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#ネタバレ 映画「あの夏、いちばん静かな海。」

「あの夏、いちばん静かな海。」
1991年作品
買い物
2003/9/13 11:04 by 未登録ユーザ さくらんぼ


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

なぜか邦画のDVDは、全体に少し高めな気がするので買うのを躊躇していた。そんな矢先、テレビで深夜に放送されたので、いざ録画しようと思ったけれど、こんどはタイマーの不調で叶わなかった。

主人公はサーフィンをしたいがサーフボードを買うお金が無い。ある日、中古雑貨店で偶然古いボードを見つける。安い! けれど、今すぐには買えない。後日、何とかお金を貯めて出直してくると、もう売れた後だった。

こうなるとマスマス欲しくなるのが人情である。さらに貯金をして、高い新品のボードを専門店で買ってしまう。

しかし、良い事もあった。これが縁で店長から大事なお得意様として、いやそれ以上に弱者に対するいたわりの気持ちとしてか、何かと面倒を見てもらえるようになる。彼は思いがけず、ボード以外のものも手に入れた。

この後、あの雑貨店で、中古ボードを買った人が、隣のビーチでぽつんとサーフィンをするシーンがある。はたして彼らは得をしたのか。その対比がおもしろい。

ずっと昔に観た映画で、ディテイルは忘れている。だから細かく語るにはもう一度観る必要がある。でも、表面的にはこのエピソードが記憶に残っていた。

当時、私も趣味の物を手に入れる時など、何とか安く手に入らぬかと、そればかり考えていた。だからこの話は、何か大切な事を教えられたようで忘れられなかった。上手く言い表せないが、「要領の良い者だけが勝つのではなく、正直者が、あるいは社会的弱者が馬鹿を見ない世界」そんな監督の優しい心を感じて私の好きな一作になった。やはりDVDを買うのが正解なのだろうね、北野さん。

追記 ( 買い物も恋も情報戦だ ) 
2014/8/12 10:50 by さくらんぼ

>しかし、良い事もあった。これが縁で店長から大事なお得意様として、いやそれ以上に弱者に対するいたわりの気持ちとしてか、何かと面倒を見てもらえるようになる。彼は思いがけず、ボード以外のものも手に入れた。(本文より)

この映画で感化されてからは、買い物をする時には、値段の安いディスカウント量販店で買うよりも、ときには少々値段が高くとも、専門店で買うことにしました。

ある日、チヤホヤしてくれるので何回も遊びに行った専門店で、意を決してウン十万円のものを買い、店員に自宅まで届けてもらいました。隣のディスカウント店では5パーセント安く売っているのを承知の上で。

でも、これで私も専門店のお得意さんになった、と喜んだのは大きな間違いでした。

それ以後は、その店に行っても店員は手のひらを返したように冷淡になったからです。たぶん店員は、プアーな私の家を見て、我々のお得意さんにはなれないと値踏みしたのでしょう。

客と店は、ある意味、バトルをしていたのでした。

それで、思い出すのは、ある女流作家のエッセイに書かれていた話です。

彼女は、ジュエリー・ショップに行くのが好きなのですが、店に行くときにはスニーカーにジーンズ、カシミヤのセーターに、金のロレックスという、金持ちなのか否か、一見では判断に迷うようなスタイルで行くのだそうです。そうすると気おくれせずに店内を見ることができ、買わずに帰るときにも、またどうぞ、と気持ちよく店員は送り出してくれるのだとか。

やはり、客と店はバトルをしていたのです。

恋愛もそうですね。

最初から、自分の欠点を見せる人は、あんまりいません。

最初は長所だけ、そして、だんだんと欠点も見せ(見つけられて)いき、自分の身内には寅さんみたいな奴がいる、なんて言う話は、たぶん一番最後になるのでしょう。

ところで、映画「あの夏、いちばん静かな海。」の主役、茂と貴子。

二人とも、ろうあ者という設定ですが、片方が、もし、演劇の練習などで、ろうあ者のふりをしていただけだとしたら…もし、そんなときに出会ったとしたら…

相手に本物のろうあ者だと思われたので、勉強を兼ねて、そして好奇心もあって、しばらく、ろうあ者のふりをしていたとしたら…

それが、だんだんと恋愛に発展していき、気がつくと、今さら本当のことを言えない状況になっていったという設定はどうでしょうか。

恋愛の種が「ろうあ者同士の孤独」である場合、一方がろうあ者でないというのは、恋愛の立て直しをする必要があるかもしれないほどの大問題のはず。

それを告白したら、その恋は終わるのか。そんなドラマがもしあったとしたら、それも興味深いと思います。そして、嘘が男の場合と、嘘が女の場合。たぶん心の軌跡が違うはず。

こんな、健常者であること、それが最大の欠点になるという話を、映画「あの夏、いちばん静かな海。」へのオマージュとして、だれか作ってくれないでしょうか。

追記Ⅱ ( なぜサーフィンなのか ) 
2014/11/5 7:40 by さくらんぼ

詳しい顛末は北野武監督の映画「座頭市」のレビューに書いたので、あちらをご覧いただきたいのですが、この映画「あの夏、いちばん静かな海。」のサーフィンも、やはりビートたけし時代に培った、武秘伝の「間」を描く為に選択されたのだと思いました。

サーフィンなんて、波のタイミングが計れな人、つまり、文字通り「間抜け」には出来ない技でしょうからね。「間」を描くにはもってこいのモチーフでしょう。

追記Ⅲ ( 映画「淵に立つ」 ) 
2016/10/30 9:33 by さくらんぼ

映画「冬の華」と映画「淵に立つ」との関係性は、ある意味、映画「あの夏、いちばん静かな海。」のレビュー本文「買い物」と、追記「買い物も恋も情報戦だ 」のようなのかもしれません。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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