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#ネタバレ 映画「たそがれ清兵衛」

「たそがれ清兵衛」
2002年作品

2018/9/13 9:06 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

剣の達人である清兵衛が、なぜそれを隠して黙々と事務職についていたかは、映画ではあまり直接的には描かれていない。

ただ節々で、「剣術は得意だが、人殺しは嫌いだ」と描かれていたようには見えた。現代の武術とは違い、当時は実戦のために使われることもあったはず。だから彼は苦しんだ末に剣を捨てたのだろうか。

夢につまずいた清兵衛は、人生にもつまずいた男だ。

彼は世間も一緒に捨てた。

同僚と付き合いが悪い理由には、そんな気持もあると思う。身だしなみが悪いのも、それである。そして、彼は子供のために銭を稼ぐだけの生き方を始めた。

一方、清兵衛と戦うことになる侍も又、人生につまずいた男だ。彼は「心」の暗喩である「部屋」で清兵衛に酒を出し、しばし哀しい本音を語るのである。そこが「薄暗い」のも、そのように考えると意味が理解できる。しかし、この対戦は剣を捨てた清兵衛にとっても、なんと哀しい宿命なのだろうか。

ところで、清兵衛の妻になる朋江(宮沢りえさん)も又、当時の女性としては、離縁しただけでなく、進歩的な考えを持つ女性であるため、人生につまずいていたと言える。

そして、清兵衛の次女もそうであるはずだ。映画の中で一ヶ所、次女が誰かに何かを指示されて「いやっ!」と拒否するシーンが唐突に挿入される。このシーンは彼女がこれから過ごすであろう人生の、極度に要約された暗示であると思う。

また彼女は、映画のナレーションを担当し、最後の墓参りにも登場する。何か哀しい人生を歩んだ彼女が、しみじみと似た物同士であった父の人生を理解し、回想する姿であろうか。

そして、これらの人々は皆、あの人にどこか似ている、はみ出し者であるがために、主流派にはなれなかったた哀しみを、心に深くたたえた人…監督の心の中にはやはり彼がいるのだろう。寅さんである。

( これは、2003/2/8 11:36 byさくらんぼ の加筆再掲です。)

追記 ( 反戦映画 ) 
2018/9/13 9:18 by さくらんぼ

ラストあたりの清兵衛は、人を殺めたことがトラウマになり、人知れず苦しんでいるようでした。今のようにメンタルの病院もないでしょうし、そんな概念すら無かったかもしれない。だから悶々と耐えていた。

でも、朋江(宮沢りえさん)という恋女房がいたのです。

しかし両者の間には、それをケアする心の交流は無かったようですね。

人さまざまかもしれませんが、夫婦という人間関係も、時に哀しいものです。

そして3年後、戊辰戦争に出征した清兵衛は命を落としました。

映画の雰囲気では、苦しんだ末、清兵衛は「自ら死に場所を求めて出征」したように感じました。嫌々でもなく、勝つためでもなく。

今思うと、そんな映画「たそがれ清兵衛」は「反戦映画」にも見えるのです。「時代劇を舞台装置に借りた反戦映画」に

そこには、一枚の赤紙で、人生を翻弄された庶民の姿がありました。

「人を殺してこい。」

が上司の命令でした。

( チラシのキャッチコピーより )

★★★★★

追記Ⅱ ( 映画「ペパーミント・キャンディー」 ) 
2018/9/13 22:16 by さくらんぼ

朋江の離縁した夫は、酒癖が悪い上に暴力をふるう男(はみ出し者)だったようです。離縁したのもそれが原因みたい。

朋江と再婚した清兵衛が、自分の苦しみで朋江に醜態を見せなかったのは、もしかしたら、「前夫みたいに朋江の荷物になりたくなかった」からかもしれませんね。

それから、清兵衛がどれほど苦しんでいたのか、映画「たそがれ清兵衛」では、ひかえめにしか描かれていません。

でも、映画「ペパーミント・キャンディー」には、(戦争で人を殺めた)主人公の七転八倒の苦しみとして、あからさまに描かれています。

そうです。ある意味、映画「ペパーミント・キャンディー」は、兄弟のような作品だと思います。

(追記Ⅲ) 2022.2.1 ( もてなしの酒 )

>夢につまずいた清兵衛は、人生にもつまずいた男だ。
>彼は世間も一緒に捨てた。
>同僚と付き合いが悪い理由には、そんな気持もあると思う。身だしなみが悪いのも、それである。そして、彼は子供のために銭を稼ぐだけの生き方を始めた。
>一方、清兵衛と戦うことになる侍も又、人生につまずいた男だ。彼は「心」の暗喩である「部屋」で清兵衛に酒を出し、しばし哀しい本音を語るのである。そこが「薄暗い」のも、そのように考えると意味が理解できる。しかし、この対戦は剣を捨てた清兵衛にとっても、なんと哀しい宿命なのだろうか。(本文より)

自分に来た刺客しか、酒でもてなし、哀しい本音を語る相手がいないという男は、今思うと、嗚咽ものの存在だと思います。あの男、酒で酔わして勝とうという魂胆ではないと思います。

そんな淋しい存在であることを、友になれたかもしれない男だということを知ってしまってから殺めてしまう清兵衛の気持ちは、どれほどだったのでしょう。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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