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頭痛に対する鍼灸治療の効果とその作用機序


序論

鍼灸治療は2000年以上の歴史を持つ東洋医学の代表的な療法であり、日本にも古くから伝わっています。近年、頭痛への有効性が科学的に実証され、国際的にも注目を集めています。1971年の鍼麻酔の報告以降、鍼の鎮痛作用に関する基礎・臨床研究が進み、1996年にWHO、1997年にNIHが適応疾患を示しました。2018年のCochraneレビューでは、一次性頭痛をはじめとする複数の疾患に対する鍼灸治療の有効性が確認されています。本邦の診療ガイドラインでも頭痛に対する鍼灸治療が推奨されており、その作用機序の解明も進んでいます。本論文では、鍼灸治療の頭痛に対する効果とその作用機序について概説し、今後の展望を述べます。

鍼治療の作用機序: 筋肉の緊張緩和

鍼治療は頭痛の管理において重要な役割を果たしており、その作用機序の1つとして筋緊張の緩和が挙げられる。鍼刺激により、軸索反射を介してCGRP(calcitonin gene-related peptide)やsubstance Pが放出され、末梢血管の拡張と筋血流の改善が起こる。このメカニズムにより、痛みの悪循環に陥った過緊張筋の痛みが緩和される。また、鍼刺激によりATPが分解されてアデノシンが生成し、アデノシンA1受容体を介した鎮痛効果も報告されている。

頭痛の発症には、頭部よりも後頸部や肩甲上部・肩甲間部の筋群の過緊張が重要な役割を果たしている。鍼治療はこうした筋群の緊張を緩和し、循環動態を正常化することで頭痛を改善させる。この作用機序には自律神経系の調節が関与しており、筋緊張の緩和に寄与していると考えられる。頭痛の種類によって最適な刺鍼部位は異なるが、例えば片頭痛では肩甲上部の経穴を、緊張型頭痛では後頸部や肩甲上部の経穴を選択する。

以上のように、鍼治療は筋緊張を緩和することで頭痛の改善に寄与している。その機序には、神経伝達物質の動態変化、筋血流の改善、自律神経活動の調節など、様々な生理的変化が関与していると考えられる。今後さらなる研究により、鍼治療の作用機序が解明されることが期待される。

鍼治療の作用機序: アデノシンの関与と血流改善

鍼治療には局所的な鎮痛効果があり、その機序の1つとしてアデノシンの関与が報告されている。鍼刺激により、ATPが分解されてアデノシンが生成される。生成されたアデノシンは、鍼刺激部位の周辺に存在するアデノシンA1受容体に作用し、鎮痛効果をもたらす。この鎮痛効果は、アデノシン受容体阻害薬であるカフェインで拮抗されることから、アデノシンを介した作用機序であることが裏付けられている。

鍼治療には、アデノシンによる局所的な鎮痛作用だけでなく、末梢の血流改善作用もある。鍼刺激によりポリモーダル受容器が興奮すると、軸索反射を介してCGRPやsubstance Pが放出され、末梢血管が拡張する。これにより筋血流が改善または増加し、痛みの悪循環に陥った筋肉の痛みが緩和される。このように、鍼治療は神経性血管作用物質の動態変化を介して血流改善をもたらし、痛みの軽減に寄与していると考えられる。

心身の健康への影響

鍼灸治療は頭痛の改善だけでなく、心身のストレス軽減にも寄与します。頭痛は強いストレス要因となり、生活の質を著しく低下させます。しかし、鍼治療によって頭痛が緩和されると、同時にストレスも軽減されます。さらに鍼治療は自律神経の調節作用があり、過剰なストレス状態にある交感神経活動を抑制し、副交感神経活動を促進することで、心身のリラックス効果をもたらします。このようなストレス軽減と自律神経調節により、一時的な心身の癒やしだけでなく、長期的には生活の質の向上が期待できます。

実際に、6週間の鍼灸治療と運動療法を組み合わせた研究では、うつ症状や不安が改善し、QOLスコアが向上したことが報告されています。頭痛の改善に加え、心身の健康維持にも貢献する鍼灸治療は、頭痛患者のトータルケアとして有用な治療法であると言えるでしょう。長期にわたって鍼灸治療を継続することで、頭痛の再発防止や生活習慣の改善、さらには全身の調子維持にもつながります。また、鍼灸治療を西洋医学的治療と併用することで、相乗的な効果が期待できます。頭痛専門医と十分に連携を取りながら、患者一人ひとりに合わせた最適な治療プランを立てることが重要です。このように、鍼灸治療は頭痛の改善だけでなく、心身の健康回復と維持、そして生活の質の向上にも大きく貢献する伝統医療なのです。

結論

鍼灸治療は、本邦の診療ガイドラインおよび海外の研究でも、片頭痛、緊張型頭痛、薬物乱用頭痛などの一次性頭痛に対する有効性が示されています[。さらに著者らの研究では、薬物療法に反応が乏しい症例でも鍼治療が高い効果を示すことから、現代医療における鍼灸治療の重要性が示唆されています。

その作用機序に関しては、筋緊張の緩和、血流改善、アデノシンA1受容体を介した鎮痛作用など、様々なメカニズムが関与していることが明らかとなっています。また、鍼治療は局所反応のみならず、中枢神経系の高次機能の関与により症状改善に寄与し、継続治療で生理機能が正常化されることも分かってきました。

一方で、鍼灸治療のさらなる科学的根拠の集積と、作用機序の詳細な解明が必要とされています。今後は、頭痛専門医と十分に連携し、質の高い臨床研究を推進することが重要です。また、鍼灸と西洋医学の融合を図り、頭痛患者に満足度の高い包括的な医療を提供することが望まれます。さらに、鍼灸治療の標準化や医療への適切な位置づけなどが今後の課題となるでしょう。

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