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#ネタバレ 映画「北のカナリアたち」

「北のカナリアたち」
人生にもある宿題
2012-12-24 18:08byさくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

東京で図書館司書として暮らすはるが定年を迎えました。

多くの人にとっては、定年になって、半生を振り返ってみると、長かった数十年など、まるで一夜の夢の如し、に思えるのだと思います。

たくさんの喜怒哀楽があったはずなのに、ワープでもしたかのように、大した記憶もなく過ぎ去っていて、その膨大な空白に、ただ、ただ、オロオロするばかり。

しかし退職記念旅行で、のんびりと温泉でも楽しみ、そして帰路につく頃にもなると、無事に定年まで過ごさせてもらった同僚や家族への感謝とともに、いくつかは、心に突き刺さった棘の様な、遠くとも忘れられない想い出があることにも気がつくのです。

定年になったら、もう会社の会いたくも無い人に、無理に会う必要はありません。

でも、なかには、大切な友人や、ひそかに慕っていた人だったのに、ささいなボタンの掛け違いや、言葉足らずの誤解などで疎遠になってしまった人もいるでしょう。

それなのに、仕事や私生活の忙しさにかまけて修復もできないまま年月だけがすぎ、気がついたら定年になってしまっていた人もいるはずですから、この機会に関係の修復をさぐるのは、双方にとってメリットのある事かもしれません。

宿題は学生時代だけのものではありません。人生の宿題、もあるのです。

もし退職者から連絡をもらった人は、退職者にとっての、人生のVIP、である可能性が高いのです。だから「久しぶりに、お茶でもどう」などと、もし、そんな気軽さを装った連絡をもらったら「いまごろ何の用だ」などと、あまり邪険にしないでください。本当は、ある意味、退職という辞世の句、かもしれないのです。

ところで、映画のはるにも、礼文島時代には、心に深く突き刺さった想い出がありました。

刑事が尋ねてきた事ではるは動き始めましたが、かりに刑事が来なくとも、草津温泉で静養後には、一度は礼文島を訪ね、教え子の何人かにでも再会をしたことでしょう。

それで、もし、なにも解決しなかったとしても、そうしなくては第二の人生に踏み出せないのだと察します。それがはるの宿題だったのですから。

この映画も、いろいろな角度から味わう事が出来る、詰め込まれたシナリオを持っている思いますが、私はまずは「宿題」というキーワードが読み取れました。

信人だけでなく、登場人物の多くが、心に過去の宿題を抱えて生きています。多くが人間関係に係わるものでしょう。もし、この映画のように皆が率直に語り合う事ができれば、とかく成功者の自慢話の場所と化しやすく、そうでないものには敷居が高いクラス会なども、また違った役目を果たす事が出来るのだと思います。それも大切なクラス会の役目なのかもしれません。

映画は、中だるみを感じましたが、油断していたら、最後には不意打ちの号泣をさせてくれましたので、チップとして★をオマケさせてもらいます。

この映画は、団塊の世代あたりの人たち、つまりサユリストたちへの祝定年プレゼントとして、「あなたの宿題はなんですか」と、優しく小百合先生が語りかけたものだったのかもしれません。

★★★★


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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