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【2023年版】面白かった作品55選の紹介

今年も様々なものを楽しんだ。本だったり、映画だったり、ゲームだったり。見るものがないとか、やることがないとか、そんな事態には今年もならなかった。

ということで、本記事ではそんな「今年見た中で面白かったもの」をいくつか紹介したいと思う。対象は映画、ドラマ、アニメ、ゲーム、マンガ、本(マンガ以外)だ。27000文字超と死ぬほど長いので、目次から気になるタイトルへ飛んで欲しい。


【映画】

セブンティーン・アゲイン

イケメンすぎる

昔は輝いていた、あの頃の俺はスターだった・・・・・・という過去の栄光を振り払えない30代が主人公。今でこそ負け組なものの、17歳の彼はと言えばバスケのスター選手だった。この世の春を謳歌していた。しかし、ある選択がきっかけで人生は悪い方へと大きく変わっていく。

でもこのままじゃイヤだ! やり直したい! もっと良い人生が俺にはあるはず! なんて折、ある不思議な出会いで彼は「あの頃」に戻れるように。果たして、彼は「最高の選択、最高の人生」なんてものを手にできるのか? というお話。

よくあるタイムリープもの。近いもので言えば『ReLIFE』なんかが思い当たる。もう一度やり直したい、あの頃の選択をなかったコトにしたい。そういう後ろ暗い始まりの物語。しかし、そういう選択からの逃避で終えるような話ではない。

得てして、この手の話では同じような結末に帰結する。「今にこそ、本当に幸福がないのか?」ということで、過去は過去として今を大切に過ごそうと思える、そんな作品。あとザック・エフロンがすげーイケメン。

ハケンアニメ!

両監督のキャラが良い

そのシーズンで最も良いアニメ、「覇権アニメ」を作る、悪戦苦闘の物語。アニメ、『SHIROBAKO』や『NEW GAME!』がもっとシリアスになったような内容だ。今年最も面白かった映画。個人的ベストムービー。

主人公はアニメ大好きな新人監督。ようやくの大仕事に挑むも、現場と自分の理想の乖離に、幾度もの壁にぶち当たる。臨んでいないプロモーションを展開するプロデューサー、自分の表現や意図が伝わらない制作陣。「私はただ良いアニメが作りたいだけなのに」という監督の思いは空回りする。

本作はとにかく演者の熱量がスゴい。気迫越えて狂気すら感じる。脚本や演出も秀逸で、主人公と同じく、基本的にモヤモヤした何かを抱えて、どこかで安堵する・・・・・・そんな感情移入のさせ方が非常にうまい。

何かを作るということは大変だ。しかも、ひとりだけじゃなく大勢で、と言うならなおさら。そして、クリエイティブを商品にすることも大変だ。慈善事業じゃなく、ビジネスとしてのクリエイティブは、こんなにも辛く苦しい。しかし、だからこそあのラストシーンは心から感動できる。

ジョーカー

バットマンを知らなくても良い

様々な面で賛否両論を巻き起こした傑作。良くも悪くも時代に即した、ある意味風刺的な、しかしどこかリアリティのある不気味な作品。思惑が複雑で、手放しに「とても良い」とは言えない、そんな映画だ。

バットマンシリーズにおいてヴィランとして出てくる、有名なキャラ「ジョーカー」。本作は、彼が生まれるまでの、彼がまだひとりの矮小な人間であった頃の物語。ちなみに、バットマン等を見ていないとダメなんてことはなく、完全に前情報無しで楽しめる(パラレルワールドみたいな扱い)。

主人公、アーサー・フレックが諸々の事情で凶悪犯罪者のジョーカーになったというストーリー・・・・・・なのだが、結果としてそこは大して重要ではない。なぜ、そうなってしまったのかという過程が上映時間のほぼすべてを占める。悪はどこから生まれるのか? 悪とはなにか? 「ジョーカー」とはなんなのか?

本作は人によって感想が徹底的に分かれる。心から嫌悪する人もいるし、感情移入をし賛美する人もいる。そこが本作のスゴいところだ。なぜ、同じ映像でそこまで完全に意見が分断されるのか、というのは、ぜひ自分で見て考えて欲しい。今の時代だからこそ見る価値のある映画だと本当に思う。

AWAKE

吉沢亮がイケメンすぎる

将棋AIとプロ棋士の戦いを描いた物語。が、メインはそのAIを作る過程だ。主人公は幼い頃プロ棋士を目指していた。しかし、結局はなれず、その道から外れる。だが将棋への執着を諦めきれなかった彼は、最強の将棋AIを作るということに人生をかけていく。

ニコニコ動画に慣れ親しんだ人間なら絶対に知っている一大イベント「電王戦」。あれをモチーフに、フィクションとしてオリジナルストーリーを展開したのが本作。将棋AIとプロ棋士が戦うというのはどういうことなのか? その新たな解釈としてあるのが、AWAKEだ。

私は本作を見るまでに、機械の成長というものをあまり深く考えていなかった。それこそ、電王戦のAIも「最初から最強だったんだろう」程度のぼんやりした捉え方をしていた。しかし、実際はそうじゃない。その裏側には、地道に研鑽を積む開発者がいたのだ。

元プロ棋士志望生の主人公がどういう思いでAIを開発していたのか。何を目標に、モチベにしていたのか。そして、AIはプロ棋士に勝てるのか? プロ棋士側ではなく、AI開発者側の物語は非常に新鮮だった。

梅切らぬバカ

非常に考えさせられる映画

自閉症の息子を持った母親、そしてその周囲の人間との関わりを描いた物語。正直言って楽しい話ではない。割りと辛いシーンは多いし、イヤになる展開がかなりある。しかし、だからこそ強く印象に残った。

自閉スペクトラム症(ASD)は、自閉症やアスペルガーなどを総称した呼び名だ。自分の感情や行動を抑制する、適度に集中する、他人を理解する・・・・・・ということが困難とされる発達障害のひとつで、とにかくコミュニケーションがとりづらいのが特徴。

主人公はその自閉症を患った成人男性。決まった時間に起き、決まったことをし、それが少しでも乱れると暴れだす(ASDは定型的な動作を好むらしい)。自宅の庭から伸びる梅の木も、周囲の人を思うなら切ったほうがいいけど、それはできない。

ほとんどの人にとって、本作は「邪険に扱う側」として感情移入をするはず。しかし、そこで視点を自閉症側にすることによって、「悪意とはなにか?」ということを問う。多様性とは受容することなのか、それとも「理解すること」なのか。もろもろ含めて視聴後は一言では片付けられない気持ちになった。

幸せのちから

駅で寝るシーンが泣けるんすよ

事業の失敗により、ホームレスへと転落。そこから家族のために再起を図る、ひとりの男のお話。割とよくあるサクセスストーリーなものの、本作は実在の人物をモデルにしているらしい。

幼い頃に金曜ロードショーで見ていたことを思い出し(なお内容は忘れている模様)改めて視聴してみた。結果として、ある程度主人公の気持ちが理解できる今見てよかったなと思える作品だった。子供の頃に見ても良さは分からなかった気がする。

貧困と不幸は仲良しだ。貧しいときや、悲惨なことになっているときは、さらに追い打ちをかける事態に襲われる。バイアスもあると思うが、経験としてこれはかなり思い当たる。本作でもやはり「ここまでする?」ってぐらい辛い目に合わされる。

失敗と挫折と苦境がほとんどのこの作品で、主人公は最後の最後にひとつの成功を手にする。これを「映画」だと片付けるのは自由だが、私はやはり、諦めなかったからこその「栄華」じゃないかなと思う。先が見えなくても、暗闇を歩き続けたから光に触れられた、そう思った。そして歩けた理由はなんだったのか、はぜひ視聴して確かめて欲しい。

映画大好きポンポさん

見た目とタイトルで絶対損してる超名作

超敏腕映画プロデューサー、ポンポさんの元で働く新人映画監督、新人女優の成長を描くアニメ作品。今年ベスト映画はコレとハケンアニメで迷ったが、後者が選ばれた。でもポンポさんもめちゃくちゃ良かった。

見た目はポップで愛らしいポンポさんだが、その実力と人を見る目は超一流。「どうしてキミはこの映画を作るの?」「どうしてキミはこれじゃないとダメなの?」という、映画を作るということ、その選択をした意味を常に問う。

