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「配るマネジメント」という考え方

戦略コンサルタントのアップルです。

今回のテーマは「配るマネジメント」です。Twitterでもつぶやきましたが、この配るマネジメントという考え方は、マネージャーの仕事の在り方の考え方として最もしっくり来ています。マネジメントに従事されている方をはじめとして、ぜひご覧ください!

マネジメント論は多種多様

マネジメント論には非常に多種多様な考え方があります。関連する本もたくさんあります。マネジメントのやり方というのは唯一の正しい答えがあるものではないので、三者三様の考え方があってしかるべきですし、自分の性格や特性に合ったマネジメント法を試行錯誤の中で確立していくようなものだと思います。

アップルも部下を率いる立場になった前後から、何冊かマネジメントに関する本は読んできました。しかし、どの本も書いてあることは理解できるのですが、腹落ちするというレベルでしっくりくる本にはなかなか出会いませんでした。

一冊の本との出会い:配るマネジメント

そうした中、3~4年ほど前だったと思いますが、「マネジャーの仕事はたった1つ」というタイトルの本に出会いました。確か出張先でふらっと立ち寄った駅ナカの本屋で偶然みつけたと記憶しています。マネジャー論の本には、「あれも大事、これも大事」といろんなことが網羅的に書いてある傾向がありますが、この本はタイトルに「たった1つ」と書いてある。じゃあそのたった一つって何だろう?と気になって手に取ってみたわけです。

著者の高木晴夫氏は慶応大学のビジネススクールなどで教鞭をとられていた方です。興味ある方はぜひ本書を手に取っていただければと思いますが、著者が「たった一つ」と主張するのは、「部下の役に立つ適切な情報を配る」ことです。著者はこれを「配るマネジメント」と呼んでいます。とにかく情報を配る。そこは徹底しつつ、逆にそれ以外のことはしなくて良い。こういう考え方です。

本書を読んだとき、アップルは既にコンサルティングファームでプロジェクトマネージャーの立場にありましたが、半ば無意識にマネジメントでやっていたことと本書で主張されている「配るマネジメント」とが重なっていたので、強く共感をおぼえました。

ではどういう情報を配るのか?著者は5つの情報を配る必要があると整理しています。

1.状況情報 ⇒ 戦況のシェア
2.方向性情報 ⇒ 戦略・戦術の提示
3.評価に関する情報 ⇒ フィードバック・コーチング
4.個別業務情報 ⇒ オペレーション指示
5.気持ち情報 ⇒ 気配り・モチベート

⇒の右側はアップルによる意訳です。それぞれの情報の意味合いはこういうものだと要約したものです。こうやって書いてしまうとまあどれも部下に示すべき当たり前の情報だなという印象を持たれるかもしれません。しかしこれらの情報を「バランス良く」「徹底して」配ることができているマネージャーはそれほど多くはないような気がします。この5つをちゃんとできているのは一部の限られたハイパフォーマーのマネージャーと言えるでしょう。

この「配るマネジメント」の要諦は、「自ら手を動かしていない」点にあるとアップルは捉えています。情報を配ることは口だけでできるものだからです。口だけでできるからマネージャー自らの時間は浪費しません。持っている情報を惜しみなく話し、分け与えるだけでよいのですから。

最近ではマネージャーは「プレイングマネージャー」じゃないと務まらないという論調があります。口で指示するだけじゃなく、作業も含め手を動かさないととてもじゃないが仕事は回せないという論調です。確かにそういう傾向もあるでしょう。しかし、マネージャーがプレイしすぎると、マネージャー自身が疲弊するし、本来メンバーがやるべき仕事を奪うことでメンバーの成長やモチベーションにブレーキをかける側面もあるように思います。なのでアップルは基本的にはプレイングマネージャーという考え方に反対です。

この配るマネジメントという考え方は、世にはびこるプレイングマネージャー論に対するアンチテーゼという意味でも、なかなか面白いと思うのです。

戦略ファームのマネージャーが配るべきものは?

では、この「配るマネジメント」を戦略ファームのマネージャーに当てはめるとどういうことが言えるでしょうか?

上記の5つの情報分類はコンサルティングファームで配る情報にはちょっと当てはめにくいため、別の切り口でアップル自身も配ることを意識している4つの情報をご紹介します。

 1.論点や仮説を配る

ブレインワークにおける配りです。コンサルタント自らが論点、仮説を十分考えられないときには、論点や仮説を配ってそれをもとに調査・分析させます。ポイントは、論点や仮説を配る以上に踏み込まないことです。論点や仮説を配るのは「口」でできることですが、それ以上に踏み込む(例えば、調査や分析、スライドライティングなど)と「手」を動かすことになります。そうするとマネージャーが本来すべき仕事に手が回らなくなるため、論点や仮説を配るにとどめるのがとても大事だと個人的には考えています。

 2.情報・ノウハウを配る

マネージャー自らが持っている情報、ノウハウ、ネットワークを分け与える行為。特に戦略ファームでは、「誰が何に詳しいか」「プロジェクトに関連する情報やノウハウが社内のどこに転がっているか」をシェアするのが大事だと考えています。

なぜなら、戦略ファームというのは一般に人の出入りが激しいからです。新しい人が常時入ってくる一方で、誰かが辞めていきます。そのため平均勤続年数は一般的な事業会社と比べるとかなり短いです。プロジェクトメンバーの中には常に入社したての人が一定程度混ざってきます。そういうビギナーは、「同僚一人ひとりが何に詳しいのか」や「過去にどういうプロジェクトをやっていて、どういう知見が蓄積されているのか」をほとんど知りません。そうしたビギナーに対し、上記のような情報・ノウハウを配ることは業務の生産性上とても重要です。

 3.ネットワークを配る

マネージャーの人脈を解放するのがこれです。戦略コンサルティングでは外部インタビューを日常的にしますが、そうした中で「この分野なら俺の知り合いに詳しい人いるからアポとってあげるよ」とネットワークを配るわけです。

 4.クライアントインサイトを配る

5分類の「状況情報」「方向性情報」に近い位置づけの情報として、クライアントインサイトを配るのも大事です。コンサルティングプロジェクトのデリバリー途上ではクライアントの期待値などの戦況が時々刻々と変化します。そして、その戦況の変化に対する感度は、一般にアナリスト/アソシエイトよりもマネージャーの方が高いです。

・今時点でプロジェクトはどの程度うまく行っているのか?
・クライアントの期待はどこにあるのか?どう変化しつつあるのか?
・クライアントの言動の真意はどこにあるとみるべきか?

こういった見立て、すなわちクライアントインサイトを要所要所でメンバーに話し、チームで共通の認識をもつことがとても重要だと感じています。


今回は以上です。
配るマネジメントという考え方、いかがだったでしょうか?個人的にはとてもしっくりくるし、良いマネジメントの考え方だと思いますので、マネージャー層の方はぜひ参考にしてみてください!





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