキリ。もちろん、子供の台詞も全部歌いましょうね。戸籍がどういうものかも分かるし、記念歌としてのド直球ぶりも素晴らしい。そのメッセージ性、しかと受け止めました。
 曲を紹介してくれた甲本ヒロトさん、本当にありがとうございます!


<終わりに>

 これにて「アレコード備忘録」も終了となります。
 一個人の、どうってことない感想をまとめただけですが、それでもこのマガジンはやりがいのあるものでした。毎週の楽しみであり、自分の中にある思いや考えをアウトプットする貴重な場でした。

 いつだか「アレコード」を「『うさんくさいポップス』や『コサキンソング』の真似だ」と評する方もいたそうです。「これはアレコードではない」という方もいたとか。確かに、それらの番組で既出の曲が紹介されたのは、オンエア曲をみれば一目瞭然ですし、人によっては「アレではない」と捉える方もいるでしょう。

 ですが、伊集院さんの言う通り「それは誰のものでもない」のではないでしょうか。それら珍盤にとって一番大切なのは、時おり「掘り返す」「天日に晒す」ことなのですから。
 過去のヒット曲(※特に昭和)はしばしば「懐かしの歌謡曲」として紹介されます。「売れた」「話題になった」という形で人口に膾炙したからこそ「懐かしい」と振り返ってもらえる機会を得ているのです。しかしその裏には、そんな機会を全く得ないまま音楽史に埋もれてしまった楽曲が山のようにあることを忘れてはいけません。

 例えば和田アキ子さんのような超大物歌手でも『笑って許して』『古い日記』『あの鐘を鳴らすのはあなた』といったメジャー曲は有名ですが、ホンガホンガの『晴れのち曇り』はどれだけの方が覚えていたでしょうか? 今までどれだけ振り返られたでしょうか? 
 山のようにシングル盤を出しているアッコさんですらこれです。誰にも注目されないままレコード屋の片隅に陳列され続け、いつしか中古市場へと流れて表舞台から消えていく曲がどれほどあったでしょうか。
 私達が日々観ている音楽史は所詮氷山の一角に過ぎず、こんな文章を書いている今現在でも、世に放たれた楽曲の中で後世へと語られるのはほんの一握りで、それ以外の作品はいつの間にやら歴史の中に埋もれてしまうのでしょう。それが現実です。

 ……しかし世の中には、埋もれてしまった歴史をほじくり返すのが大好きな人達もごく僅かながら存在します。そんな人達が時折「こんなのを見つけた」「こんなのがあった」と取り上げます。それらが話題となって「伝説」のように語り継がれます。これが「うさんくさいポップス」や「コサキンソング」そして「アレコード」なのです。

 そして歴史をほじくり返すのが大好きな人達は、どの時代にもいるという点を忘れてはいけません。聴きどころはどこか、この歌詞の面白い点は何か……と、どう取り上げるかは人それぞれです。何より、時代及び人によって価値観は変わります。なので、何をもってして「アレ」とするかは自分にも分かりません。伊集院さんのいう「『いいラジオ』とは何か?」と同様に、決して結論の出ない、個々人の感覚に委ねられた概念なのでしょう。

 今は過去から語り継がれた「アレ」と今新たに語られる「アレ」が混在している状態です。「これもアレなのでは」と発掘される一方で、いにしえからあるモノが再び取り上げられる。これは当然の流れでしょう。そもそも「うさんくさいポップス」どころか「コサキンソング」を知らない世代の人達もいるのです。時おり掘り返して天日に晒さねば、最終的にそれらの楽曲は好事家の間だけの存在になり、いずれは歴史をほじくり返したくなる人がいなくなってしまうでしょう。

 だからこそ「アレコード」のコーナーは貴重でした。夜の枠及び深夜枠で紹介されるような珍盤が、太陽の登りきらない午前中に堂々とオンエアされる。そんな機会が無くなってしまうのは、珍盤好きとして残念さを覚えると同時に
「また掘り返してくれて、ありがとうございます」
 という感謝の念しかありません。改めて御礼申し上げたいと思います。

 しかし心の奥底では、「アレコード」という名前でなくとも、またどこかでこんなコーナーが復活するのではないかという期待もあります。「アレ」な曲を追いかける、すなわち埋もれた歴史をほじくり返す行為は間違いなく誰かの琴線に触れていたはずです。

「……そういえば、昔伊集院光がラジオで朝っぱらから変な曲ばっかり流してたなぁ。あんなのをまたやってもいいよな」

 そんな人がいることを信じつつ、筆を置きたいと思います。
 本当にありがとうございました。


アレコード備忘録・終


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?