本作はとにかく、その圧倒的な情熱に胸打たれる。クリエイティブということの苦悩、それを踏まえてなお表現者は足を止めない。その源流はなんなのか? 何が彼らをそこまで突き動かすのか? そういった情動を圧倒的な魅せ方で突きつけてくる映画だ。

焼け焦げてしまいそうなぐらいアツい情熱の塊みたいな映画で、見たらきっと自分も何かがやりたくなるはず。この世の中の創作というものは、あらゆる人の血と汗と涙の結晶であると、そう感動できる素晴らしい作品だ。

ポケモンレンジャーと蒼海の王子マナフィ

子供向け作品と侮るなかれ

アニメ版ポケットモンスター、通称アニポケの劇場版第9作目。アドバンスジェネレーションとしては最後の作品だ。選出は少し迷ったが、映画ポケモンでは一番感動したので紹介。すっげえ泣いた。

本作のあらすじは、マナフィと呼ばれるポケモンを海中神殿に連れて行き、その道中で起こるアレコレを描く・・・・・・そんなものになっている。言ってしまえば他のポケモン映画と概ね同じなのだが、マナフィのかわいさと、それの保護者役として描かれるハルカの関係性がとても良かったため高評価。

出会いがあれば別れもある。それは本作を象徴する理念のひとつで、短いながらも親愛をもとに付き添ったマナフィとハルカは、やはり最後の最後で離れ離れになってしまう。もちろんそれは分かり切っていたことだし、台本通りの展開ではあるけれど、ふたりのこれまでを思うと涙なしには見られなかった。

純粋にハルカを求めるマナフィと、マナフィのことを想って自分の気持ちを押し殺し、別れを選択するハルカ。中盤ぐらいまでずっと仲良くするもんだから見てるこっちが別れたくなさすぎて発狂しそうだった。拒むこと無く理性で別れを選択したハルカは本当にスゴい。ただの子供向け映画だと思わず、是非見てほしい作品。

ELLEGARDEN : Lost & Found

願い事をしよう、簡単なことでいいから

ここ10年で一番嬉しかったことはなにか、と言われたら、私は迷うこと無く「ELLEGARDENの復活」と答えるだろう。2008年の活動休止宣言後、それからthe HIATUSやMONOEYES、Nothing's Carved In Stoneなど、それぞれの活動を応援し続けてしばらく、2018年に復活宣言が出たときは本当に嬉しかった。今も昔も、私の大好きなバンドだったから。

本作は、あの日あの頃のELLEGARDENに何があったのかということを追求するドキュメンタリー映画だ。そのため、このバンドを知らない人にとっては微塵も面白くはない。しかし、ファンにとってはかけがえのないマスターピースになっている。

バンドが届けるものは音楽で、それ以上も以下も求めない人は多い。それは受け手もそうだし、送り手もそうだ。ELLEGARDENのフロントマンである細美さん(リーダーは生方さんらしいけど)もそう思っているタイプの人で「自分が後悔しない曲を作るだけ。誰かがそれを聴いてどう思うかは自由」というスタンスだそうな。

しかし、やはり好きにもなれば中の人のことが気になるのは必然。どうして活動休止してしまったのだろう。なぜそんなことになってしまったんだろう。長い間疑問だったアレコレが解消できた本作はとても良かった。そして、より彼らが好きになれる、そんな内容だった。「細美武士にとってELLEGARDENとは?」の答えがここにある。

もしも昨日が選べたら

B級映画にあるまじき満足感

セブンティーン・アゲインと似たようなお話だが、こちらはかなりコメディ要素が強め。しかしだからといって低俗かと言われるとそんなことはなく、メッセージ性はたしかに感じられる。笑いながら、どこかしんみりする、そういう物語。

主人公は嫌な上司にいびられ、家族との仲もあまり良くない冴えない中年。そんなある日、彼は謎のリモコンを手に入れる。それは都合よく早送りをしたり、スキップしたりできる、人生に影響を与える魔法の器具だった。・・・・・・という、いわゆるモラル崩壊系のプロット。

「苦しみよ去れ、しかし戻ってこい!」とかつての哲学者は言った。また「人生とは苦難の連続であるが、時が経てばそれは幸福の前兆とも見えた」なんていう言葉もある。そりゃ嫌なことはしたくないし、なるべく関わりたくはない。しかし、それは本当に「人生」なのだろうか。

今ある苦境も、いつかの未来では笑い話に昇華されているはずだ。あの時、人生最大の苦境だと思ったことも、今となってはただのワンシーン。つらい部分だけスキップして、都合の良い部分だけ切り抜く・・・・・・それはそれで、味気ない人生なんじゃないだろうか。

南極料理人

ただひたすらおっさんたちが飯食うだけの映画

選ばれた8人の南極観測隊、ドームふじ基地で共同生活を送るおっさん達の悪戦苦闘の物語。オープニングはかなりシリアスなムードだが、実際はかなりコメディ。本当に南極観測隊なのか? というぐらいのんびりほのぼのとしている。

ほとんどを基地内で過ごすので、『オデッセイ』などの宇宙SFのようにフロンティア開拓がどうのとか、そういうシーンはほぼ無い。極地において、面識のないおっさんを8人突き合わせたらどうなるのか、というモニタリング的な要素が大きい。そしてこれが死ぬほど面白い。

「風邪になったから仕事しない」「いや、ここマイナス50度とかなんでウイルスいませんよ」だの「でけえ伊勢海老があったんですって。これもうエビフライでしょ」「いやエビフライになんかしませんよ、デカすぎるでしょ」だの、とにかくしょうもない争いが多い。極限状態だしね。

かと言ってずっと平坦なわけじゃない。そこで働くということの辛さや、家族との確執も描かれる。大喧嘩をして南極にやってきたひとりの男が言う、「好きで家族と離れるわけじゃなく、ただ、私のしたい仕事の場所が南極だったってだけなんだけどね」は聞き入るものがあった。

キャラクター

エンドロールまでずっと面白い傑作

SEKAI NO OWARIボーカルのFukaseの演技がなければこの作品はなかった、と言えるぐらいの凄まじい存在感。かなり狂気的で怖い作品だが、それ故に文字通り最後の最後まで目が離せなかった。

主人公は、画力はあるものの魅力的なキャラクターを生み出せない、お人好しの漫画アシスタント。仕事をしつつ自分らしい漫画を描こうと腐心するが、しかし芽が出ない。ある日、彼は殺人現場に居合わせ、そこで犯人を目撃する。その後犯人をモチーフに漫画を描いたところ、作品は大ヒット。しかし、そこから事件はおかしな方向に進んでいく。

とにかくFukaseが怖すぎる。ただそこにいるだけで怖い。表情と立ち居振る舞いだけで「明らかに関わっちゃいけないやつ」を演出するのがうますぎる。年単位でワークショップに通い、役作りをしてこれが生み出されたと言うんだからアーティストの表現力は恐ろしい。

そして、物語としての謎もかなり気になるのがポイント。単純な勧善懲悪とかではなく、カットやカメラワーク、セリフが意味深で、エンディングやキャラクターへの解釈が人によって異なる。本当にヤバいのは誰だ? みたいに、モヤモヤが残る映画だった。

線は、僕を描く。

雰囲気が最高に澄んでいる映画

作品の空気感が非常に良く、演出や編集、演技や脚本それぞれすべてが極限までに雰囲気を合わせてある作品。ストーリーやキャラも良く、ラストのタイトル回収まで含めてものすごくきれいな映画だった。

つらい過去を背負った青年が水墨画と出会い、そこから自分の人生や自らを取り巻く「自然」というものに理解を深め、やがて過去と向き合う物語。最後の最後まで、あらゆるものがとにかく「美しい」の一言に尽きる。最終盤の椿を見つける場面からラストシーンに至る流れは本当に良い。

本作のセリフは曖昧なものが多い。それは明確に何かを伝えきるわけではなく、情緒の一端をほのめかすだけのような、ふわっとした言葉だ。しかしこれは何も言葉足らずというわけではなく「そう表現するしか無い」上での文章なのだと思う。人の言葉では表現できない、そういった「空間」や「概念」を水墨画を通して感じられる。

私は本作が非常に好きだが、じゃあどこが良いのか、ということはまた言葉にしづらい。もちろん脚本が良いとか水墨画の魅せ方が良いとか、そういう些末なことは言えど、本質的にはこの作品の「雰囲気」が好き以外に言えない。そういった、緻密な表現や情緒を感じる映画だと思う。

