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【試し読み】S-Pモデル私案──科学を血肉にして動き応答し続ける実践家の集団(小田友理恵)

はじめに

 本稿では、新しい心理学のかたちを考えることにもつながる、科学者-実践家モデル(Scientist-Practitioner Model:以降S-Pモデルと略します)の新しいかたちを提案します。S-Pモデルに関するこれまでの私の研究経験だけでなく、臨床歴6年目のカウンセラーとしての私の経験も踏まえながら、来たるべきS-Pモデルについて論じてみようと思います。

 S-Pモデルはその名のとおり、クリニカルサイコロジストが「科学者かつ実践家」であることを求めるモデルです。1949年にアメリカ心理学会のボウルダー会議で採択されて以来、臨床心理学にとって重要な考え方の1つとして位置づけられています。たとえば、「S-Pモデル」は、心理職の国家資格である公認心理師の試験において第一回から現在まで継続して出題基準に含められています。公認心理師が制定されるまでは、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する臨床心理士が心理職として広く社会的に認知されて活動してきましたが、臨床心理士の養成課程においてもS-Pモデルが強く意識されてきました。

 日本でのS-Pモデルに関する議論では、従来、欧米流の自然科学的なS-Pモデルを体現すべきであるという主張と、日本独自の自然科学に限定されないS-Pモデルを確立すべきであるという主張の、大きく分けて2つの論調が存在してきました。現状では、エビデンスを重視する時代背景を受けて前者の流れの延長上の意見が多数を占めているように見えますが、後者も主にベテランの臨床家の方々を中心に根強い支持があるように見えます。しかし、双方の意見は平行線を辿り、手を取り合って目指すべきモデルを示せているとは言えない状況です。そして、理論的な議論が深まりきらないまま、主に政治的な妥協点を探りながら(もちろんこれはこれで大切なことですが)実際的で具体的なカリキュラムが決定されてきたようにも見えます。

 今後、国家資格・民間資格を問わず、心理の専門知識を用いて対人援助を行う専門家がますます増えると予想されています。そのため、クリニカルサイコロジストの在り方を問うS-Pモデルについて、議論をより深める必要があるでしょう。そこで、私自身がこれまでの研究や実践、見聞きし体験してきたことをふまえ、私自身の現時点での理想のS-Pモデルのかたちを提案することによって、S-Pモデルに関する議論を呼びかけたいと思います。

S-Pモデル私案

……(続きはRe:mind Vol.1にてお読みいただけます)


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