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CTW株式会社に名誉毀損で訴えられ弁護士に依頼せず本人訴訟で挑み勝訴した話【高裁編】

地裁編をご覧になっていただいた皆様、記事購入までしていただいた皆様、さらにはサポートまで送っていただいた皆様、またはてブなどで「“ビビッドアーミー”とタイトルに付けたほうが良い」などとコメントを付けていただいた皆様全部読んでおります、誠に感謝しております、marchEnterpriseのま〜ちです。

はじめましての方は、「いきなり高裁って何よ?」とか「アップトーキョー出てきやがれ」となってしまうかもしれませんので、こちらをご覧いただければ幸いです。

1. 控訴状が届く

前回のラストで、第1審である地裁判決に不服を申し立て、CTW株式会社側が控訴していたことを知ったのは、2019年4月22日(平成31年)のことでした。そして控訴状が届いたのは2019年6月初旬(令和元年)になっていました。地裁から高裁へ、裁判の移り変わりとともに、元号まで変わってしまったわけであります。アァアアア年号がァ!!年号が変わっている!!。届いた控訴状はペラ3枚、内容は原判決(地裁の判決のこと)を取り消して、地裁と同じ請求(損害賠償と謝罪広告と裁判費用)をして、そして「おって、控訴理由書を提出する」と書いてありました。後でその「控訴理由書」を読んで、絶句……血反吐を吐くようなことになろうとはこのとき知る由もなかったのでした。

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控訴状全文(と言ってもあと1ページ)は末尾にてご覧いただけます。

特筆すべきは、訴訟代理人の弁護士さんが弁護士事務所ごと交替されてしまっていたことです。そういえば、2017年末に地裁へ訴訟を提起されたとき、CTW社のホームページのフッター部分にこう書いてありました。

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CTWは弁護士法人ベリーベスト法律事務所と顧問契約を結んでおります。
http://ctw-inc.netより

ところが2019年4月に見に行ってみてみたところ……

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跡形もなく消えておりました。何があったのでしょう。とりあえずありがとうベリーベスト!さようならベリーベスト!!


さて、控訴を知ってから控訴状が届くまでの約1か月半、ただじっと待っていたわけではありません。地裁の判決を熟読したりして、争点をおさらいしたりしておりました。争点は2つ。

1つ目は、「アップトーキョーの小山本武良(ペンネーム)は、被告(私)であるか?」について、地裁の判断は「原告の主張に沿う事実の推認力は限定的なものにとどまり、原告において本件各投稿の投稿者についての発信者情報開示請求を行わなかった本件においては、本件各投稿を行ったのが被告であると認めることはできない」とされました。……当たり前かよ、っていうか“限定的な推認”だけで「お前がアップトーキョーだ」と訴えてきたCTW株式会社、はっきり言って、とっても迷惑です。超迷惑。しかしながら、ここが「控訴理由書」で大々的に覆されるとは思ってもみませんでした。

2つ目の争点は、「アップトーキョーのTwitterの投稿は、名誉毀損となるか?」です。CTW株式会社の運営していたサービス「得BUY」について、「賭博」「賭博アプリ」などとツイートしていたことがメインとなって争われていたことでした。地裁の判断は「本件各投稿は、いずれも、名誉毀損に当たらないものであるか、違法性が認められないものであるといえ、仮に本件各投稿をした者が被告であったとしても、原告の損害賠償請求や名誉回復のための適当な処分の請求は認められないこととなる」と結論付けております。っていうか、そもそも名誉毀損で違法行為とされるものと、されないものの違いはどこにあるのでしょうか?名誉毀損が否定される要件として、過去の判例でこのようなものがあるそうです。はい、ここテストに出ます。

事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁、前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。

なるほどですね……えーっと、よく分かりません。すいません(涙)。教えてgoogle先生。ちなみに「法的な見解の表明」は「意見ないし論評の表明に当たる」そうで、今回の「賭博」「賭博アプリ」という表現は「意見ないし論評の表明」と解されました。その上で、「公共の利害に関する事実」で「目的が専ら公益を図ること」で「真実か真実と信ずる相当な理由がある」で「人身攻撃に及ぶなどではないこと」なら名誉毀損が成立しないそうです。