アンチャーテッド

珍しくまともな実写映画

アニメやゲーム、漫画原作の実写化はクソだと世間では言われる。それはまあ概ねそうだと思うし、良いとされる実写化は実際少ない。私もいろいろ見た上で、やはり「実写化」というものは「微妙」の類義語であるとさえ思う。

しかし、この実写アンチャーテッドはそういった印象を吹き飛ばす、完璧なムービーだ。もともと「遊べる映画」として売り出されたゲームなのに、実写化ってなんかおかしくね? と思ったが、内容は大大大満足の「アンチャーテッド」だった。

何が面白いかって、「元はゲームなんだからこれぐらい無茶やってもいいだろ!」と言うかのような演出が随所にあるところだ。そのままスペクタクル映画としてやったら「非科学的だ」なんて突っ込まれそうなものも、本作は許される。だってアンチャーテッドだから。

そしてキャスティングも秀逸。主人公ネイトを演じるのは、マーベルスパイダーマンでおなじみのトム・ホランド。彼のアクションがとにかく軽快で見てて気持ち良い。バックボーンを語る演技も迫真だし、とにかく見ていて飽きない。あとイケメン。実写化だと食わず嫌いせず、ぜひ見て欲しい一作だ。

アイの歌声を聴かせて

作画が良すぎる

とにかく感情移入させる脚本が上手い作品だと思った。登場キャラクターと同じ気持ちで物語を追える、実にスムーズな情緒の運び、その丁寧さが印象に残った傑作だった。とても泣きました。

私達はディズニーや『ラ・ラ・ランド』の登場人物ではない。だから、目の前でいきなり歌って踊ってをされても、喜ぶどころか普通に引く。というか、映画であってさえ「何この人」と思わずにはいられない。ミュージカル映画とは得てしてそういうものだ。

しかし、本作はそのドン引きをキャラもしている。そして、物語が進むにつれ、AIロボットであるシオンに対して印象が良くなってくる・・・・・・ここまでがキャラと視聴者で一致するのだ。ここの誘導が非常に上手い。

AIロボットとの共存は果たしてうまくいくのか? という、これからの時代ではおよそ夢物語ではない本作のストーリーは、決して遠い世界のことじゃない。そういう目線で見ても、きっとこの映画は楽しめるはずだ。

BLUE

タイトルの含みが良い

悪く言うと「退屈な映画」、良く言えば「リアルに人生を描いた映画」だと思う。私は退屈とは思わなかったが、批判意見としてのそれは大いに納得できる。「物語としては微妙」と言われても否定できない。

諦めきれずに夢を追いかける男、破滅と隣り合ってもなお戦う男、不純な動機で踏み出してだんだん変わっていく男。彼ら三者三様の生き方をボクシングを通して描く内容になっている。そして、コレは決して成り上がりの話ではない。

こういった話のお約束と言えば、やはり「いじめられっ子がボクシングで強くなって見返す」という内容だろう。しかし、本作はそういった順風満帆のサクセスストーリーとは遠い。彼らはずっとブルーコーナー(挑戦者側)だ。

じゃあ、そんなメリハリの無さそうな映画のどこが面白いのかと言えば、それでもなお這いずる彼らの情熱の描写だろう。「なぜ負け続けているのにそんな平気なの?」という作中のキャラのセリフは、その時と、最後まで見終えた時とで、どう変わるだろうか。

黒い司法

むしろフィクションであって欲しい内容

非常に気分の悪い、不快指数高め実話ベースの物語。舞台は90年代の南部アメリカ。国家レベルの黒人差別が堂々とまかり通っていた暗黒の時代だ。主人公は新人弁護士のブライアン。彼は、冤罪で刑務所に入れられている黒人のため職につき、救出に奔走する。

本作の内容は本当に憂鬱で、げんなりする。最後の最後でようやく報われるが、そこに至るまでは本当に嫌な気持ちにさせられる。しかし、それを踏まえてなお私は本作を自分の好きな映画に位置づけたい。どれだけ不愉快であったとしても、それが紛れもない現実であるということを直視するべきだと思った。

この時代(今もではあるけれど)、黒人というのはそれだけでデメリットだった。虚偽の証拠で捕まえられても、迫害を受けても、弁護士がまともに取り合ってくれなくても、くだらない嫌がらせを受けても、職権乱用のようなことをされても見逃される。なぜなら「黒人だから」。

物語のクライマックス、起訴取り下げの最終審理において、ブライアンが述べる陳述は本当に心に響いた。「俺たちは罪を背負っている。黒人だからな。生まれながらの罪人なんだよ」と聞き、目の前で死刑を見た彼だからこそ伝えられる言葉は、法廷だけでなく視聴者の心にも響くはずだ。

This is no longer a trial of one person. It is a trial. We choose to rule by fear and anger or by law. If the guilty rich are favored over the innocent poor, such a society is not fair. They have chosen the easy way over the truth. That is not law. It is not justice. It is wrong.

(これはもはや1人の裁判ではありません。試練です。我々が選ぶのは恐怖と怒りによる支配か、それとも法によるものか。もし罪なき貧者よりもやましい富める者が優遇されるのなら、そんな社会は公正じゃない。彼らは真実より易きに流れた。それは法じゃない。正義でもない。そんなのは間違っている。)

最後の審理より

【ドラマ】

THE DAYS

これは天災か、それとも人災か

2011年に起こった東日本大震災。その渦中にあった福島第一原子力発電所で何が起きたのか、それを綿密な調査を元に、原発所内、政府、東電の視点で描く物語。似たコンセプトの『Fukushima 50』は尺の都合で描写不足感があったが、こちらはそう感じなかった。

原発事故の問題は、当時から長く情報規制が敷かれ、私含む多くの国民にとってはぼんやりした事件だった。おそらく何かマズい事態にはなっているんだろう、という程度で、どこまでヤバいのかが把握できないままだった。私はゴリゴリに被災した身だが、それでさえ分からなかった。

本作は「原発はダメ!」みたいな単一的な視点ではなく、それに関わった3つの勢力から淡々とシーンを描いている。電源喪失によるベント作業に際し、作業員はどうしていたのか、政府はどうしろと命令したのか、東電は何を考えていたのか。もちろん、フィクション部分もあるだろうが、かなり精緻に描いている。

あの日、原発事故は文字通り、日本が壊滅するかどうかの瀬戸際だった。その事故が回避できたのは、今も厳密には原因不明だが、しかし吉田所長を含め当時の作業員の方々のおかげが一端だということは間違いない。忘れてはいけないただありのままの事実を描いたものとして、本作は非常に価値のある作品だと思う。

ザ・プレイリスト

音楽の権利は誰のもの?

世界的人気音楽サービス「Spotify」を作り上げるまでの物語。単純な開発秘話というものではなく、うまいことフィクションとリアルが融合していてエンタメとして非常に面白かった。人間の描き方が濃いのがグッド。

こうしたスタートアップ企業の頭というのはだいたい過激な人が多いが、Spotifyも例外ではなく、ダニエル・エクはなかなか攻めた人物だった。とにかく自分のイメージは譲らないし妥協もしない。そう言えば聞こえはいいが、実際はかなりの横暴というふうに見えた。

クソ上司特有の「なんかイメージと違う」で高品質なベータ版を一蹴するし、少しでも妥協の波を感じ取るなら「その話はナシ」と断固拒否。結局、本人にそもそもの実力があったり、カリスマがあったからこそ部下や同僚が付いてきたが、かなり危険な人間関係を描いていた。

あとは、今でこそ音楽サービスなんて誰もが平等に使える時代だが、それまでにどういういざこざがあったのかが描写されているのも興味深い。著作権、利権、海賊版・・・・・・これらがどう生活とあり、そしてSpotifyがどう変えたのか。今に密接に関係するドキュメンタリーとしても面白い。

スカム

逆だったかもしれねえ・・・・・・

タイトルの「スカム」は「人間のクズ」とかを意味するらしい。それに恥じないような内容。オレオレ詐欺などを生業とする集団、特殊詐欺の実行側について描いたドラマだ。だいたい『闇金ウシジマくん』に近い。

どこにでもいるような好青年が裏では何百億ものお金を老人たちから奪い取っている・・・・・・そうなるまでの過程や、実際に詐欺を働く現場などを、実態を取材したルポをもとに構成。セリフや境遇がリアルもリアル。まさしく、怖いけど面白い世界だ。

