64 - ロクヨン -(2016年)

画像1 64(ロクヨン)は横山秀夫原作の推理小説を、瀬々敬久監督が映画化した作品。たった7日間しかなかった昭和64年、昭和という元号の最後の年に起こった「功明ちゃん事件」という実在の未解決誘拐事件がモデルになっており、ロクヨン事件として知られる。
画像2 事件の被害者である雨宮翔子ちゃん(7)の父親で、雨宮漬物店社長の雨宮芳男を演じるのは永瀬正敏。犯人との交渉で2000万の身代金を運び、指定された場所で引き渡しに応じたにもかかわらず、金だけが奪い取られ、娘の翔子ちゃんは昭和64年1月5日に家を出た5日後、市内の廃車置き場に駐車してあった車のトランクから遺体となって発見された。
画像3 主人公の三上義信(佐藤浩市)はロクヨン事件当時は群馬県警刑事部捜査一課の特殊捜査係だったが、後に広報室に異動となる。映画版より先にNHKで放映されたドラマ版では、主人公の三上を演じたのはピエール瀧。永山瑛太が演じた東洋新聞所属で記者クラブ幹事役の秋川を、ドラマ版は弟の永山絢斗が演じていたのは面白い!
画像4 剛くんは三上と同じく群馬県警広報室で係長を務める諏訪尚人役で出演しています。
画像5 当時、犯人との通話中に録音した音声の解析を手掛かりに捜査を行う「自宅班」が雨宮家に張り付いていた。しかし、犯人からの手掛かりとなる通話を一部録音し損ねるというミスを犯してしまう。自宅班を率いていた漆原係長はそのミスを隠蔽していた。
画像6 自宅班メンバーだった幸田(吉岡秀隆)は、上司である漆原がミスを隠蔽することを指示してきた事に憤慨し、内部告発を行う。そして事件から半年後に退職に追い込まれ、市内のスーパーの駐車場の警備員となっていた。内部告発文の内容は「幸田メモ」と呼ばれた。幸田は事件解決の重要な鍵を握る人物として、後半意外な形で登場する。
画像7 同じく自宅班メンバーだった日吉(窪田正孝)は機材トラブルで録音し損ねたことに深く責任を感じて精神を病み、長期休職ののち、依頼解雇となる。その後も立ち直ることができず、ずっと引き篭もったままであった。
画像8 刑事部から警務課に移り、広報室の改革を標榜する三上。そこで成果を挙げて再び刑事に戻ることを目論むが、改革を良く思わない上層部や刑事部とは常に衝突が絶えない。また、三上は家庭にも大きな問題を抱えていた。娘のあゆみは警察官という封建的な職業や考え方を軽蔑し、家庭より仕事を優先する三上に反発していた。父親似の容姿を嫌い、整形する!と言って暴れるが力ずくで止められ、家出したまま戻らない。赤間警務部長(滝藤賢一)からあゆみの捜索に関して特別対応を受けている手前、彼の意思決定に背くわけにいかず、三上は葛藤していた。
画像9 主婦による交通事故が発生するが、その加害者が妊娠8か月であったため、母胎への影響を考慮し匿名で記者クラブに発表したところ、記者たちは本部長に直接抗議文を提出すると言い出す。これを境に記者と広報室の間には深い溝ができ始める。記者クラブ幹事は永山瑛太。
画像10 ロクヨン時効まであと1年の折、警察庁長官が被害者家族である雨宮家を視察するという話が上がる。当時の担当刑事として雨宮家をよく知る三上は視察についての承諾を願い出るが、拒否される。雨宮が視察を拒否する理由は、14年間捜査に進展がないことに対する警察への失望だけではない。三上が刑事部を離れて以来、被害者家族との接触が断たれ、双方の関係が薄れつつあったのだ。信頼関係を取り戻すべく、三上は何度も雨宮に会いに行く。犠牲になった雨宮一家の無念に涙し、遺族の気持ちに寄り添う三上を目にして、雨宮は視察を許可する。
画像11 警察庁長官による雨宮家視察は、東京が直接ロクヨン事件の究明に努めているというアピールにすぎず、県警の刑事部のポストを召し上げ、これ以上力を持たさないようコントロールするために画策されたものだった。さらに刑事部はそれを阻止するために警察とマスコミの関係を意図的に悪化させ、取材をボイコットしようとしていた。事件解決までに残された時間がない中で、県警とマスコミの不和を利用し、警察組織内部の問題を力技で一掃しようとする上層部の思惑に苛立つ。そして結局視察は中止となる。
画像12 雨宮家の視察の直前に、ロクヨン事件を模倣したと思われる誘拐事件が発生する。被害者の氏名は目崎歌澄という高校生。広報室は記者クラブとの間に報道協定を結ぶために会合を開くが、被害者の実名や個人情報が一切開示されない状況に記者たちからの不満が爆発し、県警と記者たちの対立はさらに深まる。三上は報道して犯人を刺激すれば人質が助からなくなる恐れが出ることへの理解を求め、必死に記者を説得して協定の締結へ漕ぎつけた。しかし、捜査二課長からの相変わらず中身のない情報提供に記者たちは憤慨し、報道協定を破棄すると言い出した。
画像13 2つ目の誘拐事件の被害者の父親である目崎正人は、2000万の身代金を準備して犯人が指定する場所へと車を飛ばす。不思議なことに、その身代金の額や反抗声明文、走行ルートはロクヨンと酷似。目崎と犯人の会話は終始録音されていたが、犯人が使用していたヘリウムガスが切れた一瞬、犯人の肉声が聞こえた。そして目崎が誘導された場所は、まさしくロクヨンと同じカットサロンアイアイだった。しかし、目崎の長女歌澄が補導されたという一報が飛び込んでくる。誘拐事件は何者かによる狂言だったのだ。三上は「あれ幸田の声だ!」と確信する。
画像14 家出を誘拐と装った狂言は、雨宮と幸田による犯行だった。幸田は目崎にカットサロンアイアイの裏庭のドラム缶に2000万円を入れ、燃やせと電話越しに指示する。そしてドラム缶の下に置いたメモを読ませる。「犯人へ 全て14年前のままだ。娘は小さな棺に入っている。」目崎は「犯人へ 全て14年前のままだ」を切り離し、口に入れて飲み込んだ?確保され、警察で取り調べを受ける。娘を殺された無念、犯人への復讐心を抱えた永瀬正敏の演技は本当に見事で、心をガサっと掴まれて痛くなるほどでした。
画像15 雨宮は犯人の声を記憶している。そして14年間ずっと犯人を探して、電話帳のア行から順に電話をかけ続けた。そして目崎正人を見つけた。三上宅にかかってきた無言電話も実は家出した娘からではなく、雨宮からのものだった。幸田が直進しろと言っても右折してカットサロンまでの最短距離を進んだ点、長女に続いて次女が居なくなった時に真っ先に廃車置き場の車のトランクを探しにきた点から、目崎正人=ロクヨン真犯人の線があがる。娘が消えて憔悴して車を暴走させる父親の顔と、サイコパスな凶悪犯の二面性を孕んだ緒方直人の演技が素晴らしい。
画像16 14年の歳月をかけて事件の真相は解明されたが、三上家の問題は未だ解決には至っていない。被害者家族、加害者家族との交流、警察組織と記者間の衝突など、様々な問題に直面しながら自らの家族の在り方についても考え直した三上。妻との絆を再確認し、まだ戻らない娘が無事に帰ってくるのを信じて待つ選択をするところで、物語は静かに幕を閉じた。

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