例えば、「彼女の両親自体が失敗作」は、公共の利害に関するかどうかも、公益を図ることかも、さらには真実性も、人身攻撃に当たらないかどうかも、どれも微妙な気がしますね。

また、「NHKが放火に関与し証拠を隠滅したかのような事実無根の書き込みや、NHKのニュース映像を故意に加工した虚偽の画像などが拡散」は、公共の利害に関することと、公益を図ることに該当したとしても、それがまったくの嘘であることが証明されれば真実性でアウトな気がします。

では、「得BUYは賭博アプリ」はどうでしょうか?地裁の判決では「一般消費者に向けて公開されたスマートフォンアプリの適法性に疑念を示すものであるから、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったものと認められる」、そして「原告の提供する得BUYによる物品の販売行為が賭博罪に該当する行為であるとの法的な見解を表明するものであるところ、その前提とする事実自体については真実であると認められる」、「否定的な評価を伴うものではあるものの、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとまではいえないから、(中略)違法性が認められない」とされました。え、真実?と思った方、いると思います。アップトーキョーが根の歯もない根拠で嘘偽りを吹聴して中傷していただけではないかと、思われる方もいると思います。この点について、私が「得BUY」について消費生活センターへ相談に行ったときの記録がありますので、ご参考までに抜粋して紹介しておきます。

被告_乙号証2
被告_乙号証4

消費者庁の表示対策課に問い合わせたら「景品類とは取引に付随するものである。懸賞には該当しないが、賭博に該当するので警察に連絡してほしい」との返答だった。

地裁での裁判のはじめの頃、熱意を持って取り組んでいたのはここにありました。裁判所で「得BUY」が違法なサービスであることの認定がされれば、それを持って警察や消費者庁に凸ろうと。しかしながら審理の冒頭で、その目論見は淡くも崩壊してしまいます。裁判官の答えはこうでした、「それはない。名誉毀損となるかどうか判断するだけで、そこを決める場ではありません」と言われてしまいます。裁判所にも裁判官にも正義なんてものはこれっぽっちも存在しないんだ……と、とても落胆した記憶があります。

というわけで、高裁での裁判に向けて、名誉毀損についての文書などをググって片っ端から読んだりして必死に理解しようともがいていたわけではありますが、こちらの争点は、控訴審では審理の対象にはなりませんでした!


2. 驚愕の控訴理由書

控訴状到着から1週間ほど前、高裁からの「事務連絡」として「第1回口頭弁論期日を下記の候補日の中から指定させていただきます」と、2019年7月〜8月の間で5つの候補日が書いてありました。いきなり訴状と期日呼出状が届いた地裁とは違って、多少融通が効いてるなっとは言っても全部火曜か木曜で多少ではあるけれど。2枚目の「訴訟進行に関する照会書」の照会事項と回答欄へ差し支えの日時を抹消、という普段あまりお目に掛からないテクニックで予定の入っていた日時を二重線で消して、3枚目の「送達場所等の届出」と用紙とともにFAXしました。その後、控訴状とともに期日呼出状が到着。

1906_高裁期日呼出状

第1回口頭弁論が2019年8月27日と決まりました。そして、さらにそれから1週間後、再び特別送達が届きます。「東京高等裁判所」と、かなり威圧感のある巨大フォントで書かれたA4サイズのぶ厚い封書、この記事のヘッダーにあるサムネイルがそれです。

