自走するコラボラティブ・プロジェクトの作りかたとは? | METHODLOGUE #00
アクアリング主催オンラインイベント「METHODLOGUE(メソドローグ)」
さまざまな業界・業種で活躍されるクリエイターとの対話から、これまで不確実だった“イノベーション創出”をメソッド(方法・手法)化しようという実験的な試みです。
初開催となる今回のテーマは「自走するコラボラティブ・プロジェクトの作りかた」。
コロナ禍で特に重要性が高まる「チーム」「組織」のデザインに焦点を当てて、武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授 岩嵜博論氏とINFOBAHN DESIGN LAB. 井登友一 氏の両名にお話いただきました。
対話のなかであがった4つのキーワードを、ダイジェスト版で解説します!
語り手のプロフィール紹介
岩嵜 博論 | Hironori Iwasaki
武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授
博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事した後現職。専門はストラテジックデザイン、ビジネスデザイン。元株式会社博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター。
著書に『機会発見ー生活者起点で市場をつくる』(英治出版)など。
井登 友一 | Yuichi Inobori
株式会社インフォバーン 取締役/京都支社長 デザイン・ストラテジスト
デザインコンサルティングファームにてエクスペリエンスデザインの専門事業立ち上げに参画したのち、2011年に株式会社インフォバーンに入社。戦略拠点として京都支社、次いでイノベーションデザインに特化した専門チームとしてINFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)を設立し主幹を務める。
METHOD1
メタ・クリエイション | リモート環境下でイノベーションの種を生み出す手法
お二人の濃密なキャリアを遡る自己紹介が終わると、さっそく最初のテーマ。
「コロナによるコラボラティブ・プロジェクトの変化」とは?
新しい取り組みをはじめるとき、みなさんはこれまでどうしていましたか?
関係者で集まってワークショップをしたり、そうでなくても顔を合わせてディスカッションすることで、新しいアイデアの種を探っていくことが多かったのではないでしょうか。
新型コロナウイルスが猛威を奮ったこの1年、これまでのように顔を合わせて対話することは難しくなってしまいました。
そんななか、リモート環境下で新しいイノベーションの種を生むコラボレーションのため、井登さんが意識しているのが「メタ・クリエイション」というキーワードだそうです。
井登氏:
従来のコラボレーションはみんなが集まり、ファシリテーションをしながら同じ方向を向いていろいろなことを考えますよね。
それに対して「メタ・クリエイション」では、最小1人からの小集団が同時多発的に共創活動・創作活動を行っていきます。
そこから、それぞれの課題やアイデアなどを交換していくと、「再解釈」が生まれます。
意図したことがその通りに解釈される場合もあれば、異なる解釈のされ方をすることもある。
人によっては「誤読」と表現する人もいるかもしれませんね。
いろいろな「再解釈」や「誤読」のなかにも共通する部分や同じ方向を見ている部分がある。
それらを俯瞰から見ると、メタレベルでの新しい意味がふわっと浮かび上がることがあります。
これらを意識的に行うことを、僕らは「メタ・クリエイション」と呼んでいます。
同じ場を共有するチームワークからはじまるワークショップやブレストなどとは違い、まずは個人ワークからはじまるという「メタ・クリエイション」。
オンラインでの打ち合わせは、アイデアを「収束」させることには向いている一方で、あれこれとアイデアを「拡散」させることには不向きです。
その点「拡散」を個人で行ってから「収束」に向かう「メタ・クリエイション」はオンライン向きの手法です。
ではこの「メタ・クリエイション」を行うにおいて、留意すべきポイントとは──。
井登氏:
「メタ・クリエイション」を行うなかで重要視しているのが「批判」です。
日本では「批判」を良くないものとして捉えることもありますが、本来「批判」とはクリエイティブな行為なのです。
ただの「ダメ出し」ではない良い意味での「批判」をするためには、それを説明しなくてはいけなくなったり、その考えの根本を理解しなくてはいけません。
僕らは、(「意味のイノベーション」を提唱したロベルト・ベルガンティの言葉を拝借して)「スパーリング」と呼んでいますが、ボクシングのように真剣なぶつかり合いをするようなイメージで「批判」する。
すると、そこからふっと新しい次元のアイデアが浮かび上がってくるときがあるのです。
METHOD2
パーパス | 企業の社会的存在意義
企業、部署、そしてプロジェクトチーム──。
さまざまな背景を持つ人々が集まって構成される、大小さまざまな単位のチームがあります。
チームで同じ方向を向きながら、個人が自走することもできるチーム、と言うのは簡単ですが、実現するのはなかなかのハードルです。
ましてや今はコロナ禍でばらばらの場所にいるわけですから、なおさらのこと。
岩嵜さんは自身が参画していた「SMART CITY X」プロジェクトでの経験を踏まえて、「パーパス」の重要性について語ります。
「SMART CITY X」とは?
