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コンサル業界とパーパス

戦略コンサルタントのアップルです。

最近、コンサル業界においても「パーパス」というものが無視できなくなってきたように感じています。これは、コンサルの飯の種としてパーパスというキーワードが重要になってきたという話ではなく、「コンサルファームとしてもパーパス経営に向き合わないと優秀な人財の流出を食い止められない」というファーム経営の根幹に関わる観点での話です。これはコンサル業界における一つの大きな潮目だとアップルは感じているので、今回記事にまとめることにしました。ぜひご覧ください。

コンサルの産業化と同時並行で進む優秀層の流出

ここ数年でコンサル業界の産業化が進みました。産業化が進むということは、市場規模が一定の規模を超え、そこで働く人たちも増え、顧客(企業)にとっても働き手にとってもニッチな業界ではなくなったということです。今やコンサル業界は新卒の人気業界の一つになりましたが、これが「コンサルの産業化」を端的に象徴しています。

このように産業化し羽振りが良く見えるコンサル業界ですが、その裏側では「影」や「歪み」も出てきています。その最たるものが、どのファームも少なからず悩んでいるであろう「優秀な人財の流出の加速」でしょう。ポイントは、単なる流出ではなく、”優秀な人財”が流出しやすくなっているという点です。ミドル・ローパフォーマーではなく、ファームとして何としてでも囲い込み続けたいハイパフォーマーの流出が加速しているのです。

この点について、従来との違いも含め少し詳しく説明しましょう。

かねてよりコンサルティングファームのようなプロフェッショナルファームでは一定の人財の出入りがあります。ファームによって差はあるでしょうかが、平均勤続年数は3~5年といったところでしょう。3年も経てばかなりの割合の社員が入れ替わっているのがコンサルティングファームというところです。このように人の出入りがあることは、「適切な新陳代謝がある」という見方もできるため決して悪いことではないですし、プロフェッショナルファームの宿命とも言えます。

このように人の出入りが激しいことは今も昔も変わりはありませんが、近年の変化点はその「中身」が変わってきていることです。

コンサル業界が産業化する前の2015年頃までは、どちらかといえばローパフォーマーの方が早く辞めていく傾向にありました。特に戦略ファームには少なからずup or outのカルチャーがあり、成果やパフォーマンスによって個々人が客観的・厳格に評価・査定されます。ローパフォーマーの人はその成果・能力に見合った厳しい評価を下され、社内労働市場において不利な立場に追いやられ、アベイラブルの期間が長くなったり、面白くない/筋の悪いプロジェクトにアサインされる傾向が強まります。そういう環境の中で働くことは苦痛ですから、肩たたきがなくとも自らファームを去っていく。こうしたメカニズムが働くことで、ローパフォーマーの方が早く辞めていく傾向にあったのです。

一方で最近はといえば、ハイパフォーマーなのにすぐにやめてしまうというケースが増えてきています(少なくともアップルの観察範囲では)。逆に、ローパフォーマーの離職率は下がっています(これは、恒常的な人手不足の中、ローパフォーマーの人でもいないよりはいたほうが良いためと考えられます)。

以上をまとめると、
・人の出入りが激しいのは今も昔も変わらず
・ただ、その「中身」が変わってきている
  以前:up or outの下、ローパフォーマーの離職率が高かった
  現在:ハイパフォーマーの離職率が向上。逆にローパフォーマーは残存

それではなぜこのように離職の質が変わってきたのでしょうか?

アップルは、いよいよ「ビジョン」や「パーパス」が人財の惹きつけにおいて無視できない要素になってきたことが背景にあるのではないかと考えています。

パーパスの台頭と優秀人財流出との関係

ここ2~3年でパーパスという言葉が一気にスポットライトを浴びるようになりました。パーパスとはその会社の存在意義のことです。会社の存在意義というのは、その会社が社会に対して本質的にどんな価値をつけているかということです。山口周さんが著書の中でよく主張されているように、物質的に満たされた現代においては、「問題」や「意味」が希少であり、ミレニアル世代以下の若手~中堅世代は特に問題や意味に渇望しています。お金やモノも大事ですが、それ以上に「チャレンジしてみたい問題」「生きがいを感じられる意味」を求めています。

したがって、自らが身を置く会社を選ぶ際にも、その会社のビジョンやパーパスが魅力的かどうかという点が大きな決め手になってきています。そして、優秀な人財ほどビジョンやパーパスに対する感度が高い傾向にあります。なぜなら、優秀な人財ほどビジョンやパーパスに通ずる「自己実現欲求」や「承認欲求」が強い傾向にあるからです。

では、ビジョンやパーパスを最も強く打ち出しているところはどこでしょうか?ざっくり言えばベンチャーでしょう。レガシーな大企業ももちろん何らかのビジョンやパーパスは打ち出しています。しかしその内容の斬新さや打ち出しの強さではベンチャーに分があります。なぜなら、経営基盤やお金も限られているベンチャーにとっては、ビジョン・パーパスくらいでしか強く人財を惹きつけることができず、そこがおのずと研ぎ澄まされていくからです。

