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イラつく子どもとキレる教師 ハル(小学4年)過敏性腸症候群

なんかさあ、ぼくいつも学校でおなか痛いんだよね
今日なんか昼間に保健室行っちゃったよ

ランドセルを降ろしながら、ハルが言った。登校中から朝の会のあたりはいつも痛むらしい。小児科で相談したら、腹痛の漢方を処方された。ハルの7つ上の姉がもらっているのと同じ薬だった。

 例の感染症で、小学校では学級閉鎖や学年閉鎖が始まった。そのとき感染リスクがあったのは、うちではハルだけだった。高校は2月初めから2週間のリモート授業が確定していて、姉は大丈夫。夫は単身赴任なのでうちには帰らない。さらに、あと2日間休めば週末の3連休という日取りだった。

 過敏性腸症候群に片足突っ込んでいるので、今のうちから休み休みいかないと思春期が恐い。ハルに聞いてみた。今日と明日休んで、午後3時までテレビ、ゲーム、スマホ禁止と、あと2日間、普通に学校行くのどっちが良い?

 ハルは休みを選び、持っていたスマホを充電器につなぐと、ブロックで遊び始めた。

乗り物をたくさん作る
図書館で借りた本

 その日と翌日の「ヒマ」に備えて、図書館に行った。ハルは進んで読書をしない。良い機会だ。「あらしのよるに」の続編を気にしていたので探した。ルパン三世が好きなので、モーリスルブランを見つけた。他は自分で選んだものだ。
 
 うちは中学校までは公立だ(できればその後も公立でお願いしたい)。小学校の欠席は、高校の進路に影響しないので、休めるときは休んで、大学受験に備えて本を読むようにしていきたい。

 ハルは基本的に明るくて友だちも多いが、物を取り合ったり押されたりのトラブルも多い。ハルのいう「先生沙汰」せんせいざたになると、自分が悪くなくても怒鳴られて謝罪を強制される。

 地域の同い年を集めた小学校は社会問題の巣窟だ。ハルに影響が強いのは、家庭の闇と教師の過労。イラつく子どもとキレる教師だ。忘れ物は怒鳴りつけられ、やはり謝罪を要求される。

 「忘れ物をしない」ことは、身に付けなければ自分が困る重要なスキルだ。「忘れ物」は、先生が謝罪を要求するような罪ではない。小学校の教員免許を取得できるようなオールマイティの秀才がわからないわけがない。先生方のご苦労が偲ばれる。

 ハルは忘れ物をしないように、何度も何度も確認している。名札、ハンカチ、ティッシュと自分の体を3ヵ所ぽんぽんしながら登校する。ランドセルにぶら下げた小袋が揺れる。中身は替えのマスクと腹痛薬。学校に着くまで揺れ続ける。クラスの奴に道具袋を盗られて遊ばれても、抵抗して先生沙汰になれば、先生と相手に頭を下げなければならない。

 次にそんなことがあったら、お母さん沙汰にしなさい。相手が謝罪するまで、相手にも、先生にも、絶対謝らない。最終兵器「お父さん」を投げ込んでもいい。

 その話をしたのは去年のこと。ハルはいつも事件のほとぼりが冷めてから知らせる。いや、いいよ、と言う。お腹を痛めて登校する。

休み休み、行きましょう。
生きましょう。



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