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『重力波発見の物語』発売

2021年が幕を開けました。今年は年明けから先が見通せない雰囲気ですが、私は私にできることを1つ1つやっていくしかないなと思っています。大きなことはできません。小さなことからコツコツと。ですな

今年は年始から縁起がいいことに、著書が発売されました。『重力波発見の物語』です。技術評論社の編集者から「何か本をつくりませんか」と声をかけられたのが2017年の夏頃だったと思います。そのとき興味をもっていたというか、何となくおもしろいかなと思ったのが重力波。そこで、私は重力波をテーマにした本をつくることを提案し、その企画が通ったことで実際につくることになりました。

重力波は、2016年2月に初観測の発表があって、世界中が沸き上がりました。そして、2017年のノーベル物理学賞を受賞したテーマです。でも、重力波は、多くの人にとってはあまり馴染みのない分野でしょう。でも、重力波の観測は、これからの宇宙の研究、特にブラックホールや中性子星など、これまであまりよくわかっていなかった天体をより詳しく知るための重要な観測になると思います。というか、ブラックホールに関してはもうなっています。

ただし、重力波研究のすごさをある程度納得するには、前提となるものごとを知っておく必要もあります。そこで、この本では特に重力とは何かに迫ってきた物理学の流れを簡単に紹介するところから始めました。

調べてみると、重力波の研究はいきなり大型観測施設ができたのではなく、紆余曲折がありました。世界で初めて重力波の直接観測に成功したアメリカのLIGOも直線的に成功に向かったわけではありません。たくさんの人たちの協力や忍耐があって、LIGOが完成し、重力波観測に成功したのです。

調べて書いているうちに、最終的に、重力波研究の歴史をひもとくような形になりました。私たちは、観測成功の結果だけを聞くことが多くで、簡単に観測できてしまうような印象を持ってしまいますが、そこに至るまでには長い道のりがあったのです。

とまあ、中身の話はこのくらいにしておいて、企画が通ってから素早く形にすることができればよかったのですが、この本の進行はあまりスムーズに進みませんでした。その理由はいろいろと複雑なので、あまり多くを語りませんが、ひと言いうとすれば、フリーランスはいろいろな仕事をしないと生きていけないってことです。

この本は、もともと文章だけでなく、イラストを多めに使って構成することが決まっていました。といっても、最初は簡単なイラストをつけるようなイメージです。イラストを誰に書いてもらうか具体的に考えるときに、ごみたこずえさんがいいのではないかと思いました。

ごみたさんは、私が以前、トークイベントに参加したときに、声をかけてくれた人で、かわいいイラストを描くなと思っていました。しかも、物理学のバックグラウンドがあるということだったので、うってつけだと思ったのです。

編集者からごみたさんにオファーしたところ、引き受けて頂けるとのことでした。ごみたさんはいろいろなタッチで描ける方ですが、今回の本では、手書きで70枚以上の絵を描いて頂きました。それでオールカラーのとても贅沢な本になりました。

こういう物理学関連の本は、どんなにやさしく書いても、「難しい」という感想が聞かれます。筆者がどんなにわかりやすく書いたといっても、それは読者にとっては関係ないことで、読者が難しいと言えば難しものなのですが、ごみたさんのイラストは、見ているだけで満足感があると思います。

内容が難しいと思う人は、絵がかわいいという理由だけいいから買って欲しいな。

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こういう風に、おしゃれなカフェにもっていっても、何の違和感もありません。コーヒーや紅茶を片手にペラペラとめくっていたら、周りからも、注目されること間違いなし。絵を見ているだけでいいですよ。「どんな本ですか?」と聞かれたら、「何だか、宇宙の音が聞こえるみたいですよ」とそれっぽく答えておけば、「へぇ、そうですか」って感じで、何事もなかったかのように他の話題に行くでしょう。

あと、今回、私の初の試みは、事前に本の内容をチェックして頂くレビュアーをお願いしたということです。私は科学ライターという仕事をしているので、この本を書くためにいろいろと調べました。また、この本のため以外にも、日本の重力波望遠鏡KAGRAを始め、専門の研究者や関連の研究機関を取材してきました。

わかりやすい表現を使いながらも、専門的に間違いのないように気をつけていますが、外から科学研究を見ている立場なので、ニュアンスの違いなどが発生することがあります。そういうことがなるべく起こらないように、研究機関の中にいる人や研究者の方に原稿やイラストの下書きを見ていただき、意見をもらう取り組みをしました。そのような場合は、監修者を頼むのが一般的かもしれませんが、監修者となると責任が発生するので、おいそれと引き受けられないという雰囲気を感じる人もいるでしょう。

それよりももっとライトな協力関係として、原稿を読んで「もう少しこういう風にした方が誤解がないよ」とか、「正確に表現するとこうなるのでは」という意見を頂いて、その意見をどのように反映し、表現するのかは私の方で考えて反映していくというスタイルです。

そういう形で、研究の現場にいる人と協力関係が結べればと思いました。ただ、レビュアーは基本的にはボランティアでお願いすることなので、自分の仕事もある状況でなかなか頼みにくいなという気持ちはありました。でも、思い切って打診をしてみました。今回は自分にとって初めての試みであったことから、東京大学宇宙線科学研究所で、KAGRA広報を務める大林由尚さんに原稿全体に目を通して頂き、様々な助言を頂きました。また、日本の重力波研究のパイオニア的な存在である名古屋大学教授の川村静児さんにも、一部分だけでしたが、原稿を確認して頂きました。

さらに、国立天文台准教授の山岡均さんからは、別の仕事で連星中性子星、中性子星連星などの表現の使い方について、天文学の専門家の観点から貴重な意見を伺いました。結論から言うと、連星〇〇、〇〇連星という表現はいろいろとややこしい面があることがわかったので、この本ではそのような表現はやめて、「中性子星どうしの衝突」とか、「中性子星のペア」といった表現にすることにしました。

まだ完全ではないかもしれませんが、読みやすくて科学的にも間違いではない表現の本になったと思います。このような試みは今後もできる限り続けていきたいと思います。ただ、ボランティアでもいいと一肌脱いでくださる研究者の方のご協力と、余裕のあるスケジュールが必要なのですけれどね。

ここまで長く書いてしまいましたが、私の言いたいことをひと言に要約すると、「いい本なので、買ってください」となります。

ありがたいことに紀伊國屋書店新宿本店さんのTwitterでtweetして頂けました。お近くの人は、ぜひ、平積みを確認がてら、買いに行ってくださいね。

お近くでない方はこちらからどうぞ

あと、刊行記念とかでこの本についてのWebイベントも開けたらなと考えています。あまり人前で話したことがないので、需要がどのくらいあるのか、正直わからないですが、思い切ってトライしてみようかと思ってます。そのときは応援してくださいね。

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