特殊詐欺の被害というのは決して珍しいものではなく、そして、自分が実行犯に絶対にならないとも言い切れないような現実が今そこにある。実際問題、世代間格差や低賃金労働、将来への果てしない不安がつきまとう現代日本で、安直に闇バイト等に手を出す若者(だけではないが)は少なくない。

ひとつの闇を描くドラマというだけでない、現実と薄皮一枚隔てた風刺のようなものとしても、本作は価値が大いにあると思う。あとついでにまふまふの担当する主題歌『ジグソーパズル』が良い曲。

セレブリティ

フォロワー数で殴ると人は死ぬ

インスタ版ドラゴンボール。どれだけSNSに自分が関与しているかで受け取り方が変わる作品だと思う。あいにく、私はSNSから距離をおいてるので、本作をギャグだと思って笑いながら見ていたが、もしかしたら「感動しちゃった;;」「共感できます;;」みたいな女性も多いのかもしれない。

インスタグラムというものは、どうやらそこのフォロワー数ですべてが決まるらしい。すべてというのは文字通り「すべて」で、フォロワー数が多ければ中世貴族かのような扱いすら受けられる。要は特権階級。実際どうかは知らん。

なぜドラゴンボールかと言うと、そのフォロワー数でバトルが始まる描写が多々あるからだ。「お・・・・・・オイ! あいつ、まさかあの・・・・・・!?」「バカな!? フォロワー数8万だと!? おい、道を開けろ!!」だの「SNSをやっていない? フッ、戦闘力0のゴミめ」「な、なに!? 最近インスタを始めたのにすでにフォロワーが1200・・・・・・いや、1500!? バカな、まだまだ上がるだと!?」とかやってる。ウケる。

とは言え、ただSNSに脳を侵されてる人々を描いてるだけじゃなく、一応くくりとしてはサスペンスだ。平成の中期頃のハードなドラマ(『女王の教室』、『野ブタをプロデュース』、『ライフ』などなど)ぐらいのいじめとか嫌がらせとか、そういう内容も多い。世の中にはいろんな世界があるんだなと思える良い作品。

ビリオンダラー・コード

京都イベントが感動的なんですよ

今や当然のツールとしてある「グーグルアース」。その原型となった「テラビジョン」そしてそれを作り上げた人々がメインの物語。グーグルが特許侵害をしたのでは? というところから話は始まる。

私はこの物語について、グーグルという巨大な怪物に飲み込まれる危険性に少なからず警鐘を鳴らしているのだと感じた。私達の生活は最早グーグルサービスと切っても切れない関係性にある。ある意味、生活を委ねているとさえ言える部分がある。そこが牙を剥いてきたら?

周知の通り、現代においてグーグルアースはともかく、テラビジョンを知っている人はほとんどいない。それがなぜかをグーグルで検索しても、明確な答えは見つけづらい。つまりそういうことなのだ。

結果として暗いオチではあるが、ドキュメンタリードラマとして非常に面白い。魅せ方が非常に上手く、見入ってしまう。1話のラストシーンだけでもぜひ見て欲しい。とある日本人がテラビジョンに触れ、自分の故郷を見つけたときの涙は思わず自分も感極まってしまう。テクノロジーの本懐を実に鮮明に写していた。

未成年裁判

法はなんのためにあるのか?

少年法はなんのためにあるのか、少年事件はどう対応すればいいのか、また、それらを取り囲む政治や確執、軋轢。様々な要因で出来上がる、不安定な「未成年裁判」について描いた作品。間違いなく今年のベストドラマ。見てよかったと心から思えた。

本作は決して「悪いことをしてしまった少年少女を正しい道に諭す正義のドラマ」・・・・・・みたいなものではない。現在、韓国では少年法を巡ってかなりの論議が巻き起こっており、それを踏まえて「解釈を委ねる」内容になっている。「こうすればいい」ではなく「どうすればいいと思う?」。

法律とは完璧なものではない。それが絶対的な真理ではない。あくまでそれは、これまでの人たちの研鑽の上に置かれた、ひとつの解釈にすぎないということを作中の様々な事件において提案している。判事すら完璧でない・・・・・・では、裁判は何が正義なのか。

残念ながら、現実は「悪いことをしたからこういう裁きがくだります。あとは更正してみんなハッピー」なんて簡単には行かない。その決定を下してどう影響が出るのか、どう責任を取るのか。少年少女のその後は、果たして考えなくても良いものなのか。とにかく重い内容だが、考えさせられるのは間違いない。

タイガー&ドラゴン

ただシンプルに話が面白い

「俺の! 俺の!! 俺の話を聞け!!!」でおなじみのあの曲が主題歌のドラマ。本作はとにかく脚本がスゴい。キレイに最後ひとつにまとまるオチとして着地する、とにかく脚本がスゴいドラマ(2回目)。落語を知ってても知らなくても楽しめる、そんなお話。

長瀬智也演じる虎児は話下手で冗談の通じないヤクザ。ある日、偶然見た落語の高座に感動し、噺家として弟子入りをする。しかし、とにかく落語を覚えるセンスが無く、それならと自分の実体験と古典をリンクさせた新たな創作落語を演じ、それがやがて話題を呼ぶように。

ジジイ趣味みたいな扱いを受ける落語をもっと身近に、それを現代でやったらどうなるのか? を意識した1話完結のスタイルで、フリからオチまで完璧なコメディスタイル。そして、その1話ずつがまとまって、最後につながる。

キャストの演技も良いし、見終わった後の満足感もスゴい、まだまだ輝いていた頃の日本ドラマの名作。「わはははは」より「なるほどなあ」、笑って少し感動する、そんなタイガー&ドラゴン。

魔法のリノベ

エンディングが本編みたいなトコある

リノベーションとは、すでにある住宅に改修や修復を行い、価値を取り戻すことを言う。要は素材の味を活かして、新たな側面を発見しましょうみたいな話だ。リフォームとはまた違うらしい。

本作は、地域密着型の小さな店「まるふく工務店」にやってくる、様々な悩みを抱えたリノベ案内を解決するという内容だ。しかし単に「間取りを広くして欲しい」をそのまま受け取るのではなく、どういう人間関係、背景にそれを要求しているのか、を解き明かしていく描写がメイン・・・・・・そしてそれが面白い。

「家のリノベは人生のリノベ。それが成功すれば生き方は大きく変わる・・・・・・だから、リノベは魔法なんです」というセリフが印象的だった。リノベはただ家を改修するだけじゃない、人間関係の修復すらもできる・・・・・・そういう提案が新鮮で興味深かった。

そして本作のエンディングもまた素晴らしい。ヨルシカによる『チノカテ』が流れるのだが、これに合わせて毎回エンディングが変わる。歌詞も非常にマッチしていて、最後まで楽しめる素晴らしい構成になっていることも推したい。

これから先のもっと先を描いた地図はないんだろうか?
迷いはしないだろうか
それでいいから
そのままでいいから
本当はいらなかったものもソファも本も捨てよう
町へ出よう

ヨルシカ『チノカテ』

【アニメ】

コードギアス反逆のルルーシュ

C.C. がかわいいアニメ

緋弾のアリア、灼眼のシャナやとある、ハルヒが人気だった時代、ひときわ輝いていたのがコードギアスだったように思える。しかし、その輝きは純粋な光というわけではなく、ネットのおもちゃという扱いだった。ニコニコユーザーならきっと、ルルーシュがMAD素材になっているのはおなじみだろう。

私は当時、流し見程度で見ていた。ということでほぼ内容を覚えていない。有名な「ギアス」とか「ゼロ!」とかも、どういうシーンだったっけ? というレベルだった。てことで懐かしいなあ程度で視聴開始。

結果的には大満足だった。こんなに面白かったんだなと素直に思えるぐらい楽しんで全話視聴した。そりゃまあ、ネタにされる(=知名度がある)ってことは面白いということだろうし、当然といえば当然だが・・・・・・。

また、今の年齢で見たのが良かったなとも思う。もしかしたら、クソガキ時代に見たらルルーシュにあこがれてしまっていたかもしれない。今見ると彼はアホに映ることも多々あるが、それはやはり、人間として様々な経験を積んだからこそ見えるのだろうなと。

