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メタファーとは。

”いいえ、わたくしどもはイデアなぞではありません。ただのメタファーであります。

ただのつつましい暗喩であります。
ものとものとをつなげるだけのものであります。”

(村上春樹著:騎士団長殺し「顔なが」の台詞より)

メタファー、暗喩。

私の好きなウィーン幻想派の絵画や、様々な文学作品にもよく出てくる要素で、私はこの言葉がいまいち理解しきれないながらも気になっていたし、自分の制作において重要な位置を占めるのではないかという気がずっとしていた。

なぜなら、私は多分、抽象的にものごとを捉える傾向の強い人間だけれど、例えばロスコの抽象画のように抽象的なことを抽象的に表現することはものすごく難しい(し、それができていたらこうやって葛藤する必要もないだろう)。
でも、そこにメタファーが存在することで抽象的なものと具体的なものをつなげることができ、また具体的な何かを描く行為を通して自分の中の抽象的な溜まりに触れることができる。

というようなことを、今日、春先の、雨と雨の合間の天気の良い日に河川敷で寝そべって本を読むという優雅なことをやっている中でこの文章を読んだ時に、すごく平坦な文章なのだけれど腑に落ちた。

この作品自体は何回か読み直したものだし、暗喩とは何か、的な文章も色んな所で読んだはずだけれど、それがいつでも自分の中に入ってくるとは限らないい。
若い時には何を読んでもすんなり入ってくることが多くそれは素晴らしい特権だったと思うけれど、我々のような中年以降の人間が心を開いてニュートラルな状態になるにはそのための装置、天気の良い川辺とか、何の予定もなく誰にも邪魔されない時間とか、が必要になってくるのだと思う。

そして私はこういう貴重な瞬間を糧に制作を続けていくのだろうと思うし、このような超個人的な感覚を共有できる相手が一人でもいるのは恵まれたことだと思う。

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