2024年釜山映画祭イ・ソンギュン追悼プログラム「私のおじさん」スペシャルトークまとめ「イ・ソンギュンは私たちの思い出だ!もう一度!イ・ソンギュンは私たちの思い出だ!」
12月27日でもう1年になる。
イ・ソンギュン俳優が亡くなったのは2023年12月27日だ。
初めて観た韓国ドラマ「コーヒープリンス1号店」にサブ主人公として出演していた。
MBC初の女性PDと言われているイ・ユンジョンPDの描く世界観が好きになり、この作品をきっかけにずるずると韓国ドラマや映画を観ることになるのだが、ドラマも映画も自在に行き来するイ・ソンギュン俳優が出演する作品は、気づくと逃さずに観ていたように思う。
2024年第29回釜山国際映画祭の企画のひとつ「イ・ソンギュン追悼プログラム“私のおじさん/나의 아저씨”スペシャルトーク」に参加した。
スペシャルトークイベントは、ドンフンがジアンのお婆ちゃんをお月見に連れて行ってくれたり、雪に滑って起きれないでいるドンフンの様子を盗聴したしたジアンが助けに走るという、2人の関係が大きく近づき出すきっかけのシーンがある「私のおじさん」の5話を上映した後、キム・ウォンソク監督と長男サンフン役を演じたパク・ホサン俳優と末っ子ギフンを演じたソン・セビョク俳優のトークが行われると言うものだった。
釜山映画祭に行ったのは初めてだったが、この上映後の行われる「GV/ゲストビジット」と呼ばれるトークイベントがすこぶる面白い。
登壇するゲストたちが話がうまいし、観客参加の質問コーナーの質問の視点も鋭い。東京国際映画祭とかどうなんでしょうねえ。
私が参加したものは、普通に劇場挨拶みたいにあっさりした感じのものが多いけど、どうなんだろうか。
「“私のおじさん/나의 아저씨”スペシャルトーク」の内容で、記憶できているものだけを、まとめておく。
キム・ウォンソク監督 犯罪じゃなかったのに
「MBCの“テルン選手村”に出演するイ・ソンギュンを観て、彼に台本を渡した。当時、イ・ソンギュンは映画2本を撮り終わった後で、ひどく疲れていたようだったが、“未生”のファンだと言って台本も読まずに出演してくれることになった。」
私はこの監督がこんなに饒舌に話す人だとはイメージしていなかったので、ほぼひとりで話していたのには予想外に驚いた。
「私のおじさん」の他、「未生」や「シグナル」を演出した人である。
当然、故イ・ソンギュン俳優の麻薬投薬疑惑報道には一過言あるに決まっているが、今まで外に出すことはなかった静かな怒りを吐き出しているように見えた。
「個人的に言いたくない記事を出したメディア、検察、警察、そしてそれらは大衆が容認するからそういうことをしたのではと考える。
そういう記事が非難されればもう出さなかっただろう。
私たち大衆はメディア産業時代にあって、絶対的な強者だ。
切って捨てる前にもう少しチャンスを与えて欲しい。犯罪だったとしてもチャンスを与えることはできると思う。
だけど、これは犯罪でもなかった、犯罪となる証拠もない状況だった。
俳優とは、皆さんの応援と支持がなければ成り立たないはかない仕事だと思う。虚偽の操作内容を漏洩した人は、大衆の力で制裁されなければいけないと思う。
私はイ・ソンギュンを知っている。イ・ソンギュンがどんなことをしても私は彼を信じている」
この監督の中には相当に憤るものがある。
それを冷静に淡々と絞り出している感じがした。
「私のおじさん」15話で、ドンフンに見つかり病院に連れてこられたジウンが、ドンフンにこれからのことを心配するなと言われて「盗聴もしていた私を恨んでいないのか」と聞くシーンで、ドンフンが答えることと同じことを言っていた。
感情に引きずられることなく、最後にきっちりと流石のまとめ方をされた。「信じて観る監督」は違う。見事だと思った。
監督とは違って言葉少なで時折泣いているようでもあったパク・ホサン俳優もいい言葉を言っていた。
あと2ヶ月もすれば1年になることが信じられないと言ってたソン・セビョクはもっと言葉少なだったな。
「私のおじさん」の14話で、ジョンヒの店でサンフンの嫁のエリョン(チョン・ヨンジュ)が、酔った勢いでみんなが遠慮している親友サンウォンの話を止められても続けるシーンがある。
「あんたも話さないと心が病むわよ」とジョンヒに言い捨てる。
世の中のタブーはしばしば空気を読まない人間がこじ開けていく(笑)
私には愉快なシーンだが、ここで、店にいるみんなが合言葉のように
「ユン・サンウォンは私たちの思い出だ!」
「もう一度!」
「ユン・サンウォンは私たちの思い出だ!」
と叫ぶ。
イ・ソンギュン俳優の死はタブーではないけど、彼に対する私の気持ちは
「ユン・サンウォンは私たちの思い出だ!」に近い。
さて、彼が出演している作品は残っているし、未公開の作品もある。
朴大統領暗殺事件である10.26事件に関わったとされるパク・フンジュ大佐をモデルとするパク・テジュ大佐(イ・ソンギュン)とその弁護を引き受けたテ・ユンギ弁護士(チョ・ジョンソク)の実話を元に描かれたイソンギュンの遺作である「幸せの国/행복의 나라」が日本で公開されるのを待っている。
この映画のエンドロールには
という言葉がクレジットされているらしい。
俳優自身は人生の幕を下ろしても、作品の幕はいつでも開けられる。
キム・ウォンソク監督が言うように、支持し応援し続けようと思う。