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愛すべき愚かなクマたちの物語(プーではない)

『シチリアを征服したクマ王国の物語』

 
 このタイトルをご存じの方はどれほどいらっしゃるでしょうか。
 8年ほど前に文庫で再版されたので、もしかしたら知っている方もいるかもしれませんが、おそらく大部分の方は知らないと思います。

 いつもいつも、周りに勧めたいと思っていて、今回いい企画を発見したので、ちょっとここで紹介させていただこうと思います。

 思うのですが、最初、少しだけ私の話が入ってしまいます。
 入ってしまいますが、それでもそこから聞いてやろうという方はそのまま読み進めてください。
 本の紹介だけでいいという方は、目次の「衝撃のオープニング」からご覧いただいて大丈夫です。

 では。

文字を読むのが嫌いだった

 
 私は幼稚園の頃から公文に通っていました。
 基本そつなくこなせて、与えられた課題は多少やればできた私が、何度やっても、何度やってもつまづき、結局自分が小学2年生で辞めるまでに(多分最終的にやったと思うんだけど)できた覚えがない課題がありました。
 内容は覚えていません。覚えているのは、それが国語の文章読解問題だったということだけです。いわゆる「登場人物の気持ちを答えなさい」といった類の問題で、何度もやって、答えも知っているはずなのに、再度与えられたときに必ず同じ場所で躓きました。

 それ以降、国語の教科書の音読はできても「自分は文字を読むのは向いていない」と考えるようになり、図書館で本をたくさん借りてきても、学習漫画か写真の多い図鑑系の本が多くなりました。
 当時もあった「ズッコケ三人組」や子供向けの小説や文字だらけの本には、ほとんど手を出さなかった気がします。

 そんな私が、この本のどこを気に入ったのは、どうしてそれを図書館で借りようと思ったのか、最初のきっかけはもう覚えていません。覚えているのは、私が読みたいと思ったときにはいつも同じ書架にあって、他の本と一線を画すサイズでそこにあり、みんなに勧めても誰も読んでくれないので、心置きなく好きなときにその本を読めたということです。

衝撃のオープニング


 さて、一番最初にこの本「シチリアを征服したクマ王国の物語」を手にして、表紙を開いて目次の次に出てくる絵と、その文章。

 そこで早速誘拐されてるクマ王国の王子、トニオ。

 物語が始まる前に、すでに大事件が勃発してます。
 この物語の主人公は当然、クマです。クマ王国の王様であるクマのレオンツィオ王。この王様、息子と外出して、ちょっと目を離した隙に人間の猟師に息子を連れ去られてしまったんです。
 本文に入ってから、この王様、息子を連れ去られたなんてみんなに言えないよ…と崖から落ちて死んだことにしてしまいます。悶々と日々を過ごす中である年、とてつもなく厳しい冬がやってきて、冬眠前の食事を満足に摂ることができずにいるクマたちが、飢え死にするくらいなら人間たちのところへ行こう、と決起します。
 王様は「これで堂々と人間のところへ近づいていける。息子を探せる」と山を下りることを決意して…というのが一番最初の流れです。

 その後、王様は息子を探し出せたのか、クマたちは人間とどのように戦い、シチリアを征服したのか。
 気になる方は是非、読んでみてください。

自分のことしか考えない登場人物たち


 さて、このお話を読んでいて途中でこんな話が出てきます。

 クマの王様レオンツィオは、魔法の杖を持つデ・アンブロジイース教授と出会います。この魔法の杖はなんでもできるのですが、実は回数制限があって、その回数制限のために、教授は一度も魔法の杖を使ったことがありません。
 ですが、効果は本物。本当になんでもできる魔法の杖で、それを使ってレオンツィオ王は息子のトニオを探してほしいと教授に頼む場面があります。もちろん、教授は首を縦に振りません。

 この回数制限のある魔法。ここでの王様と教授のやりとりがまあなんと自己中心的なことか。
 王様はなんとかここまできて、あと一歩息子に近づきたい一心です。教授は教授で何かあったときに使いたいと大事に大事にしまってきた魔法の杖を、他人のために使うだなんてと頑なに断ります。

 いや気持ちはわかるんだけどさ、と。

 ただ、思い返してみればこの場面が私をこの物語に引きつけたのかもしれないとも思います。ファンタジーなのに、人間臭い。魔法で片付けられそうな場面で繰り広げられる、魔法で片付かない思惑。

 魔法の杖はこの物語での最重要アイテムです。要所要所で魔法の杖が登場します。どのように使われていくのかお楽しみに。

言葉の”意味を知る”


 この見出しの言葉は、私がこの物語を読んで考えたことです。
 ネタバレになってしまうので多くは語れませんが、王様はある場面でこう言うのです。

「クマたちは「盗む」という言葉の意味さえ知ってはおらぬのだ!」

 物語の上では何も重要なセリフではありません。これだけで何かがネタバレっていうことはないのですが。

 これをみて私は、「王様、クマだけど「盗む」って知ってるじゃん」と思ったんですよ。

 盗むっていうのは、他人のものを不当、不法な手段によって自分の手中に入れる行為ですよね。前提として、「他人のもの」と「自分のもの」という所有の概念が存在する必要があるんです。
 つまり、このセリフを発した王様はすでにその概念を持っている。ということは、他のクマも所有の概念を獲得している可能性は大いにあるわけです。

 それが「何」によってもたらされたのか。

 私は読んでみて「なるほどね」と思いながら、最後まで読み進めたものです。

私のお気に入り〜イタリアンなキャラクター名〜


 さて、ネタバレになっても微妙に許されるかと思うキャラクター名。名前だけでわかる内容はないはず。
 私のお気に入りの名前をご紹介いたします。

 化け猫マッモーネ

 フランジパーネ

 デ・アンブロジイース教授

 全部、お気に入りポイントは「音」です。言いにくいのが最初と最後。マッモーネって言いにくくないですか?
 フランジパーネは…「フライパンっぽい」です。それだけです。フライパンっぽいのにちょっとかっこいいから好き。

 唯一、「デ・アンブロジイース教授」はかなりの重要キャラクターです。先ほどの説明であった魔法の杖、これを持っている物語を左右する人物ですので、もしお読みになられる方はこの名前だけは読めるといいです。見かけるたびに「どう読むんだ?」と思わないように。
「ジーイス」じゃないんです。「ジイース」なんです。私、結構長い間、間違えてた。
 ちなみに、登場人物紹介でも「変わった名前」と言われているので、イタリアでもやっぱり変な名前らしい。

映画化!?


 え、ちょっと待ってください。
 久しぶりに感想書くのに調べてたら映画になるんですけど!!

 映画では王様の名前がレオンスに、教授は魔術師デ・アンブロジスになってますね。そっちの方がイタリア語に近いのでしょうね。私、原書読んだことないし、イタリア語わからないので知らなかったです。

 ちなみに映画のサイトに飛んでしまうとネタバレになりまーす!


 見ないでー!! 読んでーー!!

 お願い読んでー!


#読書の秋2021

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