ぶ厚い封筒

なんだなんだと思いながら開けた中身は、CTW株式会社からの「控訴理由書」でした。18ページの「控訴理由書」、2ページの「控訴状訂正申立書」、5ページの「証拠説明書」、そして33枚の証拠としての「甲号証(甲22〜33)」という地裁訴状の3倍以上に及ぶ、全58ページの圧倒的大ボリューム。さすが高裁、というか新しい相手方の弁護士さんの気迫のようなものが感じられます。なんだなんだと思いながら「控訴理由書」を読み進めて行くと……手が震え出し、やがて震えが全身に広がるとともに、目が白目を剥き、口から血反吐のようなものが出ていました。それがこちらです。

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(中略)

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控訴理由書全文は末尾にてご覧いただけます。

“本件ブログの運営者(「アップトーキョーの管理人」の「小山本」)は、記事内では山本一郎氏と別人とも読めるように記載されているが、山本一郎氏で本人である”

“したがって、本件ツイッターアカウントの管理者も、山本一郎氏である。”

グッ……グボベッ!!!( ꒪ дˍ͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟͟꒪)


ちょまっ、ちょっと待って、こ…これはどういうこと?失礼にも程がある……ありえない…そんなことありえないスカー……どうしてブログで顔出し・本名で活動されている著名な著述家の方が、アプリ業界の場末の端席で細々と匿名で活動する必要が何処にあるというのだ……絶対に、違いますから!絶対に!!そもそもペンネームが似ているとか慇懃無礼な物言いに侮辱を織り交ぜた回りくどい口調の文体の特徴が合致しているとかマックスむらい攻めてるとかで同じ人物であるなんて決め付けていいのか?こんな茶番が、上級裁判所である東京高等裁判所で、裁判官3人も付いて国民の血税を費やして審理されるなんて…なんて愚かな……愚かすぎる!ってゆーか、万が一にでもこれで控訴が認められてしまったらどうすんの……自分のせいでこんなガセネタが裁判所でお墨付きを与えられてしまったら、とんでもない、とんでもないことになる!絶対に、絶対に負けられない戦いになってしまったじゃないか!!

というわけで、「訴えられて勝ったと思ったらやまもとさん巻き込んでしまったでござる」と僭越ながら恐縮しながら平身低頭ご報告。6月28日付けの「最近の誤爆」として、取り上げていただいた

ばかりか、ここまで一人で孤軍奮闘していた私に頼りなさを感じたのか、最強のIT弁護士の先生が補助参加していただくことにまでなってしまったのでありました。


3. 東京高等裁判所の判決

1年以上に渡って長々と続いた第一審である地裁と違って、控訴審は始まるまでの約4か月間、上記の手続きなどを行ったほか、「控訴答弁書」を懸命に書いたり、やまもとさん陣営の補助参加が決まった途端にハッスルしたのか「山本一郎氏の人物そのものについては、批評・批判する立場にはない」として控訴理由書の「会社ゴロ」「総会屋2.0」という記載を撤回するなどという「控訴理由書補充書」なるものが追加で到着したので、速攻「控訴答弁書補充書」で反論を書いてレターパックしたり、寝起きにポケモンカフェに行こうとして意気揚々と立ち上がった瞬間に転倒して右足を複雑骨折して救急車で搬送されて入院緊急手術したあげくその後の裁判期間中すべて自家用車&松葉杖で出席させてもらうために裁判所の裏側にある秘密の駐車場をお借りするために書記官さんへ連絡するなど、かなり密度の濃い準備期間を走り抜けた後、2019年8月27日の第1回口頭弁論、同年9月26日の第2回口頭弁論であっという間に審理は終了。高裁の判決は同年11月21日に言い渡されました。控訴審は、第一審での訴訟資料と控訴審で追加された書面を元に、第一審の判決の当否が審理される「続審制」という裁判の仕組みで、そのほとんどが1回の口頭弁論で結審することが多いそうです。

地裁判決日と同様に、11月21日の判決日には「来なくていいので」と書記官の方に言われた通り欠席しますが、言い渡されたと思われる時間のすぐ後に、さすが裁判所へ足繁く通う凄腕IT弁護士の先生から「控訴棄却おめでとうございます」とメッセージが届き、ほっと安堵の胸をなでおろしたのは言うまでもありません。その後、やまもとさんから「最高裁まで行ったりしてw」と言われ、「ヒィィィィィーーー!ヤメテクダサイヨー!!」と号泣したのが、今からたった2か月前のこと。もう遥か昔のことのように感じられます。

