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#ネタバレ 映画「汚れなき悪戯」(1955年)

( これから新しい映画レビューも書きますが、私の旧居の映画レビューも、随時、再掲させていただきます(掲示板が無くなりますので)。私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

映画「汚れなき悪戯」(1955年)
庶民
2003/7/20 9:55 by 未登録ユーザ さくらんぼ

子供は僧院の前に捨てられていた。だれか母親がそうしたのだろう、僧院なら無慈悲なことはしないだろうと。そして母親の期待どおり僧院の人々は子を可愛がり、やがて、やんちゃ盛りの少年に育った。

ある日のこと、少年は日頃から入る事を禁じられていた階上の物置部屋に探検に出かけた。恐る恐る階段を上り、部屋のドアを開ける・・・物置部屋は忘れかけていた心の世界を表し、階段を上がる事はそこに向かって進んでいく意思の表現だと思う。

さて、ドアを開けると、部屋の中には沢山のガラクタに混じり、壁際にキリストの十字架像が、ほこりにまみれて置いてあった。最初は驚いて部屋を飛び出る少年だったが、やがて戻ってきて、ひとり言でキリスト像に話しかけたり、食べ物を盗んできて食べさせようとするまでになる。少年はキリスト像が生きていると信じているかの様だった。

少年は孤独だった。僧院の人々は親切に面倒を見てくれるが、やはり親のいない孤独を味わっていたのである。その心が、同じように物置小屋でぽつんと忘れられ、放置されていたキリスト像に引き寄せられたのだ。

たとえ僧院で生活していても、まだ幼い少年はキリスト教の教義などほとんど知らないだろう。キリスト像の意味さえ知っていたかどうかも分からない。いや逆に基本的なことだけを教えられ、それだけを素直に信じていたのかもしれない。いずれにしても、この時少年はキリスト像と心の交流ができると感じていた。そして、それが少年自身の心も癒すことを無意識にも知った。そこにいると癒されるから、たとえ禁じられていても少年はそれから通うようになるのである。

やがて・・・奇跡が少年の上に訪れる。
ドアの隙間からその瞬間を目撃し、腰を抜かして驚き、あわてて祈る僧院の人たち・・・

この映画は「信仰」について教えてくれるようだ。

少年がもっとも純粋な信者であると映画は語るのか。彼の心には信仰への疑念は無い。いや、純粋すぎて信仰という意識すらないだろう。彼は像の前で癒される事をただ感じていた。神学者ではない庶民には、癒しこそが最高に望んでいる信仰からの賜物のはずだ。

また信仰と、深く教義を学ぶことや神学論争とは、別の問題だということも語っているのか。奇跡は専門家である僧院の人の前ではなく、無教養な少年の上に起きたのである。

そして信仰は、時にその人のプライベートな事柄と密接に結びついていることも教えてくれる。少年は捨て子だった。だから、それはとてもデリケートな扱いを必要とする。

そんな事を少しだけ考えさせてくれた、優しさにあふれる名作である。観賞は最初はリメイクではなくオリジナルをお勧めする。

追記Ⅱ ( 「銀河鉄道999」 ) ネタバレ
2016/10/27 7:33 by さくらんぼ

( 「銀河鉄道999」のネタバレにもふれています。)

先日の朝、ラジオをつけたら「ゴダイゴ」のヒット曲「銀河鉄道999」が流れてきました。

それを、ぼんやり聴いている内に思いだしたのですが、TVアニメで観たとき、正直に言えば、変な物語だと思ったものです。私も若かったからでしょうか。

①あれは、母を亡くして悲しんでいる少年・鉄郎が、どこか母の面影を宿した謎の美女・メーテルと出会い、二人で銀河鉄道に乗って旅する話でした。私は「メーテルは母の化身であり、ラストには母と再会する」のだと勝手に想像を楽しんでしました。

②しかしラストに母は登場せず、メーテルは言うのです。「私は何百年も生きている。死ねないのが哀しい」と。

当時の私は「①と②の整合性がない」と落胆しました。しかし今なら解る気がします。これは「生と死」を語り、鉄郎を慰める哲学的な物語であったのです。

それと同時に思いだしたのがこの映画「汚れなき悪戯」でした。

③こちらも「母を亡くして悲しむ少年」が出てきます。

④しかしイエス様は、「亡くなった母に会いたい」という少年の望みを聞き、その場で「少年を天国へ召される」のでした。

③と④の整合性は分かりやすいですね。

こんなふうに「銀河鉄道999」と「汚れなき悪戯」の結末の比較は興味深いと思いました。 

追記Ⅲ 2022.1.18 ( トンガの噴火と日本の津波警報 )

2022.1.15トンガで噴火があり、日本にも津波が起きましたが、通常の津波と異なるため、気象庁は津波警報の発表に苦慮したようです。

ふと、ここから連想したのは、「神様は本当にいるのかという学問と、庶民が信仰で癒されることは別の問題」だという話。

ならば、潮位の上昇という現実がある以上、その理由が不明でも、気象庁は津波警報システムを使ってでも、警報を出したことは正解だったのだと思います。

( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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