見出し画像

資本論からみたコンサル業界

戦略コンサルタントのアップルです。

先日NHKの番組「100分で名著」で資本論が取り上げられていました(何回かのシリーズで)。この番組、たまにみるのですが、なかなか良い番組だと思います(名著のエッセンスをわかりやすく伝えているという意味で)。

※アップルが観た回はこちら

アップルは資本論そのものを読んだことはありません。学生運動が華やかだった時代(1950~70年代?)は、文系理系問わずバイブルのように大学生がこぞって読んでいたのだと思いますが、アップルの世代(アラフォー)だとしっかり読んでいる人はかなり数少ないのではないかと思います。

ただ、資本論にはただならぬ深さや魅力を感じる部分もあり、大学生のときに解説書のようなものは読んだ記憶があります。「剰余価値」や「資本の回転」といった概念が有名かと思いますが、これらの概念は現代の経済でも確かに成り立ってるよなー、と感じた記憶があります(現代も一部の社会主義国家を除き資本主義で経済は回っているので、当たり前と言えば当たり前ですが)。

とまあ、はるか昔にかじった程度なので、深く理解しているわけではないのですが、上記の番組で解説されていた内容をコンサルティング業界に当てはめたときに「確かになあ」と感じた部分があったので記事にしておきます。

番組で紹介されていた内容

番組では大きく2つのことが紹介されていました。

 1.イノベーションが進むと労働者は機械的になる

番組では、イノベーションが進むと労働者の仕事はどんどん機械的になっていくということがまず紹介されていました。わかりやすい例はパン工場の生産ラインで機械的に仕分けや作業をする労働者でしょう。

産業革命をきっかけに工業化が進み、現在我々が消費する財の多くは自動化(オートメーション化)された工場で生産されています。これは様々な技術革新の結果もたらされた生産様式なので、イノベーションが生み出したものと言えます。

しかし、その裏側では、先のパン工場の労働者のように機械的な仕事を生んでいます。言ってしまえばほとんど創造性がない単純作業。イノベーションの副産物としてこうした付加価値の低い仕事(これを「ブルシット・ジョブ」と言うそうです)が生まれてしまうというわけです。

 2.労働における「構想」と「実行」の分離

番組では次に労働は「構想」と「実行」の2つの要素で構成されるという話に入っていきました(ここでいう構想は企画に近い概念と思われます)。あらゆる業界、会社において仕事には構想の仕事と実行の仕事があり、その両方があってはじめて事業活動が成立しています。

かつて(産業革命前?)は、構想と実行は一体化していました。例えば何かのものづくりをする職人は、どういうものを作るか(デザイン、素材など)をまず構想し、実際にそれをつくる(実行)といった形で、一人が構想と実行の両方を担っていました。しかしその後分業が進み、「構想だけをする人」や「実行だけをする人」が生まれました。

構想は実行の上流工程なので、構想力がある人は資本家に近い立ち位置となり、実行だけをする労働者は支配・搾取されるような構造が出来上がったわけです。

コンサルティング業界に当てはめると?

アップルは上記の話を聞いて「この構図はまさにコンサルティング業界にも当てはまるな」と思いました。

以前、戦略コンサルティング業界にも「スマイルカーブ」の構造があるということを記事にまとめましたが、ここに書いた内容と「構想と実行の分離」という資本論で述べられていることとがきれいに対応していると感じたのです。

戦略コンサルにおける「構想」とは、
・クライアントのイシューや課題を特定する
・それを解決する論点群を設定する
・論点に対する仮説を立てる
・問題解決の結果をクライアントに提言する
といった業務にあたります。付加価値の高い、スマイルカーブの上流と下流の部分です。

一方で「実行」とは、
・設定された論点に答えを出すべく、調査や分析を行う
  -地道に調べたり、インタビューする
  -エクセルをガリガリ回す
・それらの結果を、資料にアウトプットする
  -スライドライティング など
といった業務にあたります。付加価値の低い、スマイルカーブの真ん中の部分です。

そして先の記事に書いたとおり、「構想」と「実行」は一人が両方担うのではなく、役職によって”分業”されています。

役割分担

構想の部分は主にパートナーやマネージャーといったシニアが担い、実行の部分は主にアナリスト、アソシエイトといったコンサルタントが担っています。そして、構想の最も上流の部分を担うパートナーは実際に資本家(ファームの株主)です。

このように資本論でマルクスが主張している話(構想と実行が分離すると実行部分を担う労働者はしんどくなる)は、現代の戦略コンサルティング業界でもずばり当てはまっていると言えるでしょう。

ではジュニアはどうすればいいのか?

コンサル業界は新卒、中途問わず最初は未経験で入ります。そして最初のポジションはアナリストやアソシエイト(コンサルタント)になります。つまり、キャリアの入り口ではみな「実行」を担います。今ではパートナーとして華々しく活躍されてる一流コンサルタントの方も、かつては「実行」を担っていたわけです。

マネージャーくらいから、構想と実行を半々くらいに担う労働になってきます。さらにシニマネ/プリンシパル、パートナーと上がっていくにつれ、構想が仕事の大半を占めるようになっていきます。

キャリアパスがこうなっている以上は、コンサルティング業界において「構想」に近い仕事をしたいなら役職の階段を上がっていくしかないということです。そして、階段を上る速度を上げるためには、実行が主なミッションの役職でも「構想」に少しでもチャレンジし、構想力を高めていくしかありません。具体的には論点思考や仮説思考を磨き実践すること、日々勉強を重ね知識の引き出しを増やすことなどでしょうか。ここを意識しないと実行だけをやらされる羽目になり、疲弊し、コンサルティングの仕事を続けるのが難しくなる、あるいは続けたくなくなることになります。

もちろん、戦コンあがりの若手は労働市場において様々なオポチュニティがあるので、実行力(調査分析やスライド作成の力)を一定程度高めたところで外に飛び出し、事業会社で構想を担うポジション(例えば役員や役員候補)という選択肢もあるでしょう。

こう書いてしまうとなんだか当たり前の結論かもしれませんが、コンサルの仕事にも構想と実行の両面があり、実行の部分だけに甘んじないように意識することが大切のように思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?