【『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』感想】エージェントの仕事は作家の道を切り開くこと

アップルシード・エージェンシーにて主に文芸分野のエージェントをしています、有海です。
5月6日に全国ロードショーとなる『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』、一足お先に試写を拝見しました。
本作は作家志望のジョアンナが作家のエージェント会社に就職するお仕事ものであり、自らの夢と生き方とを見つめなおす成長譚かつ自分探しの物語です。

作家のエージェントとは?

作家のエージェントとは何ぞや?と思われた方も多いのではないでしょうか。
たとえば弊社では、作家に代わって作品を売り込んだり、一緒に企画を考えたり、出版時の条件を交渉したりします。実は欧米では一般的な職業であり、広く浸透したシステムなのですが、日本ではやっぱり知名度が低いお仕事だと思います。
そんなエージェントを取り上げた作品が日本でも上映されるのはとても嬉しいです。
私の働いてるアップルシード・エージェンシーという会社も、まさに、本作でジョアンナが就職した会社のような、欧米人著者のLiterary Agencyから独立した会社なのです。

推しのファンでありつつ、ビジネスマンであることも求められるエージェント

私も新卒でエージェント会社に飛び込んだ身なので、ジョアンナに共感したり、自分だったらどうするだろう?と思いながら見ていたのですが、作中で一番エージェント業ならでは!と思ったのが「作品を読んで「面白い」では終わらない」ところ。

ある原稿の感想を聞かれ「好きでした」と答えたジョアンナに、上司のマーガレットはこの作品をどう料理するか――読者層がどこにあるのか、本当にウケるのか、どういう出版社に紹介するのが良いのかを尋ねます。

これ、入社して私が最初にハッとさせられたことの一つです。
作品が面白いことは大前提としてとても大事なのですが、同じくらいビジネスの視点も必要になります。
どれほどの量の、どんな読者にアピールできる作品なのかを吟味するのは、出版社さんも同じかもしれません。
エージェントはさらに、どの出版社に売り込むのが良いのか?を考えます。

たとえばどんなに面白い時代小説も、翻訳出版しかしない版元に紹介しても企画は通りません。
この例はちょっと極端かもしれませんが、「今どんな作品が求められているのか、売れているのか」という出版業界全体のトレンドに加え、各出版社の得意なジャンルや既刊・類書の売れ行きも調べた上で、作品をお預かりできるのかの判断や、効率の良い営業をしていくことがエージェントには求められます。

学生時代はただの読者として、作品が面白いかどうか、好きかそうじゃないかという目線でしか本を読んだことがなかったので、この新たなビジネス的な視点で企画・作品を見ることはとても新鮮かつ難しいと思ったことをよく覚えています(そして今でも修行中です!)

映画の中では逆に、このビジネス的な視点が定着したマーガレットが、ジョアンナに逆にファン的な目線の重要性を気づかされるのですが、推し(作家さん)のファン目線とビジネスマン目線がうまく同居していることが、良いエージェントに求められることの一つなのかも……と学びがありました。


エージェント=開拓者、かも。

そしてこの映画の中で一番ジーンとしたのが『エージェントの仕事は作家の道を切り開くこと』というセリフ。

本作では割とさらっと流され、さらに『でもサリンジャーの場合は違う』と続くのですが、この言葉こそ、エージェントが求められる理由を端的に表し、かつ、エージェントの理想の姿であるように感じたのです。

日本ではエージェントは一般的ではないですし、エージェントなしでもお仕事を続けられる作家さんもいらっしゃると思います。しかしその一方で、既存のシステムでお困りごとを抱え、弊社にお問い合わせくださる方もたくさんいらっしゃいます。
特に私が入社してからは、昨今の状況により新たな編集者や版元と知り合う機会が激減したためか、営業代行を依頼されるプロの作家さんが数多くいらっしゃいました。
もしかすると今は、作家さんにとって厳しい時代であると言えるのかもしれません。

そんな状況の中で、エージェントが作家や作品を編集者とつなぎ合わせ、道を開くことができたら、こんなにうれしいことはないと思うのです。

最近弊社の社長から聞いたのですが、弊社のアップルシード・エージェンシーという名前はアメリカ西部開拓者のジョニー・アップルシードから来ているそう(ジョニー・アップルシードとは、アメリカにリンゴの種を植えて回った人物です)。
リンゴの種をまき、十分成長してから果実をとるという気持ちが込められているとのことなのですが、私は【開拓者】の文字に運命を感じてしまいます。

ジョニーがアメリカ中を回ったように、いろいろな出版社とお付き合いをして出版業界を広く歩き、作家さんの新たな道を開拓するのがエージェント
私もいつか、なるべくはやく、作家さんの売れっ子作家街道邁進のお手伝いができる開拓者になりたい……!とこのシーンで改めて思いました。
本作で一番好きなシーン&セリフの一つです。

おわりに

本当にただの感想を書き散らしてしまったのですが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
せっかくなのでエージェント業に絞ってこのnoteは書かせていただきましたが、エージェントや出版業界にあまり関わりがない方も、「仕事か、趣味/夢か」という社会人一年生がぶち当たる難問にきっと共感したり楽しむことができる作品です。

5月6日公開です、ぜひ一度ご覧いただけたらと思います。
私は実は未読のサリンジャー作品(ライ麦畑)を読みます!笑


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