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高裁判決全文は末尾にてご覧いただけます。

主文
1 控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じたものを含む。)は控訴人の負担とする。
3 なお,原判決は,控訴人の訴えの交換的変更により,失効している。


4. 確定判決

地裁でのフライング裁判費用請求→取下げで大いに反省したので、慌しく踊る街を誰もが行き過ぎるような師走の2019年12月9日、僕は走り閉店間際の地裁民事第7部へ寄った(裁判費用の申し立ては、高裁から訴訟資料が第一審である地裁へ戻ってきてから第一審で行う、とググったら書いてあったので)。緊張しながら受付で、おろおろしながら「あ、あのー」と小さく声を出すと、地裁の担当書記官だった方が「あらぁーお久しぶりー」と気付いてくれました。地裁で最後に会ったのが証人尋問の2019年1月から11か月ぶり、電話で「控訴されていますので……」と言われた4月からも8か月も経っていたのに覚えていてくれたのだ。「高裁で控訴棄却されまして」と言うと、「あらぁーそれはおめでとうございます」と言ってもらえた。その瞬間、気分は涙目で戦地へ赴き負傷しながらも帰ってきた帰還兵となっていました、高裁という名の戦場から。「相手の弁護士さんも控訴…じゃないや、えーっと……上告しないよう説得するって言っていたので、それで裁判費用の申し立てに」と尋ねると、書記官さんが引き出しをごそごそやったり、PCを操作したりして確認してくれました。「今見てみたところ降りてきてませんねー」「ファーーーーーーー!!」。もとい書記官さんの話では、カレンダーを指差しながら11月21日が判決だと土日を跨いだ11月25日から2週間が上告期限でそれが今日で、そこから2,3日から1週間で高裁から地裁へ訴訟資料が降りてきて判決が確定したことが私たちに分かるの、でも年末年始の休み前で混雑しちゃってもっと時間が掛かるかも、だから来週中頃になったらまた電話してくれる?とのことでした。裁判所のIT化は進んできているとはいえ、まだまだいろいろと手続きは時間の掛かるものなのだなぁと、思いながら荷物抱え電車の中一人で疲労困憊だった。

2019年12月18日、今度こそ電話をちゃんと掛けて、確定判決の報を受ける。これでやっと「被告」と呼ばれることは無くなったのだ。2017年12月の訴状受け取りから丸2年が経過していました。裁判費用の申し立てに必要な切手代が、10月の消費税増税前の情報しかググっても出てこなかったり、CTW株式会社側が別訴での和解条項に「原告と被告との間には、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを交互に確認する」と記載があるから支払う必要はない、などと一悶着あったけれど、翌2020年1月22日に裁判費用として6万1,264円の振り込みがありました。2年間の出頭日当、往復の交通費、準備書面などの文書作成費用、全部込みでこの金額である。時給に換算したらいったい幾らになるんだろう……いや考えないでおこう。


Twitterでの投稿が争点となったこの裁判、いつ誰に降りかかってきたり、巻き込まれたりするか分かりません。勝っても、負けても、弁護士に依頼しても、しなくても、大変な労力と時間とお金が掛かります。他人の社会的評価を下げるような言動には注意が必要です、だからと言って我が国の憲法で定められた表現の自由、言論や報道の自由が封じ込められるようなことがあってはならないと思います。

誰もがメディアになれるソーシャルネットワークが発達したこの時代だからこそ、おかしいと思ったものにはおかしいと、臆することなく言える社会であって欲しいと切実に願うのでした。だからと言って「アップトーキョーの影の運営者は……」なんて言う嘘はマジやめて、ほんとやめてごめん。


《《終わり》》


この下から控訴状全文と控訴理由書全文、高裁判決全文がご覧いただけます。

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