藍原稜

音楽は頓服、詩は命綱。

藍原稜

音楽は頓服、詩は命綱。

最近の記事

経過

何かと思い出深い入院生活を終えてから数ヶ月が経ち、以前より当時の自分を俯瞰出来るようになってきたように思う。 入院中は十色の感情が混じりあいマーブル模様と化していた心の内。現在も鮮やかとは言えないものの、少しは晴れた色になってきたように感じている。 顔を洗って、化粧水を塗りたくる。 廊下を歩いて、裸足に感じる微かな涼しさ。 ドアを開ければ、巻雲に瞳を奪われる。 夏の終わりのひとつまみの平和が、確かにそこにある。 それでいいんだ。 時には雨も降りたがる。 アスファルトを打

    • 【詩】微黄色の悪夢

      夢さえ見れない僕たちは 毛布蹴飛ばして僕たちは ベランダで嘆く僕たちは 枕を濡らして僕たちは 何処へ光を奪っていく 掌に乗るニヒリズム 未明の窓の向こう側で 僕を見つめて笑ってた 一錠で変わる重力は 煌びやかに散るあの星は 悶えるような熱帯夜は ピンクオレンジの効力は 何処へ光を奪っていく 掌に乗るニヒリズム 未明の窓の向こう側で 僕を見つめて笑ってた

      • 【詩】チルドレン

        大人になれない僕たちは 夢を見る子どもを羨んで 月の光だけが友達で 抱きしめて冷たさに泣き喚く 人を殴って気持ちいいですか 人を壊して気持ちいいですか 毛布の中で怯えながら 消えない痛みを引き摺っている 僕だってずっと笑っていたい 何もしたくない訳じゃない 暗いやつなんて言われたくはない 僕は自由だと叫んでいたい それでも外れぬ足枷が 部屋に呼び込む消滅願望 全部諦めて閉じた詩集には 涙の跡すら見えなかった

        • 【詩】待合室は茜色

          夕暮れがそばにやってきて、 突っ伏した僕に問いかける。 観葉植物に囲まれた、 やけに静かな待合室で。 西側の窓から顔を出して、 調子よく元気な顔して。 カルテに書かれた病名じゃ、 納得できない怒り、憎しみ。 カラフルな薬を何錠も、 飲んだら少しは楽になるか。 鼻をつまむようなアルコール、 何本も飲めば明日は変わるか。 白衣に話せど呼吸は乱れ、 人混みに揉まれて泥だらけ。 帰りに買った弁当の味も、 さっきどこかに落っことした。

          【詩】紫陽花

          遮光カーテンの外は冷たい雨。 吐きそうで床に倒れ込む。 安酒に頼れば暗闇は、 数秒間だけ消えていく。 不安にまみれた笑い声は、 次第に号哭に変わっていく。 アルコールが切れたその先に、 捨てる場所の無い喪失感。 いつの間にほつれた縫い目から、 覗いた視界は空っぽの街。 睡眠薬と同じ色の紫陽花が、 夜露に打たれて揺れていた。

          【詩】紫陽花

          【詩】月光が射す

          お月様。 窓の外に照るお月様。 胸の張り裂ける憎しみを、 誰が受け入れてくれるでしょう。 親に殴られたこの痣を、 誰が癒してくれるでしょう。 自らに付けた傷の跡、 誰が手を当ててくれるでしょう。 頼る人も無い哀しみを、 誰が消し去ってくれるでしょう。 教えてください、お月様。 今ならそこまで飛べそうな、 そんな気さえしているのです。

          【詩】月光が射す

          【詩】退院の日

          爆ぜた水色に目を向けて、 気取った季節が舵を切る。 芝生は健気に手を伸ばし、 飛び交う陽射しと戯れる。 溢れた影絵が円を描き、 涼しげな袖につむじ風。 窓の向こうから手を振って、 明日が始まる笛が鳴った。

          【詩】退院の日

          【詩】哀しいね

          哀しいね いつか僕らは良くなるって そう祈ってからどれだけ経って 僕は今この白いベッドで 死んだ毎日を見つめてる 寂しいね いつか愛してくれるって そう願ってからこんなに経って 障子の光に頬を撫でられ 孤独に孤独を重ねてる 苦しいね いつか世界は良くなるって そう話したって君はいない 増えてく痛みに耐えられないまま つけない眠りにうなされる 虚しいね いつかその手を繋いだなら 落ちて落ちきったその先で 忘れた温もり拾い集めて 抱きしめてくれと叫ぶ日々

