2020年ノーベル生理学・医学賞予想

今年もこの季節がやって来ました。そう、ノーベル賞受賞者発表の季節です。ノーベル賞には科学分野の3賞があるためか、この時期は日本の中でも科学が話題になりやすいですね。ただ、日本人が受賞したときとそれ以外の国の人が受賞したときの報道の濃淡がありすぎるので、そのあたりは何とかして欲しいなと思います。

「今年のノーベル〇〇賞は、日本人の受賞はありませんでした」のひと言だけで終わってしまうのは、とても寂しいというか、日本人として恥ずかしいなという思いを抱きます。せめて、受賞者の名前と受賞理由くらいは第一報で広く報じて欲しいものです。

それはさておき、今年も恥も外聞もなく、予想をしていこうと思います。これは1年に一度のお祭りだと思って、私めも末席で騒ぎに参加しようと思うわけですよ。

去年の生理学・医学賞は「低酸素状態における細胞の応答」に対して、ウィリアム・ケーン博士、ピーター・ラトクリフ博士、グレック・セレメンザ博士の3名に贈られました。これはざっくり言ってしまうと、細胞内で酸素濃度の変化を感知して、その環境に順応するシステムを明らかにしたものです。

これは生命活動を支えるとても基礎的な機構を解明したことで、これだけでも大きなものですが、この発見はそれだけでなく、貧血症やがんの治療にも関係していることがわかった。例えば、この機構は、赤血球の数を増やして運動能力を高める作用もするが、がん細胞が血管を伸ばしたり、周りの器官に広がっていく作用も進めてしまうという。また、最近では免疫にも関係していることもわかってきた。

このように幅広い応用にもつながっていて、基礎研究だけでなく、医療にも大きな影響を与えたわけですね。恥ずかしながら、私はこのことを知らずにきましたので、まだまだ勉強しないといけないなと思いました。

前置きがかなり長くなってしまいましたが、やっと本題の予想に入ります。その前にここ10年ほどの受賞理由についておさらいしておきましょう。

 2007年 胚性幹細胞を利用したマウスの遺伝子改変技術
 2008年 ヒトパピローマウィルス(子宮頸がん)
      ヒト免疫不全ウィルスの発見
 2009年 テロメアとテロメアーゼ酵素(染色体を保護するしくみ)
 2010年 体外授精技術
 2011年 自然免疫の活性化、樹状細胞と獲得免疫
 2012年 リプログラミングと多能性獲得技術(iPS細胞)
 2013年 たんぱく質の細胞内での輸送(小胞輸送)
 2014年 脳内の空間認知システムを構成する細胞の発見
 2015年 感染症やマラリアに対する治療法の発見
 2016年 オートファージ
 2017年 概日リズムを制御する分子メカニズムの発見
 2018年 免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用
 2019年 低酸素状態における細胞の応答

これを見ても、あまり法則性がつかめるわけではないですね。ただ、受賞理由を眺めてみると、そろそろ生命操作に関連する技術の受賞があってもいいのかなと思います。ということは、ここ数年、毎年のように受賞候補として取り上げられるゲノム編集技術(CRISPR-Cas9)の受賞もあるかもしれない。ただ、CRISPR-Cas9は、特許紛争がまだ収まりそうもないので、まだ受賞は先になる気がするんですよね。

ということで、もう少し他の候補を挙げてみましょう。私が個人的に気になっているのが光遺伝学のカール・ダイセロス博士。彼は2018年の京都賞を受賞しています。これは、遺伝子を組みこんで、特殊なたんぱく質を発現させることで、光のON、OFFで細胞を制御できる技術といえるもの。この技術によって発展したのが脳科学分野。特に記憶についてのメカニズムなどの研究が進みました。

また、パーキンソン病やジストニアなどの治療法として注目される脳深部刺激療法を開発したアリム・ルイ・ベナビッド博士、マーロン・デロング博士もおもしろいと思います。

日本人では、細胞中でたんぱく質をつくる小胞体と呼ばれる小器官のつくられたたんぱく質をチェックして、変性したものを見つけ、修復、廃棄する機構を発見した森和俊博士、そして、今年、ガードナー国際賞を受賞した竹市雅俊博士が有力だと思います。竹市博士は、細胞間の接着分子カドヘリンを発見しました。カドヘリンはシナプス結合やがんの浸潤、転移などにも関係している。

それ以外に、おもしろいと思っているのが、食欲と体重を調整するホルモンであるレプチンを発見したダグラス・コールマン博士、ジェフリー・フリードマン博士。肥満は睡眠とも関係があるので、この2人とあわせて睡眠に関係するホルモンであるオレキシンを発見した柳沢正史博士が受賞したらかなりのサプライズになるのではないでしょうか。

と、今年の予想は数打ちゃ当たる方式よろしく、たくさん挙げましたが、結局、外しちゃうんだろうなと、今から戦々恐々としています。今年は新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行があったので、この出来事が受賞者選定に何かしらの影響を与えるかどうかが気になるところですがタイミング的に、世界的な流行となった3月あたりは、もう選定がかなり進んでいるはずなので、影響があるとすれば来年以降になるのでしょうね。

ということで、今年のノーベル生理学・医学賞がどうなるのか、今から楽しみです。


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