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時代に揺られる隅田川のあり方 前編 -荒川区景観まちづくり塾2022 〈第2回講座〉-

荒川区景観まちづくり推進委員、委員長の山本です。
このnoteでは、私たちの委員会による景観まちづくり活動について記しています。
今回は、2022年9月17日に開催された荒川区景観まちづくり塾2022〈第2回講座〉について。

第2回の講座は、隅田川【講義編】です。
テーマは、隅田川の概要と水辺を活かしたまちづくり。

今回は前編。
荒川区に住む人々が隅田川とどんなふうに関わってきたのか、荒川区景観まちづくり推進委員の原澤優介 委員にざっと振り返っていただきます。



1. 話題提供:くらし・産業からみる隅田川と街

原澤優介 委員(荒川区景観まちづくり推進委員)

全長23.5kmのうち8km、つまり約1/3が荒川区に接する隅田川。
実際に荒川区に暮らしてみると、意外と川と関わることが少ないかもしれません。それでも、これまでを振り返ると川と関わりながら街があったことがわかります。
時代ごとに見てみると、江戸期の「A. くらしと共にある隅田川」、明治から昭和前期にかけての「B. 産業と共にある隅田川」、昭和後期から現在までの「C. 水辺空間の回復」と大きく3つに分けることができそうです。


A. くらしと共にある隅田川

名所江戸百景 千住の大はし

時代は江戸。家康の命により江戸で初めて架けられた千住大橋。日光街道を行く人の様子が錦絵として描かれています。当時、橋のたもとには、隅田川を利用して上流より運ばれてきた木々を扱う材木問屋が建ち並んでいました。
川にはいくつかの渡しがあって、現在の白鬚橋あたりにあった「橋場の渡し」は都鳥が飛来する名所でした。

江戸名所花暦 尾久原桜草

また、現在の尾久の原公園からほど近い場所では、江戸の人たちがピクニックを楽しむ姿も見られました。ピンクに咲いているのはさくら草。川に目をやると、網を広げた漁師が見えますが、これは白魚漁をしているところ。白魚の“白”とさくら草の“紅”、これを紅白の手土産として楽しんだという話もあるようです。
農村地が広がっていた荒川区。こういったのどかな風景は、明治期になっても、しばらくは広がっていたようです。
しかし、水流の利便性や豊かな土壌を生かした産業が生まれ、少しずつ状況が変わっていきます。


B. 産業と共にある隅田川

明治期に入り、隅田川沿いにはさまざまな工場が建ち並ぶようになります。
隅田川が氾濫し流域に堆積した「荒木田土」はレンガの原料に適しており、西尾久にはいくつかのレンガ工場が出来ました。

このうち1つ「広岡工場」は廃業後、1922年にあらかわ遊園に。現在も遊園近くに煉瓦塀が残っていますが、こちらは荒川区の文化財に指定されています。
隅田川沿いにあるあらかわ遊園は荒川区の「水×景観」の代表的なスポットですが、レンガという素材もまた水に通じていたというのはとても面白いお話ですね。

他の産業では、汐入や尾久には造船所がありました。
いずれも現在は無くなってしまいましたが、尾久にあった「デルタ造船所」でつくられたレガッタでボートレースも開催されていました。

また、水利を活かして、南千住には官営工場が出来ました。
軍服用の毛織物を製造し、日本の羊毛工業を牽引しました。
街中に今も残る煉瓦塀が当時の工場の様子を忍ばせます。
このようにして、近郊農村だった荒川区域の景観は、工場が並ぶ街として一変していきました。

そして明治30年になると、石炭、木材、砂利などを東京の市街地へ運ぶ拠点、隅田川貨物駅が開設。
敷地内にフォーク状の運河をつくり、隅田川の水運と連絡する仕掛けです。

しかし、昭和に入ると輸送手段は河川から車、トラックに移行。
運河は埋め立てられ、水上輸送は幕を閉じることとなります。
(駅は現在も貨物列車専用のターミナルとして使用されています。)
当時の記憶を伝える遺構として、水門跡が汐入の瑞光橋公園に残されています。

昭和35年になると、化学工場や家庭からの排水により、隅田川の水質は大幅に悪化。社会問題となっていきます。
白魚やしじみなどの漁、花火大会、レガッタのボートレースなどは開催できなくなってしまいます。


C. 水辺空間の回復

昭和34年の伊勢湾台風を契機に、直立護岸のカミソリ堤防が整備されます。
これにより高潮など水害は減少したものの、地域のくらしと水辺が隔てられてしまうことに。冒頭、荒川区民でも川と接する機会が少ないのではと書きましたが、このカミソリ堤防もその理由のひとつかもしれません。

その後、下水道の整備、排水規制などにより少しずつ水質は改善していくと、このカミソリ堤防を変えようという機運が高まります。
昭和60年以降、水質改善や市民の要望を経て、カミソリ堤防から川と街を緩やかな丘で繋ぐスーパー堤防への置き換えが進められていきます。現在では、区内の隅田川に接する部分8kmのうち、約50%がスーパー堤防に置き換えられました。

整備が進む荒川区の親水空間をどんなふうに育てていくか、これからのまちづくりの大きなポイントですね。
隅田川とどう関わろうと考えてきたのか。時代によってゆらゆらと揺れる隅田川の価値。その揺れ動く様は、今も街のさまざまな場所に痕跡として残されています。


さて、後編ではゲスト講師に東京都と荒川区の担当者をお招きし、座学で隅田川や、川と荒川区の関わりについて学んでいきます。

後編はこちら


荒川区景観まちづくり推進委員 委員長 山本展久




荒川区景観まちづくり塾 2022 〈第2回講座〉
・内容:隅田川【講義編】
・日時:2022年9月17日(土曜日) 13時30分〜
・場所:ひぐらしふれあい館(東京都荒川区東日暮里六丁目 28番15号)
・講師: 加賀屋博文氏(東京都建設局河川部計画課低地対策専門課長)、川原宏一氏(荒川区防災都市づくり部参事都市計画課長)
・話題提供:原澤優介氏(荒川区景観まちづくり推進委員)
・司会:大野整氏(荒川区景観まちづくり推進委員)、菊池晃央氏(荒川区景観まちづくり推進委員会 学生委員)

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