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#ネタバレ 映画「麥秋」

「麥秋」〈1951年〉
1951年作品
さみしい嘘
2018/3/21 16:28 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

映画の冒頭、海岸を犬が一匹、左から右へと歩いていきます。アローンな寂しい幕開け。

続いて、家の中が映りますが、二つの鳥かごに、小鳥が一匹づつ入れられています。

ボール遊びをする兄弟もいました。しかし二人とも自分のボールで一人遊び。二人でいても別々です。

弟は早く朝食を食べたいがために、「顔を洗った」と嘘をつきます。さらにお菓子を貰いたいがために、おじいちゃんを「好き」も言いました。ご丁寧に、貰った後には「嫌いだ!」とも。

「人は目的のためには嘘をつく」、そんなエピソードが目につきました。

それは、どこへ繋がっていくのか、過去には一通り観ましたが、夕食を食べながらの、ながら観でしたので、詳細を覚えていません。近日中にもう一度観たいと思います

追記 ( 終戦という時代の空気 ) 
2018/3/21 16:42 by さくらんぼ

>「人は目的のためには嘘をつく」、そんなエピソードが目につきました。
それは、どこへ繋がっていくのか、…

その前に、「どこから来たのか」を考えると、それは、映画が作られる直前にあった、「終戦という時代の空気」なのでしょう。

とくに戦前と戦後では価値観の大転換があって、子供たちは、大人への不信感をつのらせたという話をよく聞きます。そして大人も子供も、「何かが嘘だ」、そう思って生きていたのかもしれません。

追記Ⅱ ( 紀子の秘密 ) 
2018/3/22 10:22 by さくらんぼ

>「人は目的のためには嘘をつく」、そんなエピソードが目につきました。
それは、どこへ繋がっていくのか、…

もう一度観ないと良く分かりませんが …

紀子(原節子さん)は、①お見合いを断り、②古くからの知人である、兄妹のような子持ちの男と結婚します。

①の「お見合い」は、日本の古い価値観でしょう。②の「自由な選択」は、新しい価値観だと思います。記号化された。

「戦後、強くなったのは女性と靴下」とか申しますが、劇中にもそれを思わせるセリフがあり、秘書をしている紀子は誇りを持っていました。

しかし、事あるごとに「結婚はまだか」と言われ、内心あせり始めていたのです。

そんな紀子は、結婚を、周囲の言いなりではなく、「自らの意志で選択」することにしました。

だから、②に惚れたわけでもなさそうです。

映画の終盤、女友だちに誘われた紀子は、恥ずべき行為だと思われやしないかと心配しながらも、お見合いをする予定だった相手を密かに覗きに行きます。ゴルフ場で写した写真では顔が良く分からなかったですし。

ここで初めて正式のお見合い写真を見たというか、実物を見ることになるのですが、その時の紀子の感想は描かれていません。

しかし、その後の映画が、何となく寂し気なトーンになるのはなぜでしょう。

私は、お見合いする予定だった相手に一目惚れしたからだと思います。世の中、新しい価値観が100点満点とは限らないし、古い価値観が0点でもないのです。紀子はその中に放り込まれた。

古い価値観に未練を残しつつ、新しい価値観の中を進むしかない紀子。それは当時の日本人の心の中にあった葛藤なのでしょう。

実りの秋は、風立ちぬの秋でもあります。その寂しさは、「金襴緞子の 帯しめながら 花嫁御寮は なぜ泣くのだろ…」(蕗谷虹児 「花嫁人形」)の世界観にもふさわしい。

追記Ⅲ ( 孫と紀子 ) 
2018/3/22 15:22 by さくらんぼ

>映画の終盤、女友だちに誘われた紀子は、恥ずべき行為だと思われやしないかと心配しながらも、お見合いをする予定だった相手を密かに覗きに行きます。ゴルフ場で写した写真では顔が良く分からなかったですし。

>しかし、その後の映画が、何となく寂し気なトーンになるのはなぜでしょう。

>私は、お見合いする予定だった相手に一目惚れしたからだと思います。… (追記Ⅱより)

前半、少し認知症気味のおじいさんと、そのおじいさんを嫌い、小ばかにして、からかう孫たちが出てきます。

過去に生きているおじいさんは古い価値観、学校で学んでいる孫たちは新しい価値観の記号でしょう。

だから、孫たちがおじいさんを小ばかにする設定になっているのだと思われます。

ある日、孫がおじいさんにキャラメルを一粒渡すと、おじいさんは包み紙ごとムシャムシャ食べてしまいました。予想外の展開に驚いて言葉を失う孫たち。

これは、後半に出てくる、紀子のエピソードへの伏線の可能性があります。

紀子もいたずら心でお見合いをする相手を覗いただけなのですが、思いがけない事になり、意気消沈してしまうのですから。

追記Ⅳ ( 紀子とは日本人の心象風景 ) 
2018/3/22 21:29 by さくらんぼ

>過去に生きているおじいさんは古い価値観、学校で学んでいる孫たちは新しい価値観の記号でしょう。

>古い価値観に未練を残しつつ、新しい価値観の中を進むしかない紀子。それは当時の日本人の心の中にあった葛藤なのでしょう。

紀子とは、新・旧の価値観の中で揺れる、多くの日本人を記号化したものでしょう。紀子の旅立ちを祝うこの映画は、そんな日本人に対するエールなのだと思います。

ちなみに、東日本大震災から7年の今年は、被災された方々へのエールとして、映画「嘘を愛する女」が生まれました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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