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やっと。やっと。

 あっ、今日はワタシの出番みたいね。

 やっと呼び出しを受けたワタシは、ずっとこの時を待っていた。

 隣のあの子が呼ばれたのは3日前だったっけ。ワタシの前にいたあの子が呼ばれたのはもうずいぶんと前の事だったし。どんどんと周りの子たちが呼ばれていく中、ワタシはどうしてかいつまでたっても呼ばれなかった。

 ワタシに足りないものはナニ?

 普通の子たちが持っているものは手に入れてきたはず。ちょっと無理して合わせていたところもあるけど、ぱっと見はワタシだって普通に見えるわよね。「自分をアピールしないとこれからの時代やっていけない」って色々な場所で言われているから、主張するのは苦手だけど頑張ってるし。周りの子たちみたいに大々的にアピール出来ていないから、ワタシを知ってくれてる人はほんの少ししかいないけど、それでも頑張ってるんだよ。

 でも最近、そういう数にとらわれている自分に疑問を持つことも増えてきたんだよね。悩むくらいならちょっと距離を置いてみようと思って、近頃はそっちより自分の周りに気を付けるようになったんだけど、もしかしてそれがよかったのかな?

 よく言うよね。求めているときは手に入らないけど、何かを諦めた時に素晴らしいものが手に入るって。信じているフリをしていたけど、信じている部分はほんのゴマ粒程度だったワタシ。そんな気持ちがバレていたから手に入らないと思ってたけど、本当だったんだね。


 って、こんな感傷に浸っている場合じゃなかった。時計を見ると、もう2分が過ぎてしまっている。

 ワタシに与えられた時間は5分間。

 あと5分あると思っていたのに、いつの間にか半分近い時間がいつの間にか過ぎ去ってしまっている。いつものあの場所で過ごす2分はとてつもなく長く感じたのに。あの場所からでも見えるこの場所は、実は時間の流れが違うんだろうか?並行世界?いや、そんなことないよね。だって、ワタシが出てきた場所はワタシの分だけスキマが空いているし、ワタシを送り出してくれた後ろの子だって、まだこっちを見て応援だってしてくれている。


 あと1分。

 あーーーー、ヤバイヤバイヤバイヤバイ

 今までの事を振り返ってたってしょうがない。ワタシがスポットライトを浴びる瞬間にすべてを出し切らなくっちゃいけないんだから。


 あと30秒。

 そっちからは見えないかもしれないけど、ワタシの頭の中には汗の粒がキラキラと輝いている。このひとつぶひとつぶが今までのワタシの努力の結晶だ。

 あと15秒。

 ワタシ以外からは、ものすごく平気な顔をしてすましているように見えるかもしれない。でも、ワタシはお腹の中がぐるぐるするくらいにピークを迎えている。

 油断すると頭から湯気が上がりそう。もうちょっと。もうちょっと。


 あと5秒。

 もうここまで来たら覚悟を決めるだけ!自分を信じる!信じる!大丈夫!


 0!

 さあ、開幕!


 ……あれ……
 扉が開かない。なんで?どうして?

 今この瞬間に開けてもらえれば、ワタシの一番最高な出来上がりを感じてもらえたのに。


 仕方がないので時間通りに開かない扉を横目にみながら、ワタシはふてくされてのんびりと体を伸ばすことにした。

 あぁ、体中の力が抜けていい感じにほぐれてきたわ。

 こんなのもいいかもしれないわね。緊張でカチカチになってしまった体をほぐしてほぐしてほぐして…

 ダラーっと体を伸ばしきり、ウトウトとし始めた時にふと目の前が明るくなった。


「やっぱりカップラーメンは伸び切ったのがうまいよな」

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