送葬のフリーレン

原作とはまた違った良さがある

スマッシュヒットを記録している大人気アニメ。なんとなくで見たらドハマりしてしまった。久々に続きが気になる作品を見れた気がする。気に入りすぎて原作全部買っちゃったぐらいには大好き。今年のベストアニメでした。

主人公は1000年以上の時を生きるエルフ、フリーレン。彼女は人生観の違いから、他の文化や存在、人間を理解することができなかった(おろそかにしていた)。彼女にとって10年や50年はすぐだし、長寿ということはそれだけ時間に無頓着。しかし、ある時、彼女は勇者との別れから、自分が「理解しようとすら思わなかったことの愚かさ」、そして彼との永遠の別れに涙する。そして、やがて彼女は「人間を理解するための旅」に出る。

魔法などの技術は卓越したものがあるのに、それ以外の情緒などは不完全も不完全。そんな欠けた存在であるフリーレンの成長の描写がとても良い。彼女が未完成で不完全だからこそ、出会いや、会話で少しずつ変わっていくさまがよく分かる。

単純に作画が良いとか、キャラが可愛いなんて表面的な要素だけじゃなく、その心情描写が非常に精緻だからこそウケたのだと思う。フリーレンの、変わろうという意思、行動はとても胸を打った。弟子へのプレゼント回とか泣くわあんなん。

とある科学の超電磁砲

放て! 心に刻んだ夢を

これもまたコードギアスとかあの時代の思い出のひとつだ。ブルアカのコラボでレールガンが抜擢されたので、じゃあ久々に視聴をしようと思ったのがきっかけ。当時も見ていたが、やはり10年も前のことだと覚えていない。

見ていて思ったのは、メインの主人公たち学生じゃなく、大人たちの視点で物語を自然に俯瞰しているなあということだった。そりゃ10年も経てば物理的にも精神的にも目線は変わる。あの頃は大人や、不条理に立ち向かう主人公たちに添って楽しんでいたが、今となっては木原先生とか側で見てしまう。

あとは佐天さんへの印象が大きく変わったのも自分の変化だと思う。当時は「無能力者」になんの魅力があるのか分からなかった。しかし、コレまでの人生でいろいろ経験をして「何にもなれない存在」というのが、また自分でもあるというのを思うと、いま彼女の気持ちは痛いほど理解できる。

「なんの価値もない自分は、いなくてもいい存在なのかな」なんて悲しすぎるからやめてくれ。初春と一緒になって泣いちゃったよ。そんなことない!!!!!!!!!!!!!!! 生きててえらい!!!!!!!!!!!!!!

【ゲーム】

戦場のヴァルキュリア

結局初代が一番面白いシリーズ

PS3史上最高のSLGと呼ばれた名作。今回プレイしたのはPS4リマスター版。だいぶ昔に買ってそのまま放置してたのを思い出し(PS3版自体はプレイ済み)懐かしいなーという気分でやってた。

リマスターなので基本的に変更箇所は画質の向上やロード時間短縮のみ。メインのゲーム部分には影響がなかった。戦場のヴァルキュリア・・・・・・だけでなく、こういったシミュレーションゲームは相手ターンの短縮機能とかが無いとグダるので、それが少し残念。

だが、ゲーム性そのものはPS3版の時点で完成されていたし、相変わらず面白く、ストーリーも良かったのでプレイ後の気持ちとしては清々しかった。まあ、どうしても今の時代のゲームに比較すると古臭さはあるが、十分に楽しめる範囲の良作だ。

1ファンからすると、戦場のヴァルキュリアはシリーズを追うごとに劣化しているように思える。開発の努力や頑張りは理解できるが、結局は新規IPとして打ち出した初代が過不足無く一番良くできてたよなあ、なんて感慨深くなってしまう、そんなプレイだった。

水彩画みたいなグラフィックがとても良い

ブルーアーカイブ

やっぱり社長がナンバーワン!

ゲーム内容よりもキャラのR18絵とかのほうがよっぽど有名なスマホゲーム。ちなみに私も、プレイ前の時点では内容は一切知らなかったが「早瀬ユウカ」というキャラだけは知っていた。

巷では「ストーリーがめちゃめちゃ良い!」と聞くので、それならやってみようということで開始。結果的には、「そこまで言うほどじゃない」という結論に落ち着いた。もちろん好き嫌いの話だが、私が心から良いと思ったのは全体における2割ぐらい?

ストーリーはそんな感じで肩透かしではあったものの、ゲーム体験としては新鮮なものがあった。そもそも自分がスマホゲームを全くやらない人間なので、デファクトスタンダードが良くわからないが、それでもブルアカはかなり優れているのを感じた。SDキャラの動きがかわいく、ゲーム性が高くて面白い(あくまでスマホゲームとしては、だが)。

そして何より、本作をやって一番良かったのは「陸八魔アル」というキャラを知れたことだ。久しくキャラ萌えというものから離れていたが、そんな折にメテオインパクトがやって来た。陸八魔の良さを語るにはそれだけでまた1万文字ぐらいは必要なので、ここでは黙しておく。結婚しよう、陸八魔。

お前が私のワンダーウォールだったんだよ

ファイナルファンタジーXVI

別記事に感想をまとめているので割愛。

Needy Girl Overdose

一緒に地獄に堕ちよう!

多分今年一番良かったゲーム・・・・・・なんだけど、これをどう表現したらいいか、その言葉が見つからない怪作。きっと10年後も忘れないし、強く人生に影響を与えたと感じるものの、その良さや魅力を伝えられない(語彙が無さすぎて)。不思議なゲームだった。イメージ的にはドキドキ文芸部がかなり近い。

そもそもは自分の好きなインターネットミームおじさん(褒めてる)の「にゃるら」が作っているということでずっと気になっていた作品だった。でまあ当時買ったは良いものの、そのまま積んでいたので今年プレイ。最高だった。その後の展開も追いかけるぐらいには最高だった。

普通というのは味気ない。平凡というのはつまらない。平穏が欲しいならそういうものを大切にするべきなのに、スリルが欲しい愚かな人間はヤバいものに手を出して、その非現実感とか虚構性の虜になって沈んでいく。

本作はそういう、見えてる闇に自分から突き進んで、戻ったほうが良いと分かってるのに戻らない・・・・・・本能と理性の境界を綱渡りしてる感覚になるようなゲームだった。「メンヘラが欲するのは理解ある彼くんじゃなく、一緒に地獄へ堕ちてくれる奴隷」だと言う。あめちゃんを見てると、その言葉の意味が少しわかった気がした。†昇天†

悪い子じゃないんですよ、決して

Marvel's Spider-Man

紛れもなく神ゲー

単なるオープンワールドゲーム、キャラゲーのみならず、ゲームとして別次元のクオリティを誇るやべえ作品。開発はインソムニアック、ラチェクラなどで有名な洋ゲー会社だ。

このゲームはとにかく移動が楽しい。オープンワールドにおいて、移動というのはどうしても退屈になりがちだ。かと言ってファストトラベル連打も味気ない。そこを「スパイダーマン」という下地をもとに提案したのがスイングで、これが革命にも近い印象を与えた。

スパイダーマンならではの移動で、ストレス無く画面が移り変わる。そして、合間の移動中もラジオやアクティビティにより退屈させない。本当に、これで移動させることを目的とした要素の作り込みが細部に渡って感じられる。もちろん、ファストトラベルで省略してもいい。選択肢があるのだ。

キャラゲーというのはどうしても大味なものになることが少なくない。あくまでキャラごっこなのだから、ということで、もうちょっとどうにかならなかったのかなという仕様などなど。しかし本作はあらゆる要素がキャラゲーという枠を飛び越えたクオリティになっている。スゴいとしか言えない。

これゲーム画面です

アサシンクリードオリジンズ

すべての始まりの物語へ

新生アサシンクリード、その始まりの作品。これまでのアクションゲーム路線から大きく変わり、RPG要素が強まった。舞台も原初に立ち返り、前作が産業革命全盛期の19世紀イギリスから2000年近くの時を戻り、古代エジプトへ。

明確なレベル制、ファークライでおなじみの野生動物からの素材集め、シンクロ条件の廃止などなど、良くも悪くもこれまでのお約束を撤廃した新たなアサクリ。最初こそ戸惑う部分もあったが、結果としてはコレはコレで良いなという印象に落ち着いた。ひとつのOWRPGとして傑作。

基本動作システムも大幅な刷新が加えられ、全体的な行動がスムーズに。より遊びやすく一般化したように思える。暗殺による一撃死が場合によっては不可能という点はイマイチ納得行かないが、逆に言うと不満部分はそれぐらい。

何より、本作の舞台であるエジプトのロケーションは本当に最高だったということを声を大にして言いたい。この時代のこの場所をここまで自由に駆け巡れるゲームは他にふたつと無い。そういう意味でもオリジンズは傑作だ。

世界で一番高いところからの景色

アサシンクリードオデッセイ

THIS IS SPARTA!!!!!

