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#ネタバレ 映画「秋刀魚の味」

「秋刀魚の味」
1962年作品
幸せも哀しみを内包している
2015/5/11 21:28 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

映画の前半、中学時代の恩師の娘・伴子が出てきました。

父が謝恩会から帰り、ご機嫌で酔いつぶれる姿を見て、彼女はさめざめと泣くのです。

父の幸せは、結婚をあきらめ、母親代わりに父の面倒を見ている私の上にあるのにと、あらためて思ったからですね。

だれも娘の幸せのことなど考えてはくれない、私は独りぼっち、と哀しんだのです。父には心通う仲間もいるのに。

映画の後半には、路子の結婚式の後、独りバーへ行った主人公・平山が描かれます。

バーのマダムが「今日はお葬式ですか」と聞くと(そんな勘違いをする人がいるとは信じがたいが)、平山は「まぁ、そんな様なものだ」と答えます。

結婚式なので、大安吉日、メデタイ日に違いありませんが、愛娘を嫁がせたのですから、父の哀しみは、まるで御葬式みたいなのです。

時に、幸せも哀しみを内包しているのです。

だから、お相撲さんでも、オリンピック・パラリンピックでも、勝者なのに敗者に配慮して、あんまりノー天気には喜ばない人がいたら、ざぶとん一枚あげたいと思います。

また、それ以前に、例えば柔道などで、最初の礼がきれいな人にも、そこで、ざぶとん一枚をあげます。

今はどうか知りませんが、かつてオリンピックの柔道で、一流の日本人選手なのに、外国人選手の方が、きれいな礼していて、見ていて恥ずかしかったことがありましたから。指導者が、まるで勝つことしか教えてないみたいに。2020東京では、そこにも注目しましょう。

だっせんしました。

平山は、幹部軍人として、戦争に負けて悔しい(寂しい)と思っているに違いないのですが、同時に、戦争に負けて、平和な新時代が到来して良かったとも思っているのです。

その相反する気持ちの中に、どうしようもなく漂っている。

この相反する気持ち=路子を嫁にだした後の気持ちなのですね。

この映画は、そんな戦後独特の空気を、同居の母を亡くしたばかりの独身・小津監督の気持ちを…娘を嫁に出した男の心情に昇華させて描いたものなのでしょう。

そもそも映画「秋刀魚の味」とは何を指していたのか。

人生のしょっぱさ、ほろ苦さを、秋刀魚の塩焼きに例えていたと言う人がいたら、それは妥当な解釈でしょう。

でも、私はもう一つ、目に浮かんだのです。

先日、映画「バトルシップ」を観ました。

これは地球を侵略しようとする宇宙人たちの巨大戦艦を、退役した古い米戦艦が迎え撃つ、ちょっと宇宙戦艦ヤマトか、と思わせるような話でした。

あのとき出陣する、空から俯瞰した古い戦艦の形は、秋刀魚の形にも似ていました。

敵艦の異形が際立っていましたから、よけいに、そう思ったのかもしれませんが。

ちょっとスリムですが、秋刀魚って、刀って書くぐらい、メタル感があるでしょ、だから、陰の理由として、それもあるのかもしれない。

でも、映画「秋刀魚の味」も兄弟の哀しみはスルーしていますね。

何かに焦点を当てるのがドラマなので、別にスルーでも、それは、それで、良いのですが、その哀しみが存在していないのごとく、映画になった事例は少なそう。そこが哀しいですね。

兄弟は他人の始まりとか言いますが、結婚のとき、間が悪いと、捨てられるみたいに置いてきぼりにされる兄弟姉妹の心情が、もしかしたら「兄弟は他人の始まり」の、種のひとつになっていたのかもしれないのに…。

詳しくは映画「恋するマドリ」に書きましたので、そちらをお読み下さい。

それから、この作品は、なによりカラーなので観やすかった。

今さらですが、小津さんの映画は、舞台を見ている様な感じです。また、道を歩く人たちの歩き方も、まるでファッションショーの花道を歩くモデルさんみたいに姿勢が良い。今の感覚からは、笑えそうなほど。

でも、ときどき映る街並みは、胸をしめつけられるほど懐かしかった。

あの当時の空の色、光の色は、今とは微妙に違っていて、セピア色ならぬ、セツナ色だった記憶ですが、映画の中にはそれがあり、なにか古い傷口に触れられたような気がしました。

★★★★

追記 ( 国旗みたいな )
2018/3/24 10:23 by さくらんぼ

>平山は、幹部軍人として、戦争に負けて悔しい(寂しい)と思っているに違いないのですが、同時に、戦争に負けて、平和な新時代が到来して良かったとも思っているのです。
>その相反する気持ちの中に、どうしようもなく漂っている。

劇中、歓楽街の洒落た看板が映ります。

私は夜の歓楽街を歩いたことは、ほとんどありません。お酒は毎日のように家で晩酌してますが。そのせいもあって、現実に、あんな看板があるのかは知りませんが、どうも、現実を越え、美的に創作された映像のように思います。

もしかしたら、あれは国旗をモチーフにしたものかもしれませんね。手前の、中心に「心」と書かれたものは「日本」、後ろの「A」が目立つものはACE「米国」です。

BARは居酒屋と違い、たぶん西洋文化ですから、終戦直後の、「喜びと哀しみが混在しているこの映画の世界観」を、表現していたのかもしれませんね。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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