わたしの「私の解放日誌」 Vol.2
みんな生まれ変わりたい
「生まれ変わったら一緒になろうね」と言ったのは聖子ちゃん。簡単には生まれ変われないから別の人たちと一緒になったのは別の話だ。
モンタギューとキャピレットという名家の名が障壁になり、ついに服毒という転生パフォーマンスにまで及び伝説の悲劇になるのは「ロミオとジュリエット」。ここではそう簡単に家を捨てられないことが問題だ。
近松門左衛門の「曽根崎心中」のお初と徳兵衛も来世で結ばれることを誓って心中して心中ブームを巻き起こす。
極端な選択を選んだ市川猿之助も「死んで生まれ変わろうと家族で話し合った」と言っている(2023年5月20日現在)。詳細はわからないが現世に見切りをつけてしまった。幸い現世は見切ってくれなかったが。
「私の解放日誌」のクさんも
とミジョンに生まれ変われることができるか確かめながらも、お酒は止められないでいる。
OSTの歌詞にもある。
古今東西、みんな、生まれ変わりたい。生まれ変わって違う自分になりたい。人間の永遠の願いだ。
日本の前近代は生まれ変わっていた
明治前の日本では名前が変わっていた。
幼名、元服、隠居などだ。
裏千家の家元は今でも名前が変わる。若宗匠時代は千宗興、家元になると千宗室、隠居して千宗室だ。
歌舞伎役者や落語家も変わる。市川亀治郎から市川猿之助、林家こぶ平から林家正蔵と言った具合。
要するに、社会的な存在の意味が変わると名前は変わっていく。昔は生まれ変わっていたのだ。
モンタギュー家のロミオも市川ロミオとかになれたら悲劇は起こらなかったかもしれない。
生まれてから死ぬまで一生名前が変わらなくなった近代では、自分が変われないのは名前が変わらないからと思い込む苦悩があると養老孟司先生は言っている。名前が変わらない中で、自分探しや自分とは何者なのか?を追求せずにはいられないビョーキが近代にはあると言っている。大変だよ、まったく、ふぅ〜。
クさんは名前を変えたがっていて、ついに名前を変えた人
クさんはサンポではずっとクさんだ。吾輩はクさんである、名前はまだない状態で暮らしている。
クさんは、食用の家畜には名前を付けないとミジョンに言われて「名前を付けて。」と言ったりする。本名があるのに何言ってんだ?だが、違う自分になりたい人は名前も変えたかったはずだ。
弟分のサムシクの名前を呼ぶときも「春子」だの「玉子」だの「ウビン」だの毎回違う。相当なアル中だけど、瞬時に気の利いた名前を呼ぶところは名前に対して相当なこだわりをお持ちです。
そしてついにミジョンに再会した15話で、初対面の挨拶のように行儀良く「ク・ジャギョンと申します。/구자경 이라거 합니다」と言う。
あそこは「クさん」から「ク・ジャギョン」になった瞬間で、生まれ変わった人間は初対面の人に礼儀正しいということだ。
OSTの「Be My Birthday」もまたそれを歌っている。
パク・ヘヨン作家の癖を楽しむ
ちなみに「ク・ジャギョン」の「ジャギョン」は「子警」と漢字に置き換えられると思う。クさんは会長に「セラピーで、警戒していると言われた。」と話している、それかなと思う。「子警」の漢字をひっくり返すと「警子」。「春子」や「玉子」と似ているのも笑える。
姓名の「ク/구」については「あの、その」や「彼」などの代名詞で、同じ発音の「ク/그」と掛けてるに違いない。パク・ヘヨン作家はそういう言葉遊びが多い。
その意味は13話の2人が錯綜するシーンで理解できる。
字幕ではミジョンの独白で「彼が来る 彼が来た/그가 온다 그가왔다」となっている。
でもその「ク」は「彼」でもあり「クさん」でもあり、途中、電車の窓から見える解放教会の「今日はあなたにとって良い日でありますように」の看板にある「良い日」でもあるよね。このシーンのために謎のアル中に「ク」という姓名をつけたんじゃないかと思える。こういうとこ、ずるくてうまい。
誰にも奪えない人間の最後の自由
自身もアウシュビッツ収容所生活をした心理学者ヴィクトール・フランクルは「夜と霧」で、収容所で名前を奪われ、過酷な生活を強いられた人たちの中から生還した人たちには共通の理由があると書いている。
極限の中でも一条の光を信じることは、人間にとっての最後の自由なんだと思える一瞬のカットには息を飲む。この後、クさんはミジョンにやっと電話する。
周りの人間は変えられないけど、自分は変われる。生まれ変わらなくても変われることをパク・ヘヨン作家は「名前変更ギミック」で教えてくれてます。韓国も日本の前近代制度はあるのかな?例えば二代目ペ・ヨンジュンとか。ないです。
「ユ・クイズ」でソン・ソックは「私の解放日誌」に出演したことを「再び行けないところに旅した感じ。」と言っている。あの人、ちょっと味わい深いことを言うからぼんやりしてられない。
ええ、そうですよ、「私の解放日誌」には、思いも寄らない遠いところまで連れてかれて、私もああ、びっくりだ。
注意)この記事のタイトルにある「Vol.2」によると「Vol.1」があるようだが、今はない(笑)。「Vol.2」から始まりました。そういうものもあるってことで。
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