落ちたことに、気づかなかったことを僕が許すなんて。
4人10色
ー 鈴木の場合 ー
「いや、うん。なんていうか、ざまぁってお届けすればいいのかなぁ」
売店で1位2位を争う、人気の焼きそばパンに食らいつきながら(しかも、さっき鈴木がパシリに使われた品物である)昔馴染みの高菜は、おもちゃをみつけた3歳児のように笑む。
「お前ねぇ…、それ、仮にも敗北に打ちひしがれているオレに向ける言葉として適切なの?」
春が駆け足に過ぎて行き、元来、暑がりの鈴木の制服は半袖だ。屋上の日差しは6月特有の強さで、空気にはしめりが混じる。授業も下敷きをパタつかせないとおちおち受けれない鈴木と比べ、嫌がらせのように高菜は、薄いカーディガンを着用しているのだから、ムカつきに拍車がかかる。
「だって、顔だけは良いことに、ここに入学してから、何人もの女の子を泣かしたダメ男が、天罰のように望み少ない相手に焦がれちゃって、それに気づいちゃって、大ダメージ受けるとか、すごく爽快感あんじゃん?」
高菜の言葉に、鈴木はうっと小さく呻いた。確かに好き勝手して、飽き性の性格が災いして遊び人みたいなレッテルを貼られてはいるが、果たしてそれはオレの所為だけか?と常々、鈴木は思う。
理想を押し付けてきて、それに対して違う事を抗議すると彼女たちはすぐに泣くのだ。それを面倒に思って冷めるのは非道なのか?彼女らは一同に、非道と決めつけて、この男はひどい!と被害妄想よろしく遊び人のレッテルを噂話にのせて貼るのだ。
いつか、目の前で早くも焼きそばパンを完食しそうな幼馴染にヒシヒシと説きたいものだが、鈴木自身が上手くまとめられる自信がなく後回しだ。まったく思春期の感情とはやっかいだぜ…と無駄に賢ぶって鈴木は手の汗をスボンで拭った。
「だから…理想ぶつける女にも、問題あると思わねぇ?」
「それもまぁ、原因要素かもだけど。1番の原因はヤレそうと思ったら、付き合うワケでもなく、サカったお猿さんごとく頂く主義のナオヤくんがいけないと思う。」
こちとら、健全男子だ!据え膳ごとく差し出されたら、食すだろ。食すじゃん
⁈
「そんなヤツが、お堅い生徒会の風紀委員のど真面目なメガネっ子にどかん、と落ちるんだから面白いよ。飽きないよ、ナオヤくん」
「そうだよ…!あんな真面目くさった、口うるさいおかんタイプとかマジありえねぇ!ピアスがどうの、髪のメッシュがどうのうるせぇっての、な?オレのアイデンティティをとやかく言うな!授業はサボるけど、単位は落としてないってのほっとけ!あと、メガネを不意に外すな!意外と目がでかいとか、まつげ多いとか無駄に気づくだろうが!」
ぜぃぜぃと息を切らしながら、鈴木は思いの丈を叫んだ。屋上で高菜と二人きりなのが幸いと言わんばかりの大きな声だった。
口をモグモグさせながら、それを聞いていた高菜はごくんと生きる糧を飲み込むと爽やかに、昔馴染みへ止めを指した。
「そのくせ、ぎゅっと抱きしめたり、ケダモノのようなことしたいってんだから、末期だ。諦めなよ。落ちきってる」
「言うなぁぁあ、あほ‼︎」
そう。相容れない相性の女にうっかり落ちて、焦がれを苛立ちと勘違いしたあげく、落ちているのに気づきもしないで、合えば口論ばかり。
あなたみたいな人、不愉快です!とまで面と向かって言ってくる相手への気持ちのどこに希望を見出せるというのか。
あぁ、せめて。もう少し早くに気づけば、状況はマシだったかもしれない。
至極、真っ当に生活している…とは言い難いけれど、この仕打ちはなんなのだろうと、信じてもいない神様に問いかけてみるが、応えがあるわけもなく、身体がムズムズしただけだった。
「あーもぉー…」
大声で唸ろうとしたのに、実際、鈴木から出た声は、心底参ったと言わんばかりの掠れた小さな声だった。
さすがに不憫に思ったのか(もしくは腹が膨れたためか)高菜が、まぁ取りあえずやるから食いなって、とメロンパンを鈴木に差し出した。
「やるって…これ、オレがパシリで買ってきたやつなんだけど…?」
しかも、相談料。と代金は鈴木もちだ。
かも奢るような言い草に納得いかない。
「いらないなら、俺が食べるからよこせ」
「いや、もう、これはオレのだ!」
伸びてくる腕に抗い、乱暴に袋を開けると、まん丸のそれに鈴木はかぶりついた。そして日差しの強い屋上で、ヤケをおこして口に含んだそれを
ああ、甘いな。と噛み締めた。