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換算40mmと和解する──撮ってて「しんどい」と思うなんて LUMIX G 20mm F1.7

 しばらくぶりの更新です。ようやっと今年度のやることを概ね終えたので、目詰まりしている下書きたちを順次公開していけると思います。お疲れさま、自分。

XF27mmF2.8の発表で、換算40mmとの出会いを思い出す

 先日、富士フイルム X Summit GLOBAL 2021をなんとなく観ていたら、その中でXF27mmF2.8の換算40mmの画角が褒められていました。換算40mmが好きな身としてなんだか勝手に嬉しくなったとともに、自分が換算40mmと出会った時のことが懐かしくなって、ちょっと振り返ってみたくなりました。

 発表の中で、「広角35mmと標準50mmの両方のキャラクターを持っている」「想像以上の使い勝手に富んだレンズ」と言われている換算40mmですが、自分が換算40mmに対して持っている印象はけっこう違って、使い始めの頃はそれはそれは苦しんだものでした。ちょっとばかし、思い出話にお付き合い願います。

「ちょっと広めの標準レンズ」がほしかった

 時系列としては前回の記事の続き。オールドレンズがちゃんと使いたくて、Nikon1からマイクロフォーサーズマウントのOLYMPUS OM-D E-M10IIに買い替えたという話でした。

オールドレンズが使いたくて買い替えたカメラだったので、しばらくはデジタル対応のレンズは持っていませんでした。ちゃんと効くAEと覗きやすいファインダー、便利なフォーカスピーキングのおかげで、使い勝手に不満は無かったけど、OMマウントのレンズはマイクロフォーサーズでは望遠寄りになるものばかりだったので、使ううちに、もっと広角寄りのレンズがひとつ欲しくなってきました。広角・標準域のレンズを持っていないことはなかったのですが、Cマウントの産業用レンズだったり魚眼レンズつきのボディキャップだったり、だいぶクセの強い面々でしたので、もう少し素直なレンズが欲しくなったというのもあります。そこで白羽の矢が立ったのが、LUMIX G 20mm F1.7という換算40mmになるレンズ。とにかく良く写ると評判だし、20mm F1.7というスペックからも十分なボケが期待できるし、小さくてかわいいパンケーキスタイルのレンズだし、おまけに安い。

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 なにより、換算40mmの画角が使いやすそうだなって。慣れ親しんでいるのは換算50mmの画角だけど、時折、ちょっと狭いなと思うことがあって。ちょうどCanon Demi Sというハーフサイズのカメラが換算44mmくらいの画角で、50mmよりも気持ち広くて使いやすいなーって思っていたので、それよりももうちょっとだけ広いとなったら、「ちょっと広い標準レンズ」として大活躍してくれそう、丁度よさそうだって思ったんです。せっかくカメラを買い替えたのだから、慣れ親しんだ50mmからちょっとだけ外れて冒険してみたい気持ちもありましたし。

初めて「撮れない」と思った

  出かける用事があったので、さっそく持ち出し。カメラにこの20mm F1.7だけをつけて、道中写真をとってお手並み拝見。電源をいれて、ファインダーを覗くと…あれっ?

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標準レンズとは勝手が違う。思っていたよりずっと広い。

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画面いっぱいに物をうつすような撮り方ではそれほど違和感がないけど、

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でも、なにか「これ」というものを撮ろうとした時に、うまく画が作れない。

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すこし離れて、思い切って横長にクロップ。悪くないかんじ。でもこれじゃあどちらかというと広角じゃないか。それに同じ広角ならもっと広いほうが使いやすい。

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ぐぐっと寄ってみた。これだけ近づけば背景もとろけてくれたんだけど、なんか思っていたのと違う。

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何かが違う。思ったように撮れない。

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撮れない。

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撮れない。

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細くクロップしてしっくりきたのを思い出して、16:9に固定して撮ってみた。縦方向はたしかに扱いやすくなったけど、やっぱり横方向が余ってしまって扱いづらい。それに無理やり狭く使うのって、合わない道具を無理に使ってる感じがして、なんだか申し訳なくなってくる。

 どうしよう、このレンズ。標準レンズとしてはとにかく広くて、思ったように切り取れない。いままで写真を撮ってきて、こんなにも「撮れない」と思ったことが今まで無かったものだから、ただただ戸惑う。もう少し撮ってみて、だめだったら売却しようか。でもレンズを売りに出すのなんてどうやったらいいかわからないし、うーん、どうしよう。

