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極貧詩 339           旅立ち㉔

卒業式の後の宝物のような時間
担任の先生からの珠玉の「はなむけ」の言葉
順番にヤッちゃん、シゲちゃん、俺に語り掛けてくれる

語り掛けはさらに続いていく
話は小学生時代にさかのぼっていく
先生は俺たち3人の顔を順番にゆっくり見ながら話す

貧乏な子供たちの唯一の味方、安藤先生から聞いた話だという
俺達も先生の話に口をはさむ

「頭のてっぺんから足先まで貧乏がまとわりついていたそうだな」
「そうかもな、ひでえ格好してたんだんべなあ」
「ヤス、シゲ、イチ、気を悪くしないでくれよ」
「気なんか悪くしませんよ、本当の話ですから」
「お前たちが本当に頑張ってきた歴史の話だからな」
「歴史かあ、ちょっと大げさだなあ」
「お前たちは朝から腹がグーグー鳴ってたっていうことだ」
「そうかあ、聞こえていたんだんべなあ」
「さぞかし腹が減ってたんだろうなあ」
「確かに、量も少なかったからな」
「継当てだらけの服はクラスの中で目立っていたそうだ」
「どうってことなかったよ、お袋が一生懸命継当てしてくれたんだから」
「浅黒い顔をして、いつも鼻を垂らしていたっていうぞ」
「寒い朝だって学校に行く前に畑仕事やってたからな」
「お前たちの目が一番輝くのは給食の時だったって」
「そうだな給食はなんつっても一番の楽しみだったからな」
「授業の時間は上の空で集中力はゼロだったそうだね」
「だって聞いてても何にもわからなかったからなあ」
「ところが休み時間になると勢いよく校庭に飛び出して行ったんだってな」
「給食の次に楽しみだったなあ休み時間だったからな」
「掃除や各先生の手伝いは進んでやっていたそうだな」
「掃除なんてチョロかったよ、先生の手伝いすると褒めてくれたし」
「家でろくなものを食べていない様子だったけど体力はあったそうだよ」
「多分毎日の給食のおかげだんべ」
「3人とも小さいころからよく家の手伝いをしていたんだってな」
「手伝わねえと家族が大変だからな」
「遠足とか、社会科見学のような学外行事は時々休んだんだってな」
「いやあ、行きたくなかったよ、みんな余所行きの服着てきてたしな」
「参加費とか着るモノ、履くモノなど幼いながら気になっていたんだろう」
「給食費だって払えねえのに、そんな金なかったもんな」
「時が進んで体も大きくなっていっても家庭状況はあまり変わらなかったんだね」
「そんなに急には変わらなかんべな」
「でも相変わらず元気に学校生活を楽しんでいたんだね」
「学校はホントに楽しかったよ、なんせ仲良し3人組だったから」
「安藤先生がお前たちのことは本当に褒めてたよ、よく頑張ってたってな」
「本当に安藤先生にはよくしてもらいました、俺の中では村で一番尊敬できる、偉い人でした」
「今のお前たちを安藤先生が見たら泣いて喜ぶだろうなあ」
「俺達もまた会いたいと思ってます、今度安藤先生にあったらよろしくお伝えください」
「わかった絶対伝えておくからな」
「はい、ありがとうございます」

担任の先生は笑顔満開で俺たち3人を見ている
「ヤスッ!」
「はい!」
「シゲッ!」
「はい!」
「イチッ!」
「はい!」
「よしっ!いい返事だ!頑張れよ!お前達なら大丈夫だ!」
「最後にイチッ、お前に言っておきたいことがある!」

最後に言っておきたいことって何だろうか、と少し緊張して先生の言葉を待った


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