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外からの視点(1955文字)

前回の記事で宇宙について書いた。

で、宇宙から見た地球、ということを思った。

そうしたら、311を連想した。

東日本大震災が起こったあの瞬間、僕は職場にいて、コピー機にしがみいて揺れに耐える女性スタッフを不思議な気持ちで見た。

妻は渋谷に出掛けていて、携帯に電話するも繋がらなかった。

やがて職場のテレビに津波の映像が流され始めた。

田畑が侵食され、走る車が呑み込まれそうになるのを俯瞰的に見詰めた。

宇宙から見た地球、ということからそれを連想したのであった。

――さて。

僕は、僕の皮膚により外界と隔てられ、この皮膚の内側が僕で、外側が僕以外であるように感じている。

例えば津波に襲われている僕だったら、僕は僕という個人視点でそのあらましを捉えるだろう。

視覚聴覚嗅覚味覚触覚などにより。

でも、職場でテレビを見ている僕はあらましを、上空から鳥のように俯瞰的に捉えていたわけで。

日々の暮らしに忙殺されている僕らを宇宙空間から眺める視点のような視点で僕は事態を捉え認識していたわけだ。

無論、認識しているのは僕という個人の脳であったわけだが、つまりは僕という一個人が認識しているに過ぎなかったわけなのだが、ヘリコプターだとか、テレビカメラだとか、中継技術など、そういうさまざまな、僕という個人の外にあるシステムに助けられる形で脳は事態を俯瞰的に認識し得ていたわけで、要するにあのような認知や認識は、僕個人の器官によりてのみなされ得たのではなく、僕の外にあるさまざまとの協調関係の末に脳が状況をacceptし得ていたといえるのだと思う。

となると、最終感受点こそは僕個人の脳であったわけだが、認識行為は、僕の内側によりてのみならず外側との連携によりなされていたのだから、つまり僕のこの目や耳と同じように、カメラやマイクが外界を知覚したことを脳が受け取っていたわけで、だとしたら、僕の内側と僕の外側を明確に区分けすることにたいした意味はないのではないかと思えてしまったりもする。

つまり、津波の映像を僕は、変に静かな、脱感情的なあり方で見詰めてしまっていたのだけれど、宇宙空間から地球を見る視点は、あれに似た、脱個人というか、超個人というか、この体に似つかわしいスケールを遥かに逸脱した「外からの視点」であるように、ふと、思えたのである。

311を僕が、ヒトゴトのように眺めていたということではない。津波に襲われている車を、自分が運転している車であるかのように錯覚するほどに当事者意識がむしろあった。そう、311の渦中にこの僕も確かにいた。でも、内側にいつつ、同時に、なんだろ、事態のスケールがあまりにあまりだったので、だからかもしれない、外側にもいたのだ。カイリしていた、というか。とても客観的な気分であった。

こんな認識を語るのに311を持ち出すことの不謹慎さを自覚しつつも、敢えて脱感情的にこれを書きながら、同時に僕が思うのは、Internetが発達した現代において、僕ら一個人たちというのはまさしく地球の脳細胞たちみたいなものかもしれないなあということであったりもする。

AI――、「人工知能」、だなんていうけれど、一個人たちの知性を統合的に集約するこの集合知は、技術においてこそ人工的なれど、そのあらましそのものは、決して「人工的な」ものではなく、むしろ「自然な」ものであるのかもしれない。個人たちが自然に知性を関連させ合うことで自ずから生まれてくる集合知がAIであるのだとしたら。

何が書きたかったかというと、僕ら一個人は僕ら一個人を生きながら同時に、僕ら一個人たちが統合された中心点の視点に今、目覚めつつあるのかもしれないということ。

それは、津波を空から俯瞰してしまっていたような、宇宙ステーションから地球を見おろしているような、そういう、ある種さめた(覚めた、醒めた、冷めた)、人間的ではない、ぬくもりのない、言ってしまえばいくらかAI的な、「外からの視点」なんじゃないかと。

知性のど真ん中(コア)は案外、「外」に通じているのではないかと。

その視点って、もしかしたから神さまの視点に似ているのかもしれない。絶対的な孤独を背負った、限りなくニュートラルな視点。

これを、「愛」に似ていなくもないかな――と捉えてしまう僕は、すでに十分に非人間的な存在に成り果ててしまっているのかもしれない。

五感を駆使した外界認識、という内側からの視点とは対照的な、外からの内に対する視点。

これってCopernicus的な大どんでん返しになり得てしまう何かだったりして……だなんてキケンなことを想いつつ、しかし引き返し、夕飯のオカズは何かなーと思い巡らす一個人の内側に帰着することで筆を置きたい。

なんかなーんの役にも立たないことを書いちまったなあ。ま、いいか。

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