          【詩】哀しいね

          【詩】口笛は想い出

          小鳥の声が近くで鳴ります。 私もチュイと真似をします。 線香花火の花弁のような、 脆く嫋やかな羽の音。 永く終われない日々を越え、 私ももうすぐ出かけます。 一面を影が覆う頃、 涼しさ隣に座らせて、 変わった衣に取り残されて、 私の想いは嘆きます。 ゆさゆさゆらゆら腕を振る、 巨木にさよなら頷いて、 私はもうすぐ出かけます。 あなたのそばへと出かけます。

          【詩】口笛は想い出

          【詩】夏夜の衝動

          戯けた季節に逆らって 木々は深く眠りに落ちて 陽はまた夜を待ちわびて 湿気さえ狂い踊ってる 蝶が舞えるのが恋しくて 季(とき)が終わるのが愛しくて 雷雨のような憧れを 隠して今日も笑っている そうして明日を恐れては 誰かを傷つけ生きている 地べたに寝そべり気付くのは 安堵を亡くした事実だけ 閉ざした小部屋の片隅で 夢見れぬ島の片隅で 満たされぬ星の片隅で 侘しい宇宙の片隅で 何を祈ればいいのだろう 蝶も見通せぬこの闇は 掴めぬ月夜を歩くようで 眠れぬ羊が流すのは 痛

          【詩】夏夜の衝動

          【詩】感情

          調子はどうだい。口を開いた。 僕はたまらず手を伸ばす。 外へ出たのはいつぶりだろう。 小風を捕まえて聞いてみる。 どこでも近くに咲いている、 黒い影さえも愛しくて。 春を失った物足りなさと、 エバーグリーンの髪の色。 別れの時まで泣きもせず、 無邪気に笑った閉塞感。 乱れを知らない葉脈と、 移り変わりゆく瑞々しさ。 満たされないのは、穴が空いてるからじゃない。 誰かが盗んでいくからだ。 溢れて止まらぬその声に、 どうして名前がつけられようか。 そして立ち上がる

          【詩】感情

          【詩】凪のヴェーダ

          凪が来た。 心を諭す旅の最中。 海風に飛ばされぬように。 雲の流れに戸惑わぬように。 凪は永遠には繋げない。 舵を取られても焦らぬように。 五月雨は強く身を刺して、 梅雨に翳りゆく陽の光。 波は轟々と押し寄せて、 四畳半をさらっていく。 錨も錆びて留まらず、 深く底へと消えていく。 凪が終わる。 心を試す旅の最中。

          【詩】凪のヴェーダ

          【詩】巻雲は揺れて

          かけた椅子から始まる歌 憎たらしいほど蒼い空 このまま空を飛べたなら あの巻雲になれたなら 羽を広げた命の音 擦れる砂利の心地良さ このまま虫になれたなら 仲間と光に混ざれたら 新緑の波に手をかざす こっちへおいでと声がする このまま風に吹かれたら 白紙の此の身を満たせたら 深い傷跡を拭うたび 明日の安堵を希う このまま空を飛べたなら あの巻雲になれたなら

          【詩】巻雲は揺れて

          【詩】畢竟、惰眠

          漆喰の壁。重力は遠く。 クーラーの風に頬は強ばる。 伸びた爪。拮抗する感情。 二重は疲れの道しるべ。 梅酒の酔いにも似たような、 皐月の半ばのスロウダウン。 哀しくない涙が濡れる、 シーツは小さな地平線。 甘やかな赤いマグカップ、 珈琲と伝う時の色。 祈りは幾重も宙を舞う。 蜉蝣が如く白々と。 夏を待つ前に逆らえず、 畢竟、惰眠の昼下がり。

          【詩】畢竟、惰眠

          【詩】白昼の天使

          天使と話した十三時。 ほろほろ笑って君が問う。 明日は怖いか、今日は暗いか。 怖くない、怖くない。 今は眠くて少し寂しい。 昼下がりのまなこに映る、 ちらちらと羽が眩しくて。 僕は目を開けていられない。 重力だってもういない。 錠剤型の仮初の羽じゃ、 飛べないよって君が笑う。 天使が笑った十三時。 夢を見れるまであと少し。

          【詩】白昼の天使

          【詩】透けた障子と安定剤

          変えた枕の柔らかさは いちごオレのような甘い午後 布団と素足の感触と 小さな絵画を見つめてる 持て余した日は数しれず 欠伸は暖気に木霊して 椅子の姿勢さえ乱れては 流れる毛並みと隙間風 透けた障子と安定剤 揺蕩う心を掴めずに 砕けた未練も投げられず 群青の中に消えていく ナースコールの音に乗せて 自転が重たくなっていく 光の向こうに手を伸ばし 白昼日記を探してる 三週間の子守唄と コンクリートのゆりかごから 春が走り去る音だけが かすかに鼓膜を揺らしてる 透けた障子

          【詩】透けた障子と安定剤