五色ヶ原で過ごしたある夏の日
2020年の北アルプス山行。
その回数、わずか3回…。
2月あたりからにわかに騒ぎ始めていた感染症の影響は夏はおろか、この記事を執筆している師走の今もなお収束する気配などありません。当初予定していた今年の撮影山行の予定はすべて練り直さなければならなくなってしまいました…。
そんな状況下において3回 “も” 北アルプスに行けたのは実は良いほうなのかもしれません。
雨の雷鳥沢
本来の予定では室堂から薬師岳へと縦走する“ダイヤモンドルート”。しかし今年は梅雨明け後もなかなか天気は安定せず、さらに感染症の影響であまり無理な山行計画も立てられないので初日は雷鳥沢ステイ、2日目に五色ヶ原、3日目に室堂に戻る計画としました。
初日の朝の室堂は暴風雨。それでも雨の中びしょ濡れになりながら雷鳥沢でテントを設営後、お昼過ぎには雨はあがってくれました。
雨上がりの山の風景は大気中の埃や塵を洗い流してくれるためなのか透明度が高くて、夕暮れと早朝の立山連峰はそれはそれは感動的な美しさでした。
花の楽園『五色ヶ原』
花の楽園、雲上の楽園などと称される五色ヶ原はかの雲ノ平に似た台状の高層湿原。私は雲ノ平には幾度となく足を運んではいますが、この五色ヶ原に訪れるのはこの山行が初めて。
実際に歩いてみると室堂から頻繁に登り下りを繰り返す、なかなかに骨の折れる道中でした。とくに獅子岳からのザラ峠への激下り、そこから台状の五色ヶ原への再びの登り返しは歩きごたえがありました。
その最後の登りをやっつけるとまさに花の楽園と化した美しい五色ヶ原。花の種類と数は北アルプスのなかでもトップクラスと言えます。
雷鳥沢とは打って変わってとても静かな五色ヶ原のテント場。数日前までテント場の水が枯れているという情報がありましたが、少ないながらもしっかり出ていて安心しました。
テント場からは越えてきた壁のような獅子岳や裏銀座の山々の見事な稜線が美しく、色とりどりの花々とともに最高の癒しを提供してくれました。
夕暮れはその獅子岳が赤く染まるアーベントロート。場所を変えずともこのテント場自体が北アルプスの展望台のような素晴らしいロケーション。
しかし夜は残念ながらすぐに雲に覆われて美しい星空をゆっくり堪能することは出来ませんでした。
3日目は早朝こそ晴れ間がありましたが、すぐに小雨。室堂までの帰りの道中は雄大な北アルプスの素晴らしい景観は全く見られなくて残念でしたが、その分足元で雨風に負けず健気に咲いている色彩豊かな花々が愛おしく感じられました。
そして最後の最後、龍王岳の山頂手前で雷鳥ファミリーが出てきてくれました。母親に雛が3羽。中でも甘えん坊の1羽の雛が風を凌ごうと母親のお腹の下にもぐっていく姿は本当に可愛らしかった。
テント場の要予約
幸いこの山行においては雷鳥沢・五色ヶ原ともにテント場は予約など必要なしに利用することができました。今年は山小屋だけでなくテント場でさえも要予約のところが多かった。テント場の予約は考えようによってはいわゆる “テン場競争” にならないという利点もありますが、やはり自由度の観点では不便と感じます。
ただ最近はソロテントの普及が進み、登山者のマナーが問われている昨今。テント場はそもそも限りがあります。極力美しい自然を保護するためには敷地を広げようにも限界があります。本来張ってはいけないところに張って貴重な植物を痛めたり、ゴミを放置したり。それが無垢な自然にとってどれだけダメージがあることか…。
今年の感染症の影響は皮肉にも山小屋やテント場の利用、山の環境保護などもう一度振り返って見直さなければならないきっかけになったのかもしれません。
私の中の『アルピニズム』
天気ばかりは仕方ないとは言え本音を言うとやはり本山行において薬師岳まで縦走したかった。実は薬師岳もまだ未踏。北アルプスでもっとも美しいと言われるその薬師岳は是非とも室堂から五色ヶ原を経て縦走で歩きたい。
薬師岳は最寄りの登山口である折立からピストンでも歩けますし、本山行においても予定を変更せずに無理をすれば雨の中をピークを踏むことくらいはできたかもしれません。しかし美しい景色を伴わない、ただただ我慢のピークハントは私にはあり得ない…。
この薬師岳は北アルプスの雄大な山々を眺めながら縦走で “映画のストーリー” のように歩きたい。
そこに私は『アルピニズム』を感じるから。
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