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コンサル業界の変質とその背景

戦略コンサルタントのアップルです。

私は戦略コンサルティング業界に10年以上いますが、ここ数年でだいぶん業界としての「質」が変わったと感じます。他ファームの人からも、それに類することを耳にすることがあります。

Twitter上でも、コンサルティング業界の中の人によって日々様々なつぶやきが行われていますが、そうした中でも業界の「変質」を示唆するコメントが半ば嘆きとともに踊っているように思います。

・一昔前は常識だったタスクが今の人はこなせない・・・
・こんなレベルの人がうちのファームにはいる。驚いた、困った
などなど。

そうした変質の背景には何があるのでしょうか?現象での変化だけを追いかけて、嘆いても仕方ないので、背景も含めてメカニズムを理解する必要があります。

そこで今回のエントリーでは、
・どのように業界の質が変わったのか?(What)
・その要因は何なのか?(Why)

についてまとめてみたいと思います。

かつての戦略コンサルティング業界

かつての戦略コンサルティングファームは狭き門でした。2010年代前半まではそうだったように思います。新卒採用も厳選採用、中途もかなり倍率が高く中々オファーはもらえない。こんな感じでした。市場規模は現在の数分の1でしたが、逆に、だからこそ狭き門であり、中にいる人の人財の質がかなり高かったのが特徴かと思います。

なぜこのような特徴だったのか?これを構造的に示してみたのが以下の図です。

「ここぞというとき」に依頼するのが戦略コンサル。
ここぞというお題に対応するため、少数精鋭の集団が維持されるエコシステムが確立していた

戦略コンサルティングについては特に、事業会社は「ここぞというときに発注するもの」でした。ここぞというときとは、数年に一回の大改革のときや、重要な経営・事業戦略を立てるときです。日常的に使うサービスではなかったため、市場規模は現在よりも限定的でした。

なぜ「ここぞというときに発注するもの」だったのか?といえば、現在よりも経営環境が安定しており、かつ社内の人財も充足していたからでしょう。ここぞというとき以外は社内である程度回せていたからこそ、ここぞというときに発注していたのだと思います。

しかし、ここぞというときの発注だからこそ、その難易度は高いことが多かったでしょう。難易度の高いイシューに答えを出すためには、戦略ファームとしては有能な人材が必要です。したがって、有能な人財を厳選採用し、ハンズオンで育成する仕組みがありました。その裏側で、「有能だと思って採用したが実は無能だった」人財に対しては、Up or Outの厳格なルールにより退出を促しました。

以上がかつての戦略コンサルティング業界の構図だったと思われます(この時代に長く戦略ファームにいたわけではないので、筆者の想像も部分的に入っている点はご容赦ください)。

近年の戦略コンサルティング業界

では、近年はどのように変質したのか?。ここでいう近年の定義は、概ねここ5年程度(2017年頃から現在)です。人によって感じ方は異なると思いますが、アップルはここ5年で戦略ファームに質的変化が起きたと、実感も踏まえて捉えています。「変質」の姿を同じような構造でまとめたのが次図です。

コンサルへの依頼の日常化・常態化を起点に、かつての戦略コンサル業界とは
大きく異なるエコシステムが形成されている

大手事業会社によるコンサル発注の「日常化」「常態化」が進んだのがここ5年程度という感覚です。「ここぞというときに発注する」対象から「日常的に発注する」対象へと変化。この点が、戦略コンサルティング業界の変質の根幹にあるとアップルは捉えています。

なぜコンサルへの依頼が日常化・常態化したかといえば、企業を取り巻く経営環境が変化したからにほかなりません。「慢性的な人手不足」と「経営環境の複雑化・高難度化」の2つです。

<慢性的な人手不足>
人財の流動化に伴い、大手事業会社でも若手・中堅の退職が進んでいます。加えて、社員の高齢化が進み、手を動かせる若手や中堅社員の割合が低下しています。これらによって事業会社は慢性的な人手不足に悩まされています。

<経営環境の複雑化・高度化>
IT化やデジタル化を超えたDX(デジタルトランスフォーメーション)、事業の社会価値の創出、SDGsやESG経営への対応、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、両利きの経営の体制構築、・・・と、経営者が向き合わなければならないテーマやイシューは格段に増えています。社内の人財、情報、ノウハウだけではすべてを捌ききれない状況になっていると言ってよいでしょう。

