見出し画像

医者の不養生とコンサルの不養生

戦略コンサルタントのアップルです。

「医者の不養生」という言葉があります。患者の健康維持・治療を生業としている医者自身は、案外不摂生な生活をして不健康であるということを揶揄したことわざです(余談ですが医者の喫煙率は意外と高いということを医師から聞いたことがあります)。

医者とコンサルはよく似たものとしてたとえられます。

医者:患者の健康状態や疾患を診断し、適切に処方する
コンサル:クライアント企業の課題を見つけ、適切な打ち手を提言する

したがって、コンサルでも医者の不養生のような現象、いわば「コンサルの不養生」があります。クライアントの課題は正しく診断し、正論を提言しておきながら、そうしたことを自分たち自身はあまりできていない、あるいはやろうとしていない、という現象です。

今回の記事では、なぜそうなってしまうのか、また「コンサルの不養生」を解消するためにはどうすればよいのかについての私見をお話ししたいと思います。

「コンサルの不養生」の原因

アップルは大きく3つの原因があると捉えています。

 ①そもそも自社の経営課題に興味がない人が多い

コンサルティングファームはほかの業界に比べて平均勤続年数が短いです。若手を中心に次から次へと新しい人が入ってきてはやめていきます。したがってファームの中でも若手の人の多くにとっては、所詮ビジネス人生の一時期(せいぜい5年くらい)を過ごす場でしかなく、そんな会社の経営や組織について真面目に考える動機がありません。

対してパートナーなどのシニア層ともなると、ファームの経営や組織運営に責任を持ちますが、そうしたシニア層でも自社の経営について興味関心があるとは限りません。コンサルティングファームは弁護士事務所などと同様にプロフェッショナルファームであり、プロフェッショナルの集合体です。つまり、パートナー一人ひとりは”一人親方”の色合いが強いです。したがって、自分のやりたいコンサルティング(クライアントやテーマ)をやるために便宜上所属している人も多く、組織の論理よりも自己の論理を優先しがちです。また、同期の絆がある日系大企業などとは異なり、入社時期/前職/キャラが全然違うので共通点もあまりない。さらに、基本的に皆プライドが高いので、自分の意見をあまり曲げない。こうした結果一枚岩になりにくいのです。

医者の不養生にならないためには、経営課題をコンセンサスして、その解決に向けて力を結集することが必要です。しかし上記のような構造があるために、なかなかそうはいきません。

 ②一般に自分のことは客観的に見れない

コンサルの最も重要な価値の1つは「客観性」です。客観的に見れる第三者であること自体に極めて大きな価値があります。というのも、人間には誰しも「主観」があり「感情」があるので、自らを分析や観察の対象にした瞬間にバイアスが生じるからです。これはその人が優秀かどうかによりません。いくら優秀なビジネスパーソンでも、自分自身や自社のこととなると観察力や判断力が鈍ります。それは大企業の経営者も同様であり、だからこそ客観的に冷静に経営課題を見つめ提言するコンサルタントが重宝されるわけです。

コンサルタントは、他人であり他社であるクライアントのことはバイアスをもたずに冷静に見つめることができます。一方で、自分のことや自社のことになるとご多分に漏れず主観が入り、実態や課題が正しく判断できなくなります。その結果、課題は放置され「医者の不養生」となります。

 ③言うは易く、行うは難し

コンサルタントは所詮口を出すだけです(近年はクライアントとともに実行することも多いですが、客観的な視点に基づき何かを提言する(=口を出す)のがコンサルタントの根源的な役割であることに変わりはないでしょう)。口を出した後に実行するのは原則としてクライアントです。

「言うは易く、行うは難し」ということわざがあります。一般に言うこととやることとの間には10倍~100倍もの大きなギャップがあることを示したことわざです。

クライアントに提言するのは簡単です。ただ、いざそれと似たようなことを自社で実行しようとすると、「クライアントにはああやって提言したものの、いざ自らやってみようとするとめちゃくちゃ大変だな」ということに初めて気づきます。相当な覚悟とコミットがあれば「行うは難し」を乗り越えられるでしょうが、そうでない場合は「めんどうだからまあやめとくか」となります。その結果、解決すべき課題は放置され、「医者の不養生」となります。

じゃあどうすればよいのか?

以上のように、医者にせよコンサルにせよ、誰かに助言・提言・処方する仕事においては上記のような構造的理由で「医者の不養生」に陥りがちです。では、そうしたトラップに陥ることなく、「医者の養生」を実現するためには、以下のような施策が必要でしょう。

・コンサルファームと言えど、プロフェッショナル集団と割り切らず、一枚岩になれるようなビジョンを作り浸透させる
・他人に口を出す、評論することだけが趣味・生きがいのようなシニアは排除する
・社外取締役を機能させ、客観的視点を担保する
・コンサルの営業デリバリーと経営とを(ある程度は)分離する

新興のコンサルティングファーム含め、ビジネスモデルを確立した上でグングンと成長しているところは上記のような手を打っているのだろうと推察します。逆にずっと低空飛行でパッとしないファームは、上記のような手をちゃんと打てていないのでしょう。

お医者さん的な仕事に従事し、かつそれをフリーランスではなく会社組織に属して行っている人は、「医者の不養生」になっていないか/ならないためにはどうしたらよいかを常に頭の片隅に置いておくことが重要だと感じます。


今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?