逆にビジョンやパーパスが弱いところの代表格はプロフェッショナルファームでしょう。ブティックファームや新興系ファームの中には独自のビジョンやパーパスを強く打ち出しているところもありますが、総じていえば弱いと言わざるを得ません。これは、プロフェッショナルファームが「クライアントサービス」を基軸にしているためと考えられます。クライアントサービスというのは、その性質上自己主張しすぎるのは良くないとされ、「クライアントの意思」を尊重します。「クライアントファースト」が徹底される一方、それを超えたビジョンやパーパスは形成されづらい業態です。

このように、
・外に目を向ければ魅力的なビジョン・パーパスを打ち出しているベンチャー企業などがたくさん出てきている
・一方で自身が所属するコンサルファームをみると、給与水準や成長環境の観点では魅力的だが、しびれるようなビジョン・パーパスは無きに等しい

という外部環境と内部環境のギャップに対して、特に優秀層がもどかしさを感じ、コンサルタントとして将来を嘱望され満足行く待遇を得ていたとしてもきりの良いところでさっさと辞めてしまう。こうしたことが起きているのではないかと思います。

実際、アップルの観察範囲においても、近年ハイパフォーマーがベンチャーに転職していった事例はたくさん見ています。今後も一緒に働きたいと思っていた力のあるメンバーが離脱したことも数知れずです。この傾向は、明らかに数年前とは異なる「質的な変化」だと感じます。

コンサルの現場の疲弊とも表裏一体

ここで閑話休題。

最近よくTwitter上で「まともにデリバリーできるマネージャーやメンバーがいなくてものすごく困っている」というコンサルファームのシニアの心の声をよくみかけます。

この現象と「優秀層がすぐにやめてしまう」ことは、想像に難くないかもしれませんが密接に関連しています。というのも、次のようなメカニズムが働いているからです。

優秀層が抜ける⇒現場のデリバリー力が落ちる⇒残った優秀層にしわ寄せが来る⇒優秀層が疲弊してまた抜ける⇒ ・・・ ⇒シニアがハンズオンでプロジェクトに入り込みカバーせざるを得ない

こうした悪循環が「優秀層が抜ける」を起点に起きています。これに対する不平不満はTwitter上でも数多く見られます。
例えば以下のようなボヤキです。

・マネージャーがろくにPMロールをできない
・入社したての素人だけで編成されたプロジェクトチームでデリバリーせざるを得ない
・パートナーなのにスライドを書かざるを得ない
・未経験採用のマネージャーが全く機能しない
などなど

優秀層の離脱を食い止めないと、こうした現場の疲弊感は日に日に深刻化していくでしょう。コンサルファームにとっては由々しき問題だと思います。

コンサルファームの打ち手

こうした離職の質的変化対して、コンサルファームとしてはどう対処すればよいのでしょうか?優秀な人財が抜けることを多少なりとも食い止めるためには、大きく3つの打ち手の方向性があると考えられます。

①クライアント・案件の質を高める
ファームのビジョンやパーパスが弱くとも、クライアントのビジョンやパーパスが強力で、そうした素晴らしいクライアントの支援に携わることができるとすれば、優秀な人財の欲求を満たすことができます。逆に日銭を稼ぐためだけのクライアント・案件をとり、そうしたプロジェクトに優秀層をアサインすることは、優秀層の離脱のトリガーになります。

このことは、なんでもかんでも案件をとりに行くことは良くないということを含意します。クライアントや案件の質を見極めながら取捨選択する。時には勇気をもって「お断りを入れる」。こうしたことがこれまで以上に重要になると考えられます。

②ビジョン・パーパスをとがらせる
ファームのビジョン・パーパスをとがらせるという方向性ももちろんあります。「クライアントファースト」の掛け声だけではとがりが弱すぎるので(そもそもこれはビジョン・パーパスというよりはバリューに近い)、何かしらのとがりのあるビジョン・パーパスを模索する必要があるでしょう。クライアントサービスを基軸とする以上、これは容易なことではありません。裏を返せば、とがりのあるビジョン・パーパスを定義することは、クライアントサービスを超えたビジネスモデルに進化することとセットになるでしょう。コンサルの枠を超えることとビジョン・パーパスをとがらせることとは表裏一体であると言えます。

③思いっきり報酬を上げる
優秀層のビジョン・パーパス欲を上回るとびぬけた年俸を与えることができれば、優秀層の食い止めは一定程度できるでしょう。しかし、コンサルティングサービスも産業化の中でコモディティ化・値崩れが起き始めているので、現実的にはそれだけの好待遇を広く準備することはなかなか難しいかもしれません。


今回はここまでです。コンサル業界の変質をビジョン・パーパスの台頭という切り口から論じてみました。コンサル業界の中の人たちの実感や意見はぜひ聞いてみたいです。感想、ご意見などあればお寄せください!

最後までご覧いただきありがとうございました!

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