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#ネタバレ 映画「ペパーミント・キャンディー」

「ペパーミント・キャンディー」
1999年作品
たすけてあげたい
2015/11/23 6:59 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

心に傷を負った男の物語など掃いて捨てるほどあります。

しかし、これほどの痛みを感じさせる映画を他に知りません。

ドラマは時間を逆行して、まるで推理小説のように、男を苦しめた事件に近づいて行きます。

この映画を作った韓国の健全さに敬意を表し(軍隊教育の批判に)、映画人の才能には拍手を贈りたいですね。

映画を見て、もしも心にかすり傷を負ってしまった人は、同じ韓国映画の「美術館の隣の動物園」を観るのが良いですよ。

きっと心を癒してくれます。

ところで、この映画の主人公の苦しみが理解できない人も多いでしょう。「よくわからん!」と言う人はある意味健全です。

私はメンタルの専門家ではありませんので、あくまでも、素人の戯言、素人の映画解釈として読んでほしいのですが。

私が思うに…

あれは「五つの傷」リズ・ブルボー(著)に書かれている「拒絶による傷」のために、「逃避する人」の仮面をかぶった人の苦しみにも似ていると思います。

主人公のヨンホは、20歳の頃、柔和な好青年で、写真家になりたいという夢を持っていました。映画の中にも、穏やかで幸せそうな若き日のヨンホが出てきます。

やがて、そんな彼も軍隊に入り、軍人教育の中で、あるいは軍隊のイジメの中で、芸術家の繊細な神経を破壊されていったのです。繊細な神経では生きられない軍隊は、「ヨンホの個性が拒絶される」世界になるのだと思います。

もちろん、心の傷にもいろいろなレベルがあり、同じ「拒絶による傷」の場合でも、傷が浅い場合は日常生活には差支えがありません。でも、この映画では、不幸にも深すぎた場合を描いているようです。このレベルではもはや医師による治療が必要になると思います。

でも、彼はそれを受けていないですし、自己分析をするゆとりもないので、自分が何で苦しいのかもわからず、ただ、ただ、のたうち回って苦しんでいたのだと思います。やがて、それは周りの人をも巻き込み、不幸を増やしていきました。

ちなみに「五つの傷」に書かれている話は、「誰かさんのことで、自分には関係ない」と思っておられる方が大多数だと思います。

でも著書の中で、メンタルの専門家であるリズ・ブルボーさんご自身の子どもさんにも、「心の傷」があったと話しておられるように、およそ誰の心にも、ひとつ、ないしは複数の「心の傷」があると思った方が良いのです。自己分析では、私にも2~3つの浅い傷がありそうです。純粋培養に成功した子どもなんて、まずいないのです。

ただ皆さんの傷も浅いので、それを自覚しないか、自覚しても「単なる個性」だと誤解しておられる場合がほとんどなのだと思います。

★★★★☆

( これは2001/2/5 by まちのひ「さくらんぼの旧H.N」のレビューを 加筆再掲したものです。)

追記 ( 心の傷は、繰り返し語ることで癒される )
2015/11/23 8:57 by さくらんぼ

よく映画などで、心に傷を負った人たちが集まり、輪になって、1人づつ自分の体験談を語りあうシーンが出てきます。

私にはその経験がありませんが、直感的に、基本的には、あれは良い行為だと思います。

あの会では、1人が語っている時には、他の者は静かに傾聴します。そして否定的な意見を言ってはなりません。受け入れて、慰めるのです。

そんな場所はリアルでは他にほとんど見当たりませんからね。親友だと思って、安心してつい話してしまうと、逆に説教や、求めてもいない意見をされたりして、あげくの果てに、めんどうな奴だとして、捨てられたりもします。

でも、あの会なら大丈夫そうです。あの会で、胸のうちを、何回も、何回も、吐き出すことで、誰かに聴いてもらうことで、だんだんと、人は癒されていくのです。

吐き出すものがまだ残っている人に、口を閉ざさせる言動をしてはなりません。それは医療に逆行する行為だと思います。それは「まだ頑張る力のない人に、「ガンバレ!」と腕をひっぱるにに等しい、無節操な言動」です。

そもそも、吐き出すことができるのは、回復期にある証拠だと思います。「吐き出すことは幸先が良い」のです。ほんとうに深刻な事態の時は、吐き出すこともできない。何を吐き出すべきかも自覚できない。映画「ペパーミント・キャンディー」のヨンホみたいに。

そうやって苦しみを何度も何度も吐き出して、もう吐き出すものが無くなった時、人は癒されたのです。それ以後は、もう苦しみを口にすることも少なくなるのでしょう。ほかっておいても、自分でおもしろい未来を探し始めるでしょう。

私が映画などを題材にして、この様な話をくりかえし書いているのも、ある意味、あの語りと同じなのです。いえ、私だけでなく皆そうでしょう。自分の琴線(それが心の傷の場合もある)に触れる作品を求め、そして、それをレビューに書くのです。

追記Ⅱ ( 映画「たそがれ清兵衛」 ) 
2018/9/13 22:25 by さくらんぼ

映画「たそがれ清兵衛」の後半に生まれた清兵衛の苦しみは、あちらでは詳しく語られていませんが、この映画「ペパーミント・キャンディー」を観ると、良く分かる気がするのです。

追記Ⅲ ( 新緑の季節に )
2019/5/17 9:57 by さくらんぼ

在職中の私を天気に例えれば、「夕立前の、今にも降りだしそうな黒雲」でした。爽やかな五月のある日、信号待ちで青空を見上げた瞬間、そんなコントラストに気がついたのです。

リタイアしてからは少し楽になりましたが、しばらく、それは続きました。つい数年前まで。

でも、数日前にふと気がつくと、黒雲は消えていたのです。

時はやはり五月。今私の心は、五月の空に同化したように、青空になりました(もしかしたら薄曇りかもしれませんが)。

のんびりすれば、ある程度、自然に人の心は癒えるのですね。

追記Ⅳ ( 映画「ディア・ハンター」 ) 
2019/5/18 18:07 by さくらんぼ

映画「ディア・ハンター」のポスターに「ロシアンルーレット」の写真が載っているものがありますが、映画「ペパーミント・キャンディ」にも、似た構図の写真が載っているのです。

前者はTVか何かで断片的に観た記憶しかなく(長時間なので映画館へは…)、後者は映画館で観ましたが詳細は忘れています。

ですから、両者を比較して語ることは出来ませんが、少なくとも「戦争のトラウマに苦しむ兵士が出てくる」ところは同じですし、もしかしたら、映画「ペパーミント・キャンディ」は、映画「ディア・ハンター」への、オマージュだった可能性があるのかもしれませんね。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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