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【太刀川英輔】生物の進化のように発想する。進化思考とは | METHODLOGUE #01


地球に生命が誕生してから約36億年。生物は環境の変化に適応するため、「進化」によって今日まで生き残ってきました。そして、人類が「進化」の過程で手に入れた最強の武器こそが「創造性」です。

VUCAと呼ばれる現代。私たちは再び生き残りをかけて「創造性」を発揮し、新しい時代に適応しなければなりません。

アクアリング主催イベント「METHODLOGUE(メソドローグ)」の第二回ではNOSIGNER代表 太刀川英輔氏をお招きしました。

企業、そしてビジネスパーソンがVUCA時代に適応したイノベーションを創出するために、どうすればよいのか。2021年4月に発売した著作『進化思考』に基づいてお話いただきました。

プロフィール紹介

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太刀川 英輔 | Eisuke Tachikawa
NOSIGNER代表、進化思考家、デザインストラテジスト、慶應義塾大学特別招聘准教授、JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会) 理事長

創造性の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱。プロダクト、グラフィック、建築などの領域を越えて、さまざまなソーシャルイノベーションプロジェクトを成功に導く。グッドデザイン賞、アジアデザイン賞など、受賞多数。

目次

METHOD1 | 「進化思考」誕生秘話
METHOD2 | 脳内で「変異」と「適応」による進化を起こす
METHOD3 | 「変異」の9つのパターン
METHOD4 | 「適応」を理解する4つのパターン
METHOD5 | 「進化思考」をめぐるQ&A


METHOD1 | 「進化思考」誕生秘話

図2

ビジネスとは縁遠く感じる「進化」というキーワード。にもかかわらず『進化思考』はアマゾンのビジネス書ランキングで1位になるなど、多くのビジネスパーソンからの支持を得ています。

進化思考とは、いったい何のことなのか? どのように生まれたものなのでしょうか?

太刀川氏:
すごく平たく言えば、私たちはどのように「創造性」を磨いていけばよいのか。そこに自然科学的なアプローチで踏み込んでいるのが『進化思考』です。生物の進化と創造性って実はとても似ているんです。

図3

近年のビジネスシーンにおいても重要性を増している「創造性」ですが、太刀川さんが同分野に注目したのは自身が大学院生だった頃に遡ります。

大学院生時代に建築家の隈研吾氏のもとで学んでいた太刀川さんは「僕は建築で卒業しません。創造性の研究をします」と宣言。創造性にはパターンがあるのではないか。そう考えた太刀川さんはデザイナーとして独立したからも傍らで研究を続け、その研究は徐々に『進化思考』へと結実していきます。

太刀川氏:
僕は生物のデザインがずっと好きだったんです。私たちの身の回りにある多くのものがデザインされたものなわけですが、私は自然が一番かっこいいと思っていました。

創造性のパターンを研究していくなかで、それが自然界に存在しないかと考えていくと1つだけあったんです。それが生物の進化でした。

そこから僕はだんだんと進化マニアになっていくんですよね。自宅にはダーウィンの『種の起源』はもちろん、数十冊もの進化論の本があります。


METHOD2 | 脳内で「変異」と「適応」による進化を起こす

図4

そこから太刀川さんは創造性を生物の進化のアナロジーによって解釈していこうという前代未聞の取り組みをはじめます。

その結果たどり着いた『進化思考』──。それを知るためには、まず進化論の基本について理解しておく必要があります。

太刀川氏:
進化は「変異」と「適応」の往復で起こる現象なんですよ。

「変異」とは卵から違うものが生まれてくる仕組みのこと。「適応」とはそこから選び取られる、自然選択の仕組みです。

たとえば、「変異」によって首の長い個体が生まれて、「適応」によって長い時間をかけて首が長い個体が増えていくというようなことです。

「変異」と「適応」を往復していくことで、種はだんだんと生き残りの戦略によって分化していきます。これを繰り返したことで生物界は今日の多様性を獲得するに至ったのです。

生物は神様がつくったものではなく、自然発生したという考えに基づく進化論。太刀川さんはこの進化論に基づき、「創造性も神から与えられるのではなく、自然発生するもの。そして自然発生させるための手段がある」と考えます。

図5

太刀川:
実は私たちも日常的に「変異」と「適応」のようなことを頭の中で行っているんです。バカみたいなことを想像する脳とそれが適正かどうかを判断する脳。統合した1つの人格として表出しているけれど、脳の中では多重人格のように葛藤があります。

ただ、バカになりながら秀才にもなるというのは、とても大変なことなんです。新入社員のときはオープンに物事を考えて発言できるけれど、中間管理職になるとそれができなくなっていくことってありますよね?

