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「売り込むのが苦手」「ボツったらどうする?」解決したのはエージェント/吉川英梨さんインタビュー

ホームページリニューアル記念の特別企画として掲載した小説家の吉川英梨さんのインタビュー記事を、一部、文芸部公式noteに転載いたします。(インタビュー内容は、2020年3月4日時点のものです)

日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞してデビュー、原麻希シリーズという人気シリーズを手がけていた吉川さん。小説家としては順調に思える経歴の吉川さんが、なぜエージェントに問い合わせたのか? エージェントに所属したからこそ出来たことは何なのか? 著者側から見たエージェントの仕事に迫ります。

エージェントに問い合わせた理由は「自分を売り込むのが苦手」

―吉川さんは脚本家を目指して修業しているなかで、2008年に新人賞を受賞してデビュー。その後、今も続く女性刑事・原麻希シリーズで人気を得ましたが、2014年に弊社にお問い合わせくださいましたね。(それまでの経緯はcakesをご覧ください)その理由をお聞かせくださいますか。

吉川英梨さん(以下、吉川):実は原麻希シリーズは、五作で完結予定でした。五作やっているうちにどこからかオファーが来たらいいなと思っていたんですが、来なかった(笑)。自分を売り込むというのはなによりも苦手。けれど、私は家族の中で家計を担う存在ですので、生活が……という切迫感がありました。夫に養ってもらっていたら、投稿するとか、新たに新人賞に応募するとか、ゆるりとやっていたかな、と思います。

―吉川さんの著作をいくつか拝読しまして大変面白かったので、弊社としては「ぜひ」とエージェントをお引き受けいたしました。契約後は、同窓会プロデューサーを題材とした連作短編ミステリー、長編ミステリーの企画2本をお預かりして、出版社への営業を始めました。まず、長編ミステリーはすぐに出版社が決まって、その後、『ダナスの幻影』(朝日新聞出版社)として刊行されました。

吉川:懐かしいですね。「はい、お願いします」と出してから、一週間くらいで「打合せです」となり、あっという間に出版が決まりました。神か、と思いましたよ(笑)。

―作風が違うタイプのアイデアを2本お預かりしたのは、吉川さんという作家の幅を見せるためにも良かったと思います。同窓会プロデューサーのほうはすぐには決まらなかったのですが、私としては「これをネタにして、<吉川英梨>という作家を売りこもう」という気持ちで、様々な出版社に声をかけていきました。そのままは採用されなかったのですが、紹介した幻冬舎や講談社から「吉川さんなら警察小説を書いてほしい」という依頼をいただき、『ハイエナ』(幻冬舎)や『波動 新東京水上警察』(講談社)へとつながりました。

吉川:当時は、ミステリー作家として幅のあるものを書けたら、と思っていました。『ダナスの幻影』はストーカー女から見た殺人事件の話、『葬送学者鬼木場あまね』(のちに『葬送学者R.I.P』と改題して文庫化)は、葬式にまつわるミステリーでした。警察小説は、復活した「原麻希シリーズ」だけでいいと思っていたんです。これ以上警察のなにを書くの、という感じでした。しかし、『ハイエナ』を書いてエンジンがかかりましたね。<警察小説>というジャンルの深さと広がりを身をもって感じ、この世界にもっと潜りたいと覚悟できた一作でした。『波動』が売れたことで認知度も上がり、世間のみなさまから「ここの場所で書いていいんだ」と認めてもらった気がします。

心配事が減って執筆に専念できるようになった

―順調に来ていたものの、さらなる飛躍となったのは、2015~2016年でした。『波動』を読んだKADOKAWAの編集者さんからオファーがあり、「53教場シリーズ」が誕生。同時期に双葉社の編集者さんから「公安を書いてほしい」と熱望され、初連載『十三階の女』がスタート。警察小説ブームという追い風もあり、どんどん活躍の場が増えていきました。

吉川:同時進行で2、3作品手掛けられるようになったことも、活躍の場が広がったひとつの理由と思います。それまでは同時進行ができなかったので。エージェント契約をしたことで、「心配事が減った」というのが、同時進行ができるようになった理由のひとつかと思います。
「仕事が続かなかったらどうしよう」→「エージェントさんが次の仕事を探してくれる」
「いま苦労して書いている原稿がボツになったらどうしよう」→「エージェントさんが別の版元に売り込んでくれる」
 こんな感じで、安定した環境で書けていたと思います。

―原麻希シリーズの実績もあってか、吉川さんの場合は、私が当初想定した以上に営業がスムーズにいきました。とはいえ個人的な反省としては、契約当初は、まだ吉川さんのご希望を適切には汲めてはいなかったと思います。エージェントが作家の目指す方向性、希望する仕事の進め方、公私含めて大切にしていることなどを理解してこそ、良い執筆の場を提供できるものです。そのためには、やはり時間をかけて共に仕事をし、率直なコミュニケーションを取れる関係性を築くことが重要だと、今、改めて感じています。

作家にとって「いまなにが必要か」を共に考え続けていく


―そして、2020年。既に数年先まで執筆予定が埋まっている吉川さんに、弊社がエージェントとして何ができるかを考えまして、小説家としての吉川さんや著作のプロモーションや販促活動に力を入れることにしました。これは、吉川さんと弊社との新しいフェーズと言っていいのではないかと思います。

吉川:長く小説家をやっていくと、その時々で変化は出てきますよね。「いまなにが必要か」というのを共に考え続けて、柔軟に関係性を変えていくのは大切なことと思います。

―出版業界では「作家買い」されることが減ったと言われています。例えば、人気作家であっても、この本は売れてない、新しいシリーズは苦戦しているなどよく聞きます。プロモーションの必要性が増しています。弊社でも昨年10月に正式にPRチームを立ち上げましたので、今後、吉川さんや著作が露出する機会を増やしていけるように、出版社との連携、マスメディアへの働きかけなど行っていきます。

吉川:よろしくお願いします!

著者略歴
吉川英梨(よしかわ・えり)
1977年、埼玉県生まれ。2008年に『私の結婚に関する予言38』で第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞し作家デビュー。著書には、「原麻希」シリーズ、「警視庁53教場」シリーズ、「十三階」シリーズ、『ダナスの幻影』、『葬送学者 鬼木場あまねの事件簿』、『海蝶』『新宿特別区警察署 Lの捜査官』などがある。旺盛な取材力とエンタメ魂に溢れる期待のミステリー作家として活躍中。

エージェントに問い合わせてから現在までのお仕事について、吉川さんにざっくばらんにお答えいただくことができました。作家エージェントは増えていますが、内実はなかなか語られないもので、いまだに「エージェントって何をするの?」「作家にとってメリットやデメリットは何なの?」と思われる方は多いと思います。

そういう意味では、吉川さんのご協力のもと、今回のインタビュー記事は、小説家とエージェントとの関係、エージェントの役割、売り込みの実情などが分かる内容となりました。

本を出したい方、小説家になりたい方、デビューしたものの納得のいく執筆活動が行えていない方には、ご覧いただけると嬉しいです!

記事をお読みになってお問い合わせをしたい方は、こちらからどうぞ。

(アップルシード・エージェンシー 栂井理恵

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