前作オリジンズから引き続きの新生アサシンクリード。今回の舞台はさらに昔、映画『300』でおなじみ、テルモピュライ以降の古代ギリシアだ。歴史の父ヘロドトス、哲学者ソクラテスなどなど、歴代でも屈指の有名人が多数登場する。

オリジンズから明確な進化を遂げた部分はかなり多い。特に戦闘面。アビリティが追加され、ただ殴る蹴るだけの戦闘ではなくなった。白兵戦もそうだし、暗殺関係のアビリティでは現代アサシンもビックリなステルスが可能になる。さらには落下ダメージが無くなるというスゴい事態に。

そして相変わらずロケーションへの力の入れっぷりも凄まじい。どこを歩いても古代ギリシアの息吹が感じられる驚異的な作り込み。さらに前作と同じく、アツいシナリオを舞台がさらに盛り上げる。キャラやストーリーが良い、これは本当に推せる部分。

だが、どうなのと思った箇所もある。それは「ありえないぐらいマップが広い」ということだ。マップが広い、で想像した5倍は広い。しかも狂ったようにアクティビティがある。幸いにも、別に全部しっかりやる必要はないが、それにしてもこの異常な量はなんなんだろうか・・・・・・。

どう考えてもマップが広すぎる

ポケモンプラチナ

エメラルドまでしかやったことなかったので

令和5年に第4世代のポケモンを初見でやることになるとは思わなかった。発売はなんと2008年。世間はスカーレットだかバイオレットだかやってる中で、私はシンオウ地方に向かった。

本当に時代錯誤な感想で申し訳ないが、DSの2画面を使って操作できるのが感動だった。技の選択画面と、アクション画面で分かれてるのが画期的だなと。・・・・・・これ本当に2023年のゲーマーの感想か?

そして特筆したいのがストーリーについて。これまでに自分がやったポケモン(第3世代、エメラルドまで)で、物語について何か感じたことというのは特に無かった。言っちゃなんだが、所詮ポケモンのストーリーだしな、という程度。

しかし、本作のストーリーはただ勧善懲悪ということではなく、次元や時間、空間に関与を示す、かなりSFチックな話で興味深かった。こうなってくるといよいよ神の領域だが、実際ディアパルは神に近い存在だそうな。シンプルに先が気になるポケモン、ということで大変楽しかった。あとシロナさんが良いキャラすぎる。大好き。

性格が良すぎる

ポケモンソウルシルバー

金銀クリスタル好き歓喜

プラチナもやったし、じゃあ次はソウルシルバーでしょう、ということでプレイ。過去作では特に金銀クリスタルが好きだったので、結構ワクワクして始めたのが記憶に新しい。結果としては最高のゲームだった。

リマスターではなくリメイク、ということで、原作の良さを残しつつ、今風(とは言え2009年の頃の話だが)にアップデートしたのが本作。当時だったからこそ許された不便な部分は軒並み解消し、新たな解釈として生まれた第2世代はとても心地良い。

特に、原作をやった人へのサービス的な側面をプレイ中に多々感じた。それは演出だったり展開だったり。良いものはそのままに、微妙な部分は改善して盛り込むという、新参にも古参にも嬉しい、完璧なリメイクだったように思える。

個人的には、原作では隠し要素みたいなものでちょろっと出るだけだったルギアやホウオウが、ちゃんとひとつのイベントとして昇華されたのが良かったなと思う。そのための舞妓さんの伏線も序盤からあり「知ってるけどどこか違うゲーム」の演出に一役買っていた。

タイタンフォール2

この頃のリスポーンはスゴかった。好きすぎて動画を作りました。

ゴッド・オブ・ウォー

クレイトスさんも大人しくなったなあ

新たなゴッド・オブ・ウォー、過去作からロケーションや戦闘システム、各種要素などのすべてを一新したリブート作品。カメラ固定の高難度コンボゲーから脱却し、背面カメラのR1攻撃という、ソウルシリーズに近い操作感になった。

かといって難易度が落ちたかと言うとそんなこともなく、むしろ過去作と同じかそれ以上とも言えるぐらいの印象。だがこれについてはカメラワークが悪さしているように思える。かなりカメラが近いため、死角からの攻撃に対処しづらい。

しかし、難しいのは攻撃手段や体力が限られている序盤だけで、なれてくるとかなり自由悪逆に敵をなぎ倒せる。ヒットエフェクトやSEなどによる、攻撃の爽快感が抜群なのでとにかく殴り合いが楽しい。そしてバランス調整が絶妙で「理不尽感」は殆どない。必ずやりようがある。

そして、リブートされたことによる主人公クレイトスの変化がゲームシナリオにかなり良い風を吹かせていた。本作はシンプルに親子の絆の物語だ。しかし、実際8割ぐらいはギスギスしていて、男親の苦悩が見られる。ただ、だからこそ世界の山頂にまでたどり着いた時の感動はひとしおだった。

デッッッッッッ

キングスフィールド4

デモンズやダクソに負けず劣らず

今や世界的に有名なゲーム、ダークソウル・・・・・・そしてそれらの系列とされるソウルシリーズ。その源流となったのがキングスフィールド。本作はナンバリングとして4つ目、キングスフィールド最後の作品だ。

そもそもは6、7年前に1~3をプレイしていて、そういえば4をやっていなかったなということで今更プレイ。発売から20年ちょい後にやった往年の名作は、今のソウルシリーズに全く劣らない、名シリーズの祖先にふさわしい内容だった。

ソウルシリーズに共通するのはやはり、マップ探索の楽しさだ。あのアイテムはどうやって取るんだろうという探究心、ここからあそこにつながるのかという感動、もう帰りたいけどセーブポイントが無いという恐怖心・・・・・・これらはすべてキングスフィールドの頃で、すでに成熟していた。

UIや諸々にどうしても古臭さは感じられるものの、ゲーム部分が面白ければまったく気にならない。非常に長い旅ではあったが、ただひたすらに楽しく、最後の最後までプレイできた。そのうえで、あのEDが見られたのは本当に最高の気分だった。やっぱり月光が一番!!

狩人よ、光の糸を見たことはあるかね?

【マンガ】

黄泉のツガイ

ツガイが良いキャラしてるんですわ

『鋼の錬金術師』『銀の匙』『百姓貴族』『アルスラーン戦記』『獣神演武』でおなじみ荒川弘の新作。本当にこの人は名作しか描けないなあという感じの内容。続きが非常に楽しみ。

旧時代的な山奥の村に住む少年ユル。ある日、村は謎の武装集団によって襲撃される。一命は取り留めるものの、妹は謎の少女に殺害されてしまう。しかし、実はその少女こそが本物の妹らしい。わけがわからないまま村の守り神、左右様を引き連れ、ユルは仲間と外界へ逃げることに。村の外で何が起きていたのか? 村の襲撃はなんだったのか? 本当の妹とは? ということを探っていくお話。

2023年12月現在は5巻までしか発売しておらず、連載も絶好調なのでまだまだ先が見えない状態。だんだんと謎は明かされているものの、革新的なものはまだ見えずじまい。相変わらず引きが上手い展開で目が離せない。

過去作と同じく、とにかくキャラが立っていて、ストーリーも惹きつけられる魅力がある。ツガイという、いわゆるスタンドみたいな存在もただの舞台装置ではなく輝いている。新刊が実に待ち遠しい作品だ。

Aをねらえ!