レンズが撮り方を教えてくれたような

 そんなことを考えながら駅のベンチで座っていると、通過列車がやってきた。マニュアルフォーカスのレンズでは動くものを追うのが難しかったけど、せっかくオートフォーカスなんだからということで、カメラを構えて、ぱちり。

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 通行人が写り込んでしまったし、肝心のピントは電車を見失って背景に行ってしまった。失敗。そうだった、このレンズは動き物へのオートフォーカスがだめなんだった。ああ失敗したと思って、一応プレビューを確認。まあやっぱりふつうに失敗写真なんだけど、偶然撮れたこの写真から、何か可能性のようなものを感じた。

 標準とも広角とも違った、緩やかなパース感のなかにしっかり奥行きがあるような、不思議な空間の広がり方。瞬間を切り出すのともスピード感を表現するのとも違った、スローモーションで動き出すような動体感。撮ろうとした写真とはまったく違うけど、なんだかこのレンズが写真を通して「私はこういうレンズなんだよ」と語りかけてくるようだった。売却の話はひとまず凍結して、もうちょっとこのレンズに耳を傾けてみよう。

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悪くないかも。

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あんまり標準っぽくないけど、いいかんじ。

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シネスコにしてみた。風景といえば広角だと思っていたけど、あえて遠くを狭く切り取るのも悪くない。

「準広角」への気付き

 思えば、このレンズは「私は標準レンズじゃないよ、こうやって撮るレンズなんだよ」ってずっと教えてくれていたんですね。でもそこで自分は勝手に、このレンズにずっと「標準レンズ」しての役回りを求めてしまっていたんだなって。もうちょっとこのレンズの事を分かってあげるべきだったと反省するとともに、このレンズ、この画角だからこその良さをもっと聴いていこう、活かしていこうって思った。換算40mmさん、今まで悪かったね。

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飛行機の上から。陸と空を同時に撮るなら、標準画角や広角よりもしっくりくるかも。

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うまく言えないけど、切り取り感のなかに自然な広がり感があるような。

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標準画角だと「ぎゅっ」としてしまうところを、もっと奥行きをつけて。

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広く、でもしっかり切り取ってパースを緩やかに。

 あと、肖像権の問題があるので載せられないけど、飲食店なんかで、テーブルをはさんでいっしょに座っている人を撮ると、すごくしっくりくるんですよ。背景で店内の様子がなんとなく伝わりつつ、ちゃんと人に注意がいくような。「そこ」と「それ」の関係性が見える文脈感のある写真が、気持ちよく切り取れる。

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「神レンズ」の二つ名とは裏腹の、個性的で人間味あふれるレンズ

 このLUMIX G 20mm F1.7というレンズは、その写りの良さから、ちまたでは「神レンズ」とあだ名されているらしいですね。高い光学性能を誇り、どこへでも連れていける小型軽量パンケーキスタイル、おまけに安いときたら、これは確かに神の恵みとしか言いようがなさそうです。

 でも自分がいっしょに歩いた限りでは、むしろこのレンズほど「人間らしい」レンズはなかなか無いと思うんです。止まっている物に対してはその性能をいかんなく発揮するけど、オートフォーカスはゆったり遅く、すぐ迷子になり、動き物に弱い。また標準レンズや広角レンズとは使い勝手がぜんぜん違って、独特の奥行き感がある画角。できる事とできない事がはっきりしていて、個性的。これこそ「人間らしい」レンズだと思う。

 実際の人間だって、カンペキに仕事ができる完全無欠の人って、それだけだとなんだか付き合いづらいでしょ?でもそこで、実はこういう事は得意じゃなくてとか、実はこういう変わった趣味があってとか。あとは何かがあまり上手くない人でも、何か他の人とは違った特性があったり。そういう凹凸があることで、対話をして、強いところを高めあって、弱いところを補いあって、心地いい関係性が構築できるもの。このレンズの魅力って、なんだか憎めない、そういう「人間くささ」だと思うんです。

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 当時と比べれば、持っているレンズの本数も増え、写真の撮り方もだいぶ変わりましたが、相変わらずお気に入りのレンズのうちの一つです。得意・不得意がはっきりしていて、万能というわけにはいきませんが、このレンズで切り取った世界をもっと見たくて、気づけば、どこへ行くにも必ずこのレンズが鞄の中にいます。

換算40mmを連れて、次はどこに行きましょうかね。

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