見出し画像

成長を喜んだ日

 子供が二人いる。

 下の子は、上の子が2歳になってすぐに生まれた。つまり2歳差兄弟なのだが、上の子はどうにも言葉が遅めの子だった。下の子が生まれて少しして上の子のプレ幼稚園が始まったのだが、なかなかどうして女の子の口の達者なことにこっちが舌を巻いた。上の子は「これがいい」という意思表示すらなかなか覚束なかった。

 生まれた弟に対しても「なぞの せいめいたい が あらわれた!」みたいな反応で、そもそもお母さんが取られるとかいう認識以前の問題だった。怖がってる。

 それでも大好きなイチゴを見れば「いちご!」とは言うし、読んでほしい絵本があれば「こえ、こえ! ほん!」と言うことくらいはできたし、何ならひらがなは読めた。最低限の意思疎通には問題がなかったので、3歳児健診でも軽く相談はしたものの「入園してみてですかねー」という感じだった。

 そんなある日のこと。
 下の子のお肌に発疹が広がった。あまり痒がる様子はなかったものの、あまりに急激に広がったため、驚いた私は小児科に行くことに決めた。夕方4時ごろ、小児科はギリギリ開いているものの旦那はたまたまおらず、上の子を家において行くことはできないため、幼児番組を見ている上の子にこう伝えた。

「これから準備をして、お医者さんに行きます。このテレビが終わったら家を出るから、準備の間はテレビを見て待っててね」

 そう伝えるや否や、私は子供の着替えやおむつ、母子手帳や必要なものをバッグに詰め、上の子に着せる上着なども大急ぎで用意したのだが、ふと足元をみると上の子がテレビのリモコンを持って立っている。

 「けす」

 そういって、私にテレビのリモコンを押し付けてきた。まだ番組は終わっていない。あと二、三分だけとはいえ、終了までは時間がある。

 「テレビ、消していいの?」
 「うん」
 「じゃあ、準備してお医者さんに行こうか」

 いつものこの子からは考えられない言動だった。
 完璧主義なところがあり、トイレや何かしらの用事で好きなテレビ番組が開始から見られなかったと知るや「ぎゃーー!!」と泣き叫ぶ子だ。正直、見ていた番組が終了してもいつも見ている次の番組を見ることはできないので、せめて予告をしておこうというだけの行動だった。

 テレビを消す。いつもとは違うタイミングでも怒ることはなく、彼なりにすでに身支度を始めていた。靴下も履けないのに、足にあてて履こうとしている。
 家を出ても、いつもなら電車の音に耳をすませたりてんでかってな方向に行くはずなのに、彼は一生懸命ついてきた。置いて行くつもりはないが、気持ち急足になった私についてこられるかと振り返れば、楽しそうな顔で走って追いかけている我が子がいる。

 小児科に着いて待っている間も、下の子の診察の間も、彼は終始大人しく私の指示に従い、退屈そうに小児科の壁のテレビを見つめていた。待っている時間に思ったのは、そういえば手を引く必要もなかったなということだった。

 家に帰り、私は上の子を思いっきり褒めた。

「ありがとう。ママ、一生懸命ついてきてくれたの嬉しかったよ」

 上の子はニヤニヤしている。ぎゅーっと抱きしめると、「ぎゅー」と言いながら抱きしめ返してきてくれた。

 体が大きくなったな。

 足が速くなったな。

 頼もしくなったな。

 でも、まだママと一緒に寝たいと駄々をこねる甘えたなところがあるのも事実で。それもいつまでなのかな。

 またきっと、少しずつ頼もしく、大きくなっていく子供達なのでした。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?