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日常に映った父親の影

グレーに黒の太字で「ASAHI」と書かれたビールの缶をコンビニやスーパーで見かけると父のことを思い出す。7年前に亡くなった父はどうしようもない大酒飲みだった。弱いくせして飲むもんだからいつも後処理が大変だった。飲んで暴れることが多く、父以外の私と家族はよく悩まされた。そんな時に父の側にいつもあったのはあのグレーのビール缶だ。「あんな飲み物のどこが美味しいのか。」ずっとそう思っていた。二十歳を過ぎてお酒が飲めるようになってからもそうしたトラウマがあるせいかビールだけは相変わらず苦手でいる。(でもシャンディーガフは好き。)

世間が「父の日」で賑わいを見せる中、プレゼントを贈る相手がいない私はごくありふれた休日を過ごしていた。今日は朝から東京国際フォーラムで毎月ある大江戸骨董市に出かけお宝がないかを探し始めた。(私はヴィンテージのあの巡り合わせの一点と出会う時がワクワクして好きだ。)初夏ということもあり、かなり暑かった。今回、喉から手が出るほど欲しかったのは北欧のルームランプと30年前にフランスで購入して日本未入荷と言い張るGUCCIのバック。二つとも状態がよく、素晴らしい品だったが予算を大幅に超えていたため断念。残念。それも仕方ない。これが運命。

一旦、家に帰って軽い昼食を済ませベッドのシーツを洗い、ベランダに干す。今日は終日いい天気で気持ちがいい。半年ぶりに整体へ。今回は腰から下を入念に整えてもらう。お世話になっている彼女が私の身体を触る一押し一押しが気持ちいい。60分があっという間で帰り際に「水分いっぱいとってくださいね。」というアドバイスのとおり、カフェで本を読みながら3杯もドリンクを頼んでしまった。

いい時間になったので家に戻って夕飯の準備をするため近所のスーパーへ。入り口にある買い物カゴを持つと目の前には父の日キャンペーンの広告。「ああ、今日は父の日か。」と思いながらもいつもの日常と変わらずに必要なものを買い足ししていった。

スーパーを後にしてから贈る相手もいないのに、自分で飲むわけでもないのにあのアサヒビールを買わないといけないような気がした。なぜなら夢に父親が出てくることを私は恐れたからだ。このnoteにもたまに綴っているけれどうちの父親はヤバイ人なので死んでもなお私の夢に度々ゲストとして出演してくる。しかも夢でも酔っ払って私と激しいやり取りをしたことさえある。本当にお酒好きだったよなとしみじみ思ってから、その足で今度はコンビニに行きあのアサヒを手に取った。家に帰って神棚にビールを置いて手を合わせて心の中で呟く。「やっほー。元気?私は元気。好きだったビール、置いとくからね。これからもよろしく〜。」これも全て私の夢に出てこないでほしいための娘から父への愛のメッセージ。ビールを飲んですぴすぴ寝息をたててリビングで寝ている姿が懐かしい。あれから7年。私は父似と言われることが少なくなった。それでもたまに出る自分の不器用さは父親譲りだと思う。肉体と魂が無くなっても「血」だけは濃い。父に対して何もしてあげられなくなったけど今もこれからも見守っていてほしいと自分勝手ながらに思うそんな6月の夜。

追伸
父へ
今日夢に出てきたらnoteに書くからね。
私より

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