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学ランを着た5歳年下の男の子のこと

淡く幼く情けなかった忘れ去られた恋シリーズ第二回。
前回書いたこちらの記事
「中学の時に告白された顔の綺麗な男の子の話」

初めての恋と書いたものの本当は恋未満の話でしたが、今日の思い出は恋未満未満。小さな小さな灯火です。

20代前半、大学を卒業した私は就職もせずにフリーターになった。夢があったから、と言えば聞こえは良いが、モラトリアムを終わらせるのが怖くて夢にすがっていたというのが本当のところ。しかしそれはまた別のお話し。

バイト先はファミリーレストランの深夜帯だった。「深夜に働けば昼間は自由じゃないか」という考え無しの発想で決めた職場だったが、暇なわりに楽しく良いバイト先だったと思う。

24時間営業のファミレスには異なった顔がたくさんある。私の働く深夜に訪れるのは、時間と力を持て余している若者、昨今話題の夜の街で働くお兄さんお姉さん、やめときなよと声をかけたくなるような怪しい勧誘の集団。これが朝6時を過ぎると一転して、仕事の前に朝食を食べるサラリーマンでいっぱいになる。それなりの人生の縮図。

その子が働いていたのは、一番健全なディナー帯だった。

ディナー帯に働くのは高校生から大学生。そのファミレスは深夜帯を別にすると客入りが良く、社内でも何とか賞を取るようながんばっている店舗だったのでバイト仲間の団結も一致していた。彼らは休みの日にはBBQをするような仲の良い集まりだったように思う。(外から見てだが)

彼は高校生でたしか17歳だった。
「今度、デートしてくださいよ。」
その時私は22歳。自分ではもう大人になったと思っている若者だった。22歳の私が17歳の男の子とデート?デートってなんだっけ?
一瞬迷って私はこう言う。
「学ラン着てきてくれるならいいよ。」
そうして私たちはデートをすることになった。

最寄り駅近くのファストフードで待ち合わせた。何を話したのか全く思い出せないが、あまり話は弾まなかった気がする。23区内と言っても何もなかった街でやることといったら限られてくる。私たちはカラオケ店に入った。

当時の私はヒットソングなんて聞いてたまるかと斜に構えまくりなイタイ若者だったので、17歳の男の子が喜ぶ歌を歌うことはできなかった。か細い知識を総動員して「あれ、歌ってほしいな」と流行りの曲をリクエストした。

歌いながら彼は、私の肩に頭をもたれかけた。背が高くてがっしりした5歳年下の男の子が、そっと私の肩に頭をもたれる。今では顔も名前も覚えていないが、正直当時だって下の名前を知っていたか怪しいものだ。それなのに今こんなことになっていて、さてどうしたらいいのだろう?

「キスをしたらどうなるのかな」
と、考えたと思う。もしかしたら彼にとってはファーストキスかもしれない。それをきっかけに付き合うとは考えられなかったが、17歳の男の子の一生の思い出になれるなんてそんな機会はそうそうないだろう。

結局それ以上のことはなくそのまま解散し、その後もその日について話すことはなかった。多分向こうにとって思ったほど楽しくなかったのだろう。私も楽しかったかと言われると正直つまらなかったし、一生懸命考えなければ忘れていたような出来事だ。それでもこうして文章にしてみると、それなりに趣がある良い思い出にみえる。

実際あった出来事はもうあやふやで、ここに書いたことのどこまでが本当にあったことなのか、ウソじゃないかと言われればそうかもしれないと思う。それでもいいじゃないか。思い出は綺麗に化粧をして、アルバムにいれよう。いつか取り出してみるかもしれないし、一生見ないかもしれない。それでもとっておくために、私たちには語りが必要なのです。

次回は
「バイクで行った東京タワーの話」です。
またベタなワードでウソっぽさに拍車がかかります。


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