エロ関係なく、創作意欲がアガる名作

2巻で完結なものの、実質的には1巻で完結。借金を背負ったとある女性が一発逆転で同人活動を開始、億の売上を叩き出す壁サークル(Aスペース)を目指す物語。

主人公が挑戦するのは男性向けR18作品。いわゆる、一般的にエロ同人と呼ばれる、界隈では最大規模の市場だ。本作は、そもそも自分がそこに参戦したいという思いがあった故に楽しめたが、それ以上に普遍的なストーリーラインで、シンプルに興味深かった。

主人公の絵はキレイで、上手く、流行りの絵柄も押さえられている。しかし、評価は芳しくない。それに納得がいかない彼女は憤る。「男なんて合体部分がいっぱい見られればそれでいいんでしょ?」との彼女の意見は間違いじゃないが、正解でもない。

では、R18を買う顧客は何を求めているのか? ということを伝えてくれる先輩絵師の話は非常に聞き入ってしまった。「エロは物量じゃない。”流れ”なんだ」という説話は、男ならきっと共感できるのではないだろうか。というか、エロ関係なく二次創作とかする人にこそ読んでもらいたい一作。

二次創作とはなんのためにするのか?

ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜

笑って泣けて考えさせられるマンガ

何かのキャンペーンで全巻無料の時に読んだが、警察部分を強めた現代版こち亀みたいな内容で非常に面白かった。基本的にコメディなので笑えるものの、部分的にシリアスな重い話がある。作者が元警察官だからこそ描ける漫画だと思う。今年のベスト漫画。

主人公の川合はなんとなくで警察になった女性で、別に大義もなければ心意気も持ち合わせていない、ただやめる決心がつかないだけの警察官。いよいよもって辞表を提出しようと思っていたが、そこで新たな教育係、藤のもとへ配属になる。彼女のもとで様々なことを学び、自覚が少しづつ芽生えていく・・・・・・という内容。

本作の面白いポイントは、やはり笑える部分とシリアスの配分だと思う。ずっとギャグなわけじゃなく、そして重い話が連続するわけでもない。現実を描きつつ、どこか救いがある着地をする展開が、飽きずに読み続けられる。

特に、交通課の宮原巡査部長が関わる話は印象が強い。ある日、川合は事故現場でぐちゃぐちゃになった赤ちゃんの姿を見てしまい、心に深い傷を負ってしまう。そして、別日、チャイルドシートの着用義務を違反している女性に、執拗なまでに忠告をする。結果として反発されるも、彼女は「アレ」を思うと適当には流せない。その時の宮原のセリフがとても良い。

お前の頭にこびりついた光景を見せつけてやりたいだろ。
何も知らねえくせにってムカつくよな。
でも、知らなくていいんだあんな光景。
当事者にならない限り知らなくていい。
そして、その当事者を増やさないためにやるのが、俺らの仕事だ。

ハコヅメ第4巻「トラウマ」

火葬場で働く僕の日常

殆どが知らないお仕事

私達の生活になくてはならないが、詳しく知らない仕事というのは多い。人は生きて、やがて死ぬ。その死に関係する仕事というのは、まさしくそうではないだろうか。本作は、遺体を火葬する仕事に携わった経験を漫画化したものだ。それだけで非常に興味深い。

主人公は「火葬場職員は人生の締めくくりをしてあげられるすばらしい仕事」だと考え、熱い気持ちで入社する。しかし、実際の現場と言えば体力的にも精神的にもハードなものだった。遺体を焼くというのはどういうことなのか、また、業務としての辛さはどういうことがあるのか。それらをつづった内容になっている。

本作に収録されている話に、幽霊に関する物がある。やはりというかなんというか、こういった話題は避けられないのか、不思議な出来事として片付けられていた。私は別段そういったものを信じてはいないが、実際、遺体を焼く場所になんらかの影響がないとは考えにくい。

言ってしまえば、人間はただのタンパク質水分その他の合成物質だ。意思や感情というのは曖昧で、死後の魂や霊魂の存在というのは現代科学でも解明できないし、どうしても眉唾に等しい。しかし、人としての最後の姿を看取る場所ならば、不可思議な現象が起きたとして信憑性を感じるのも仕方ないのかも。

【本】

ぴえんという病

とても話が重い、ぴえん

現代日本におけるスラム街とも呼ばれる、歌舞伎町「トー横界隈」。本著は作者の実体験と取材を踏まえ、そこに生息する彼ら彼女らのリアルをつづった一冊だ。現場を描写する単なるルポではなく、文化をなぞり、その背景を浮かび上がらせる、ひとつの現代若者論としても秀逸。

内容はとにかく「衝撃」の一言に尽きる。これが本当に2021年(作中での年)における東京でのことなのかと思うぐらい民度の低いアレコレが描写されていた。マジでフィクションかと疑うレベル。

地雷系女子だのトー横界隈というのはニュースや誰かのリポストなどで嫌でも目にする。しかし、その実態や事実は良く知らない「聞いたことはある」だけの典型的なひとつの現象(あるいはコンテンツ)だった。それを詳細に知った今、好奇心よりも恐怖に近いものが自らにある。

SNSと承認欲求に縛られ、誰かを推すことによってのみ自我を保てる彼女らは果たして不幸なのか? それとも、瞬間的な快楽でその日を楽しんでいる彼女らこそが幸福なのか? ウシジマくんでしか見ないような世界が日常として送られている界隈の話は本当に興味深かった。

健康を食い物にするメディアたち

リテラシーとはなんなのか?

普段インターネットを使っている人たちにおいて「WELQ問題」というのは、決して過去のいち出来事ではなく、「ネットで検索すれば答えが見つかる」ということの不完全性を証明した事例として記憶に新しいだろう。

本作はWELQ問題について切り込み、そこから、それが起きてしまった原因や絶えない「医療デマ」について問題提起する内容だ。しかし、単に医療関係だけの話ではなく、インターネットにはびこる「都合の良い嘘」への対策や向き合い方についての提言も行っている。

総括すると本著は「正しい情報を取捨選択することのリテラシー」に焦点を当てた主張になっている。例えば「頭が痛い 原因」で検索したとして、そこから出てきた情報は、どれを信じればいいのかということについて。しかし、この方法や考え方というのは面倒で、「だからこそ私達は安易で優しい嘘に騙される」と筆者は言う。

人は複雑な真実よりも単純な嘘を好んでしまう。そしてそれが肥大化し、やがてWELQ問題になってしまった。情報を吟味するとはどういうことか、正しさとはなにか? 悪意ない情報が誰かを苦しめる可能性のある時代だからこそ、刺さる一冊だった。

世界の危険思想

やべーやつのやべー話

「人を殺す」ということを厭わない人間の思考回路はどうなっているのか、というような、普段の生活では見慣れない想像を絶する世界の事を述べている一冊。ドラマや漫画の世界でしかお目にかかれない「殺し屋」にリアルに会ったそうだ。行動力がスゴい。

普段の生活では、殺しはもちろん、ちょっとした犯罪や事件にすら巻き込まれることはない。それは日本が平和であることの証明だし、何も悪いことはない。しかし、その平和ボケによって悲惨なことになることもある、と筆者は言う。

私達は明確な悪意や敵意に対しての耐性が無い。だからこそ、そこを突いた凄惨な事件が起こってしまう。「想像を絶する」というのはつまり、それが現実だと分かっていないということでもある。誰だって、いつだって、どこだって、それに関わる可能性はあるのに。

いくつもの病気や感染症に罹り、人間の体には免疫がつく。これと同じように、世の中には明確な悪意があるということ、敵意を持って接する人間が居るということを日常から理解しないと、平和ボケに呑まれてしまう。それが危険思想を学ぶということだ。

僕の人生には事件が起きない

起こってるだろ

ハライチのパッとしない方、岩井勇気のエッセイ。びっくりするような展開、お笑い芸人ならではの大爆笑エピソードなんぞ無い、と本人は述べるが、記述されている日常はずいぶんと面白い。

しかし、起きたことそのものについては別段、面白いという印象は受けない。本著の内容に思わず笑ってしまうのは、岩井勇気の視点が独特だというところに尽きる。起きたことに対する考え方、思想などなど。

いわく、わたしたちの生活というものはたとえ誰であっても明確な面白さを持ったドラマなど起こらないそうだ。それを踏まえた上で「この人の人生は面白いな」と思わせるような話を多く持ってる人は、そもそも物事への視点が常人とは違うと述べる。捉え方次第だと。

ただ、「大して仲良くもない知り合いの誕生日パーティーに魚雷を持っていった」なんかは字面だけでだいぶ面白い。前述した視点も納得感はあるが、そもそも本人が面白いというのが理由の一端として大きいんだろうなと。

奇書の世界史

ゆっくり解説でおなじみのアレ

もともとはニコニコ動画で投稿されていたものが書籍化された一冊。単に良書か悪書かではなく、世界に影響を与えた本としての「奇書」を紹介している。とにかく調査量がすごい。コレに尽きる。