この2つの大きな環境変化によって、社内で問題解決できる範囲が狭まり、ここぞというとき”以外”も含めてコンサルへの発注が日常化・常態化しているということです。

これによってコンサル業界のエコシステムは大きく変化しました。コンサル発注が日常化・常態化するということは、市場規模が格段に大きくなるということです。「産業化」と言ってもよいでしょう。当然、コンサルタントの頭数も大きく増やす必要がありますし、裾野を広げた結果としての人財の平均的な質の低下を型化や形式知化、すなわち「仕組み」によって担保する必要が出てきます。

仕組み化が進むということは、極端に言えば、個々のコンサルタントは「職人」から「歯車」に変わるということです。

歯車でもできるような仕事は、一部のハイパフォーマーにとっては「かったるい」と感じられます。周囲に切磋琢磨に値するような優秀な人財が少ないことも、ハイパフォーマーにとっては「成長環境として魅力的でない」とネガティブに映るでしょう。

実際、近年、コンサルティングファームではハイパフォーマーの離職が多いと聞きます。アップルの所属するファームでもその傾向は強まっていると感じます。一昔前は、Up or Outの原則のもと、どちらかといえばローパフォーマーが退出していました。それと比べると対照的です。

しかし上記のような環境変化が背景にあることを踏まえれば、ハイパフォーマーの流出が進むことも納得できるのではないかと思います。

戦略コンサルティング業界の向かう先は?

以上、かつての戦略コンサルティング業界と近年のコンサルティング業界のそれぞれの構図、その変化の背景を読み解いてきました。

では、これから戦略コンサルティング業界はどうなっていくのか?アップルも確たることは言えませんが、市場のライフサイクル理論に照らして考えることでいくつかの仮説は立てられます。

市場のライフサイクルの図
出所:https://backlog.com/ja/blog/what-is-the-product-life-cycle/

市場のライフサイクルとは上図のような概念です。どんな市場も、導入期→成長期→成熟期→・・・という「ライフサイクル=一生」をたどるという考え方です。消費財(B2C)の市場を念頭に引き合いに出されることが多いですが、コンサルのような産業財(B2B)の市場にも適用できます。

これに照らすと、現在のコンサルティング業界は「成長期の後半」に位置するという感覚です。しばらく市場は成長するでしょう。しかしその後は、成熟期(市場規模がほぼ横ばいのフェーズ)に入っていきます。これはさほど遠くない未来だと思われます。

一般に、成熟期に起きる「セオリー」があります。これを踏まえると、今後のコンサルティング業界では以下のようなことが起きるのではないかと思います。

■価格競争の激化
市場のパイが増えなくなるため、限られたパイを奪い合うための競争が激化します。その中で、価格競争も激化します。既に領域によっては値崩れが起き始めていると感じます。

■フリーランスの台頭
業界が拡大するにつれ、その「卒業者」の累積人数も増加します。卒業者のうち一部はフリーランスとしてコンサルティングを行うようになるでしょう。既に、フリーランスのコンサルタントと企業とをマッチングするサービスは複数出てきていますが、こうした市場が拡大し、組織的にコンサルティングサービスを提供するファームにとっても無視できない存在になると考えられます。

■合従連衡/業界再編
限られたパイの中でシェアをとり、優位なポジションをとるために、合従連衡(M&Aによる食い合い)が起きます。ブティックファームの大手による買収などが加速する可能性があるでしょう。また、電通がコンサルティング会社への出資・買収を進めているように、他業界に飲み込まれる事例も増えるかもしれません。

■ディスラプトが起きる
ディスラプターによるディスラプトは成熟して古くなった業界の非効率を突く形で起きます。コンサルティング業界でも何らかのディスラプトが起きることは否定できません。例えば、領域によってはAIなどのデジタルソリューションに浸食されるでしょう。そうなると、人工(工数)や人件費の単価でサービスの価格が決まるという根本的な常識が崩れる可能性もあります。


いずれにせよ、今後5年程度で、成長期から成熟期に移行し、コンサルティング業界は激変する可能性が高いと個人的には予想します。

みなさんはコンサルティング業界の未来をどう読み解きますか?


今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!

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