たくさんの可能性を出す知能とそこから適切に選び取っていくというまったく別の知能。その両方を学んで、繰り返していけば自ずと創造性が発揮されていく。これが『進化思考』の概論です。


METHOD3 | 「変異」の9つのパターン

『進化思考』のプロセスの1つは脳内でさまざまな「変異」のアイデアを出す、つまりエラーを起こすこと。

しかし、ルールに従うことを是とする教育を受けてきた私たちにとって、恣意的にエラーを起こすことは簡単ではありません。

太刀川さんは「変異」にはパターンがあると語ります。

図6

太刀川:
「変異」のパターンの1つに「なくなる(欠乏)」というものがあります。ある生物から足がなくなったり、ということですね。

たとえばテレビ局のイノベーションに置き換えてアイデアを発想するのであれば、地上波でなくなるとか、カメラマンがいなくてみんながスマホで撮影するとか、そういうアイデアが浮かびますね。

「足される(融合)」こともあります。生態系は共生関係をつくることによってできていましたから、「足される」というのは基本概念なんです。

テレビで言えば、テレビ局型のショッピングモール、ジャパネットたかたのようなものかもしれません。テレビ局型の病院、病気のときに観るチャンネルみたいなアイデアもあり得ますね。

その他にも「交換」「変量」「逆転」など、とにかくたくさんのパターンがあるんです。これらのパターンに基づいて考える練習をすれば、エラーはいくらでも起こすことができるんです。


METHOD4 | 「適応」を理解する4つのパターン

バカげたアイデアでエラーを起こしていく「変異」に対して、大切なことはなにかきちんと判断して選択していく「適応」。

太刀川さんはあらゆるものが空間か時間のいずれかに置かれているという前提から、すべては「解剖」「系統」「生態」「予測」の4つによって理解することができると語ります。

図7

太刀川:
1つは「解剖」するということです。これもテレビのイノベーションというテーマで考えるとすれば、たとえばテレビ局は一体何でできているだろう? 部屋で分けていくことも人員で分けていくこともできます。

そしてもう1つが「系統」です。テレビ局は最初からテレビ局だったのだろうか。テレビ以前のメディアの系譜は?など、歴史を辿っていく。僕はデザインの歴史には詳しい方で、それに助けられているという実感がかなりあります。意外とプロを自称する方でもその分野の歴史を知らないことが少なくありません。何事も進化図を書いてみることができるということですね。

次が「生態」。これはテレビ局がお世話になっているのは誰でしょう、ということです。お客さんもそうだし、テレビ局の中にも監督や演者がいたり、さまざまな生態系があります。そのネットワークを起点に考えてみようということですね。

あるいは「予測」があります。このままだとデジタルが伸びていくとか、社会がどうなるとか、人口の比率が。そういったファアキャスト的なデータアナリシスの視点です。

そして、最後にはどちらに行きたいの?というバックキャスト的な視点も重要ですね。


METHOD5 | 「進化思考」をめぐるQ&A

イベントの後半では、参加者の方とアクアリング 吉村が質問者となり、対話の時間が設けられました。本レポートではその一部をご紹介します。

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Q.「変異」と「適応」を繰り返すことのできる組織、会社はどのように作られるのでしょうか?

太刀川:
良い質問ですね。実は創造性を集合知でやるのはとても難しいんです。うちの会社で言うと、「変異」と「適応の4つの軸」は全員が理解しているんですよ。何かアイデアが出たときには、「解剖的に悪い」「系統的に悪い」「変異の強さが足りていない」みたいな話もできるようになっています。

「変異」と「組織」が往復しやすい組織づくりという意味では、失敗できるゾーンが設定されている組織ですね。変異できる余地があること。適応については先ほど述べたようにみんなが理解していることが重要だと思います。


Q.「進化思考」を日常的に実践するために、どうすれば良いですか?

太刀川:
「適応」の4軸に関しては性格によって偏りが出るんですよ。エンジニアは「解剖」的に考えがちで、マーケターは「生態」的に考えがち。「系統」を忘れていたりとか、「予測」的に考えたことがなかったりということがあるので、それを意図的に練習して、すべての軸を考える癖がつけれると良いですね。

今、多くの業界でイノベーションの重要性が叫ばれています。また、個人に関してもさまざまな業務がデジタル化、自動化していくなかで、これまでに増して「創造性」が問われています。

まさに個人、組織、そして世界が「進化」を必要としている時代。「進化思考」をはじめて知ったという方は、これを機に是非書籍も読んでみることをおすすめします!



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