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目に見えない糸の先に

数年前、ラジオから流れる音楽を聴いていたときに、ポロポロと涙が溢れてきたことがあった。

縦の糸はあなた 横の糸は私
逢うべき糸に 出逢えることを
人は仕合わせと呼びます
中島みゆき / 糸

中島みゆきさんの名曲、糸。これまで幾度となく耳にしてきた曲であるはずなのに、なぜだかその日は、その言葉たちがすうっと私の心に届いた。

涙の訳は、私のメンタルの不調が故のことではなくて、なぜだか突然その表現力、「日本語の美しさ」に気付き、惹き込まれてしまったからだった。

ああ、だからこの曲は名曲として多くの人に愛されているのか。だなんて、分かりきったことをひとり呟きながら、私はそっと、右手でこぼれ落ちる涙を拭った。

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自分の意志とは関係なく自然にそうなるという意味で使われる表現に、「巡り合わせ」という言葉がある。「運命」なんて言葉を使うと、途端に胡散臭い感じがしてしまうのだけど、信じられないような偶然や出逢いが重なることは意外とある。

「運命の赤い糸」なんて言い伝えがあるように、もしかすると人は常に、誰かと見えない糸で繋がっているのかもしれない、と私は思う。

それが男と女であるとは限らないし、恋愛に限った話ではないとも思うけれど、私たちは知らず知らずのうちに、そうして繋がった誰かとの糸を離したり、手繰り寄せたりしながら生きているのだろう。

「たとえ会えなくても、自分にとって大切な人間と見えない糸で繋がっていると思えたら、それだけで幸せだって。その糸がどんなに長くても希望を持てるって。だから死ぬまで、その糸は離さない」
東野圭吾 / 希望の糸p.330

東野圭吾さんの「希望の糸」を読み終えたとき、私はラジオを聴きながら涙を流したあの日のことを思い出していた。

人と人との愛や絆を背景に描かれたこの作品は、複雑に絡み合った「糸」を少しずつ解いていくようにしてストーリーが展開されていく。目には見えない絆という名の糸。そして「家族」というものについて、改めて考えさせられる物語だった。

とはいえ、この作品が「新参者」と同じ加賀恭一郎シリーズであることにはかなり驚いてしまった。途中で何気なく登場した「加賀恭一郎」の文字に、思わず「…え?!」と声を漏らしてしまった私。

これもまた、何かの巡り合わせに違いない。

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最後に、素敵な言葉を紹介したい。

それは鶴瓶さんの『縁は努力』という言葉。

「運がいいといろんな人と出会える。その人との関わりを大切にすれば縁ができ、その縁を大切にすることでツキまで回ってくる」しかし、縁というのは「出会っただけでは流れてしまう。だからこの縁をつなぐためには嫌なこともあるけどずーっとその人とつないでいることが凄く大事」なのだと。

巡り合った糸をうまく結べるか、巡り合った糸と繋がっていられるかは、結局自分次第。そうやって「縁」という名の糸を紡いでいくことが、幸せな運命へと繋がっていくのかもしれませんね。

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