現在の価値観で過去を断罪するというのは愚かだ。歴史で見れば、過去のなんの事例が未来のどれに影響を及ぼしているのかは一目瞭然だが、当時の人間はそんなことを理解するはずがない。分かりようがないのだ。

例えば、2030年に第三次世界大戦が始まったとして、何がその影響になったかは渦中の人間にはわからない。未来の人間からしたら原因は明確だろう。しかし、それはやはり後世から概観したから分かる話だ。現在の時間軸の話ではない。

本作で紹介されている奇書は、そういった当時としてはセンセーショナルな話題を作り上げたよねというふうに見られる本ばかりだ。現代の日本を生きていて魔女狩りが愚かなことは誰しもが分かっている。しかし、当時はたった一冊の本で虐殺が発生してしまった。それを、今の私達がただ「愚か」だと切り捨てるだけなのは、少し違うだろう。

伝えることから始めよう

生まれながらのセールスマン

おそらく日本一有名なセールス会社、「ジャパネットたかた」の高田社長による自伝。実際、聖人らしいが、文章の感じや論理からもそれをスゴく感じられた。なぜここまで常に利益が高いのか、ということを精神性で示している内容。

本人は番組を作る際に売上や反響をそこまで求めていないそうだ。「自分が心の底から良いと思った商品を、どうやって伝えようか」としか考えていないらしい。だから利益などは度外視で、伝えることから始めていた。

セールスというものは、大前提として「自分が好きじゃないもの、自分が良いと思っていないものは売れない」と社長は述べる。好きだからこそそれの良さを誰よりも知っている・・・・・・つまり、対象への解像度が高く、より幅広い層にリーチすることを伝えられるのだ。

特にカメラのセールストークが印象深い。普通は「容量が~~」や「解像度が~~」「充電が~~」と、その性能を紹介するだろう。しかし社長は違う。誰がどの用途で使うのか? を考え「思い出をずっと残すことができます」と語るのだ。

お子さんが生まれたら、毎年1枚、良いカメラで写真を撮って、それを新聞の大きさに伸ばしてください。
すると、成人の日までに20枚の大きな写真が揃いますよ。
それをお子さんにプレゼントするんです。
最高の贈り物になると思いませんか?
それが出来るのが、良いカメラなんです。

https://www.hinokami.co.jp/megane/193/

宇宙はなぜ美しいのか

統一理論が生まれるその日まで

とにかく知的好奇心に溢れた一冊。今の最新の学説において宇宙はどこまで分かっているのか、そもそも宇宙の構造とは、ダークマターとは・・・・・・ということを非常にわかりやすく、簡潔に説明してくれる。幕間の画像も神秘的で、ビジュアル的にも楽しい。

しかし、本作が良いと思う部分は、単にそういった知識書としての秀逸さだけでなく、「本当にこの人は宇宙が好きなんだな」と感じられる文章にこそある。背景の情熱を読んでて感じるので、純粋にワクワクして読める。やはり、創作物に作者の熱意は伝播するのだ。

私は専門ではないのであまり大きなことは言えないが、それでも村山先生の言う「物理学における美しさ」は大いに共感できたし、いつか統一理論が発見されたのならば感嘆の意は免れないだろう。読んでいけばきっと、門外漢にとっても、その「美しさ」は理解できるはずだ。

また、村山先生はWIREDで動画も出している。本で語られているような内容を質疑応答の形式で語っている。こちらも非常に面白い内容になっているので、ぜひ見て欲しいところだ。

自省録

聖人になろうとした男の日記

2世紀ごろのローマ帝国において、不動の平和と繁栄がもたらされた栄華の時代があった。共和制の頃から続いてきたあれこれが最盛期を誇ったという。その時代を作り、歴代でも屈指の活躍を成した5人の皇帝たちを「五賢帝」と呼ぶ。

本著は、五賢帝最後のひとり、マルクス=アウレリウス=アントニヌスが書いた日記である。決して誰かを啓蒙するための本などではなく「ちっぽけな自分が過去の偉大な人間に少しでも近づけるように、少しでも前に進めるようにと書いた反省の書物」だ。本当にただの日記。

実際、アントニウス本人はとても持ち上げられるような聖人君子ではなかったようだ。しかし、聖人君子になろうと勤勉に努力したことが知られている(自省録の中にも、変われない自分に苦悩する様子が描かれている)。もちろん活躍はしていたけども。

ただの自己啓発と違って面白いのは、歴史に残るような偉人なのに、自分と同じようなただの人間が、苦しんで前に進もうとしている様子がそのまま描かれていることだ。すでに真理に到達した人ではなく、辿り着こうとしている辛さが読者を奮い立たせてくれる。とても情熱に満ち溢れた一冊だと思う。

隣人が何を言い、何を考えているかなんてどうでもいいではないか。
自分自身が何をするかに注意して、それが正しいことかどうかだけ気にしていれば、余計なトラブルとは無縁になる。
他人の堕落したモラルなどどうでもいいではないか。
そんなことに目を凝らす必要など無い。
道からそれずに、ただ自分の道を進むのだ。

マルクス・アウレリウス『自省録』

常識として知っておきたい裏社会

話が重い!!

前科持ち元ヤクザVtuberの懲役太郎と、アンダーグラウンドな世界を調査するノンフィクション作家、草下シンヤによる共同著書。今の裏社会について、昔と比較してどうなっているのか、自分を守るためにはどうしたらいいのかなどを綴っている。

一昔前のアングラと言えば、それこそ「自分からそっちに進もうと思わない限り出会わ(え)ない」ような世界だったように思える。しかし、ふたりによると、現代社会の闇は誰でもすぐにアクセスできるぐらい身近になっているという。そこが決定的な変化だとか。

いかにもなヤクザや半グレ、ヤバいやつなんてむしろ希少種で、むしろ見た目は好青年であやしさなんてかけらもない、そういう人こそ一番危ないのが現代の裏社会におけるアイコンらしい。世の中のルールをうまく使うのも彼らで、知らなければどうしようもない非合法な手段がいくつもある。

結局、身を守るためには「知ること」が大切だという。そして自分にもその魔の手がかかるかもしれないと考えること。極端な臆病者だけが生き残ると言われる現代社会(Only the paranoid survive.)。その気づきをもたらす本なんじゃないだろうか。

世界史を大きく動かした植物

人間は植物に「使われてきた」のか?

人間・・・・・・サピエンスが道を踏み外したきっかけは稲、あるいは小麦の発見にあるという話がある。それまではその日暮らしで食料を得て、生きてきたサピエンスが、貯蔵できる食物に出会ったことにより、有史以来ずっと小麦に「飼われてきた」なんて見方もできるそうだ。

本作は、人間の営みにずっと寄り添ってきたいくつもの植物について様々な面から考察などをしていく内容になっている。植物は果たして人間に生かされているのか、それとも人間を生かしているのか、少しだけ怖くなる話でもある。

思えば、植物が由来で戦争に発展したことなど珍しくもない。コショウを求めて新大陸を開拓し、数百万人規模で大虐殺を行ったレコンキスタ。巧妙な三角貿易で相手にだけ不利益を被らせ、世界規模の戦いに発展したアヘン戦争。優生論を後押しし、その始まりを担ったプランテーション、黒人奴隷でおなじみのサトウキビなどなど・・・・・・。

私達人類の歴史が、どれだけの植物とともにあり、何を目的に誰を虐げてきたのか。普段何気なく目にしている植物に、どれだけの血が流れたのか。歴史は常に奪い合いの構図だということがよく分かる一冊だ。

株式会社タイムカプセル社

今のあなたは、10年前の自分に誇れるあなたですか?

泣きすぎて途中読めなかった。今年最高の一冊だった。多くは語らない。ひとりでも多くの人に読んで欲しい。思い出すだけで泣きそう。

最後に

ということで以上、紹介おしまい。今年も豊作だった。

世の中には色々とサブスクがあるが、VODサービスで比較するなら個人的にはNetflixが一番良いと思う。コスパ良いし、何よりオリジナル作品の質が高すぎる。今年見たわけじゃないから記載はしていないが、エッジランナーズや全裸監督がマジで最高。これだけのために入っても損はない。

Netflixに無いものをプライムビデオで補う。そんな使い方が一番良いんじゃなかろうか。

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