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労基申告マニュアル(暫定版)


こんにちは。あらきん(@arakin_1019)こと弁護士の荒木優子です。

今回は、とにかく沢山働いているのに残業代(時間外手当)が一切支払われていないという勤務医のドクターの架空のケースを題材に、労基署にその違反の事実を申告にいくまでの流れについて説明したいと思います。

あくまで一例ですので、労基に相談に行かれるときには、事前に行く予定の労基署に電話で確認しておくことをお勧めします。

1.勤務医のドクターからの相談内容(あらきんが創作した架空の事例です)


雇用契約書では始業時刻は8時30分、終業時刻は17時30分ですが、私を含めて医師は、始業時刻より前に出勤をして回診等の病棟業務を行うことが常態化しています。
また、定時は17時30分ですが、定時に退勤できることはまずなく、早くて20時、遅いと24時近くになってしまい、時間外労働が常態化しています。
しかしながら、時間外手当は一切支払われていません。
また、当直時間帯に入っても、通常業務が続いていたり、深夜も頻繁に起こされたりして、十分な睡眠が取れません。
当直時間中に緊急で処置を行う場合もありますが、処置を行っても当直手当とは別に、時間外手当は支払われません。
私としては、引き続きこの病院に勤務したいと思っていますので、労基署が当院に介入して労働環境が是正されることを望みます。

2.事前準備

事前に資料を準備してから労基に行くとより効果的です。事前に準備する事項についてお話したいと思います。

まず、「労基に相談に行く!」「労基に駆け込む!」というのを法的にどのような手続きに当たるのか整理しておきます。

労働者が労基署に対して職場の労基法違反の事実を申し出ることを「申告」(労働基準法104条1項)といいます。

(監督機関に対する申告)
104条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

(1)資料の準備
労働条件が確認できる資料や実際の労働時間が分かる資料を準備しましょう。
監督官に渡す分として1部、手元に残す分として控えを最低1部用意しておきましょう。

・雇用契約書、労働条件通知書
・就業規則、給与規程
・給与明細書/1~2年分
・タイムカードの打刻※
※毎日の出退勤時間が分かるもの/1~2年分
・勤務表(シフト表)、当直表、オンコール当番表/1~2年分
・当直中の業務の内容・時間を記載したメモ/過去1か月分~※
※当直が宿日直の許可基準を満たさないハードな当直ということを労基に訴えたい場合
当直中の通常業務(処置、オペ等)について、時間外手当が支払われないない場合
・労基に訴えたい内容をまとめたメモ※
(※労働基準法等の労働関係法令の違反の是正になります)
・名刺

(2)労基署の管轄の確認
相談先⇒勤務する病院の所在地を管轄する労基署に申告に行きます。
例えば、医療法人の本院が東京都千代田区にあっても、勤めている病院が港区にある場合は、三田労働基準監督署が管轄になります。管轄については、インターネットで検索できます。

【都内の労基署の管轄一覧】

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/kantoku/list.html
【大阪府内の労基署の管轄一覧】
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/list.html

(3)管轄の労基署に電話で事前確認
⇒管轄の労基署/持参資料/相談時間等を念のため確認しておきましょう
 労基署では、労働相談も行っているので、労基法上の「申告」をしたい旨、申し出ましょう。

⇒労基署の相談先
方面(労働条件・解雇・賃金) 労基署の監督官が対応

労基署が監督権限を有しているのは、労働基準法等の労働関係の法令違反となります。

(例)残業代の未払、休憩時間を付与していない等


3.相談当日

労基署に直接行きましょう。(予約不要)
監督官の指名があれば予約も可能なようですが、普通は、どのような監督官が在籍しているかも分からないと思いますので、直接行って、職場の労基法違反について申告したい旨、申し出ましょう。
私が同行したときは、所要時間は1時間前後でした。
勤務医本人が話をしながら適宜、監督官の質問に答えていく形です。
その中で、労基法違反の事実が疑われた場合に、監督官より、調査をする等の話があると思います。労基法違反の事実を裏付けるため、資料の準備は重要だと思います。
資料を渡して、連絡先を書いて終了です。

その後、監督官から連絡先(携帯)に問合せ等があります。監督官(労基署)からの連絡は、基本的に電話です。

4.さいごに

大学病院の勤務医の医師が労基署に申告に行き、労働環境、待遇が改善されたという話は以下のnoteを参照ください。

当直勤務がハードなのにわずかな手当しかもらえないのは何か変という疑問については、以下のnoteを参照ください。


(おわり)

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