米国・サンフランシスコに拠点を置くスクラムベンチャーズが、国内の各産業を代表するパートナー企業とともに、「ニューノーマル時代のスマートシティ」をテーマに世界中のスタートアップと連携・事業共創を行う、グローバル・オープンイノベーション
岩嵜氏:
「SMART CITY X」はスマートシティの新しい世界を企業パートナーとスタートアップのコラボレーションで進めていこうというプロジェクトです。
はじまったのはまさにコロナ禍の最中でした。
私は博報堂の一員として、さまざまな企業や自治体のメンバーをファシリテートしながらプロジェクトを進めるお手伝いをしていました。
とても良いコラボレーションができていたのですが、その最大の理由が、みんなが共有できる「パーパス」があったからなのです。
「人間中心のスマートシティをつくろう」。
そう掲げると、「人間中心って、どういうこと?」と考えざるを得なくなります。複数のメンバーがいるからこそ、哲学的に思考していかなくてはいけない。
それが結果的に良かったのではないかと思います。
さまざまな組織が1つの目標に向けてコラボレーションするのに役立ったという、パーパス。
パーパスとは一体、何か。
岩嵜さんにもう少し詳しく説明いただきました。
岩嵜氏:
パーパスを直訳すると「目的」ですが、文脈も踏まえて意訳すれば「(社会的)存在意義」となります。
つまり企業や組織が何のために存在しているのか、ということです。
コロナ禍でも自走する組織。
そのなかでパーパスはオンラインでバラバラになってしまった個を束ねる役割を担います。
グローバルでは、今、経営戦略の根幹にパーパスが来るべきだと議論されています。ユニリーバ、ナイキ、イケアなどの海外企業はもちろん。
日本でも昨年、ソニーが「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパースを策定しました。
しかし一方で、CEOの吉田さんはパーパスについて「解釈の多様性を組織の成員に委ねている部分がある」ということもおっしゃっています。
たとえば、CEOではなく他の事業部責任者が判断をしなければならない場合、パーパスに基づいて自分で決めて欲しいということなのだと思います。
METHOD3
センスメイキング | 組織の構成員が目標を解釈し、意味を紡ぐ
解釈の多様性──、
井登さんから紹介いただいた「メタ・クリエイション」のプロセスにも
通じるものがありそうです。
1つのパーパスを、各自がさまざまな意味付けを行い、腹に落としていく。
そして話は2番目のテーマである、「センスメイキング」というキーワードに及びます。
岩嵜氏:
センスメイキングとは「意味をつくっていく」ということ。
そもそも、アメリカの社会心理学者/組織行動学者であるカール・ワイクがはじまりです。
組織とは、かたちが決まっている「オーガニゼーション」ではなく、現在進行系で形を変えていく「オーガナイジング」と言うべきもの。
各構成員が「センスメイキング」していく(意味を紡ぎ出していく)過程で形成するものなのだと、カール・ワイクは語ります。
各構成員が組織の目標を解釈し、そこに意味を与え、行動する。
私たちはこれを「センスメイキング」と呼んでます。
コロナ禍のリモート環境によってセンスメイキングの重要性は増していると、井登さんは語ります。
井登氏:
これまで私たちは同じ空間で身体性や感覚を共有するなかで、自然と意味づけを行っていました。
しかし、物理的に分断されてしまった今のリモート環境下では、同じ文脈を共有する時間を意識的につくらないと、意味づけをするのが難しくなっています。
METHOD4
リゾーム型組織 | 自律する地下茎状の組織
そして、最後のテーマ。
「コロナ禍で自走する組織」とは?
その答えは従来のツリー構造の組織を越えた、「リゾーム型組織」にあります。
岩嵜氏:
組織図というと、ツリー構造のものを思い浮かべる人が多いと思います。
リゾームとは地下茎状の植物のこと。
リゾーム型組織とは、木ではなく竹のようにぽこぽこと生えてきて、
中心がなく、横に広がっていく自律型組織。
これまでの議論の続きで言えば、パーパスを掲げることで、それに共感するメンバーがどんどんと集まり、横につながっていくようなイメージです。
企業がよりオープンになっていくことが求められるなかで、今後はエンタープライズ企業でもリゾーム型の組織が増えていくと、井登さんは予想します。
井登氏:
以前からオープンイノベーションや、オープンエンドな組織の重要性は語られています。
パーパスを拠り所にしながら、異なる組織が1つの船に乗り込み、仮想の大きな企業体のようなものが生まれる。
そういう時代になっていくのだろうと思います。
小規模な会社やフリーランスなどは、以前からリゾーム的につながり、
互いの価値観を共有して、情報や武器を交換しながらやってきていました。
その波が今後はエンタープライズ企業にもやってくるのだと思います。
こうして90分にわたる「クリエイティビティを辿る、手法を巡る対話」が終了。
予定していた質疑応答の時間がなくなるほど、濃密な議論が交わされました。
次回のMETHODLOGUEは、太刀川英輔さんをお招きして「進化思考」についてお話いただきます。
みなさん、是非ご参加ください!
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