あおざる

ショートショートを書きます

あおざる

ショートショートを書きます

最近の記事

猫になりたいサラリーマン、猫になる ☆5分で読めるショートショート

会社の帰り道によく見るのら猫はとても自由そうだ。人々の間を気ままにすり抜け、路地裏から路地裏へ移動している。エサをあげている人も見た。のら猫はやっかまれる事もなく、むしろ人々にかわいがられているようだ。俺とはえらい違い。 「猫になりたいな……」 会社からの帰り道、いつもと変わらぬのら猫のひょうひょうとした姿。それを見て思わず声が出る。今日も書類上のミスで上司に怒られた。ミスと言っても、上司に指示された通りに作成したのだ。どうやら指示が間違っていたようだが、そこはうちの上司

    • 天国への階段 ☆5分で読めるショートショート

      いつの頃からか天国への階段という都市伝説を耳にしだした。どこで誰に聞いたかも覚えていないけど、なんとなく頭の片隅で覚えていた。ある日ある時ある場所に、突然現れるその階段をあがれば天国へ行けるという話だった。天国が実際にあると言うのであれば、あがってみたい気もするが、そのまま天国へ行くのなら誰が話をひろめるのか。まぁ都市伝説とはえてしてそういうものか。 なぜその話を思い出したかと言うと、今、目の前に天国へあがるらしき階段があるからだ。ビルとビルの間、普段なら人通りの少ない道に

      • フリーダンジョン始めました ☆5分で読めるショートショート

         自宅から最寄り駅の間にはちょっとした繁華街がある。飲み屋が多く、寄り道するには事欠かない場所だ。ただし地方がゆえに客数が限られており、店の入れ替わりは激しい。帰宅途中に見付けた店も、以前は飲み屋が入っていたビルの地下一階だ。 「フリーダンジョン始めました」  ビルの前に置いてある立て看板には、白地に大きな手書き文字と地下一階との表記のみで、店名は記されていなかった。フリーダンジョンとはなんだろう?看板の文字に興味をひかれて立ち止まってしまう。地下への階段をのぞいてみるも

        • ゆうりょう通信販売 ☆3分で読めるショートショート

           休みの日の朝はベッドから起き上がれない。ついゴロゴロしてしまう。スマホのバッテリー残量があるうちは起き上がる必要がないのだ。今朝もゴロゴロしながら特に見るものがないSNSをずっと眺めつづけている。無益なことをしているなと思いつつ、この時間こそが人生の余裕なのだと思い込む。SNS上では朝早くから活動している人も見かけられる、羨ましい限りだ。ボーッとスマホの画面を見ていると通信販売の広告のうたい文句が目に入った。 「当サイトは商品無料ですか……えっ商品無料⁈」  広告を見る

        猫になりたいサラリーマン、猫になる ☆5分で読めるショートショート

          生き返りの薬 ☆2分で読めるショートショート

           科学の発展は世の中をどんどん便利にしていった。ついには死んでも生き返らせる薬を作りだした。最初にその薬が発表された時の反響はすさまじく、科学の発展を喜ぶ者、神への冒涜だと嘆く者、利権を得ようと画策する者、大混乱になった。作りだしたのは98歳の博士。生き返りの薬など馬鹿馬鹿しいと周りからさげすまれ研究所から追い出されても、こつこつと研究を積み重ねてとうとう1人で薬を作りあげた天才であった。今までさげすまれていた博士は、ここぞとばかりに薬を作りだした事を触れ回った。研究所で作っ

          生き返りの薬 ☆2分で読めるショートショート

          伝説の剣を引き抜けるのは勇者のみ ☆5分で読めるショートショート

           先代の国王から秘密裏に任を与えられて、もう半世紀。わしはこの聖なる山にて、ずっと一人で任を担いながら暮らしている。主な日課は薬草の採取だ。時折り食料を届けにきてくれるふもとの村人達に、お代がわりに薬草を渡している。神の御加護があるこの聖なる山では、魔物もいないし、山賊達も近寄らない。心穏やかにその日その日を暮らしている。もちろん有事の際は、ぬかりなく任に努めるのだ。この前聞いた村人の話では、隣国に魔王軍の襲撃があったそうだ。この国もいつ襲撃されるかわからない。そろそろわしの

          伝説の剣を引き抜けるのは勇者のみ ☆5分で読めるショートショート

          世界の危機と女子校生の危機と ☆3分で読めるショートショート

           私は困っていた。わけわかんないやつに閉じ込められて、よくわかんないことをずっと言われ続けている。目の前に立っている銀色に光るやつと、ドアも窓もない部屋に二人っきり。帰りたいと言ってるのに、全然取り合ってくれない。昨日の夜に着替えたパジャマを着てるのに、ベッドもないし、枕元に置いていたスマホもない。そもそもココはどこなの。誘拐?拉致?わかんない。目の前の銀色に光るやつは、人の輪郭をしているのはなんとなく分かるけど、顔はぼんやりと光っていて男なのか女のかさえわかんない。声もおじ

          世界の危機と女子校生の危機と ☆3分で読めるショートショート

          男が目覚めるとそこは無人島だった ☆1分で読めるショートショート

           男が目覚めるとそこは無人島だった。男はなぜ無人島だと思ったか。男の倒れている海岸から、反対側の海岸が見え、島の中心にヤシの木が1本生えているのみだからだ。誰もが子供の頃によく想像する無人島だ。男は砂浜に倒れている理由が思い出せなかった。たまの休みを有効に使おうと、船で沖釣りに行ったことは覚えている。船が転覆したのか、はたまた自分が海に落ちたのか。きっと前者だろうと男は思う。もし落ちたのならば、船長が助けてくれるはずだ。改めて周りを見渡してみる。島からは水平線しか見えず、近く

          男が目覚めるとそこは無人島だった ☆1分で読めるショートショート

          砂漠の樹はなぜ枯れないのか ☆1分で読めるショートショート

           砂漠に一本の樹があった。大樹と言っても過言ではないその樹は、砂漠の中にぽつんと、だが雄々しくそびえていた。樹は巨大ゆえに、砂漠を行き交うものたちの目印となっていた。そして全てのものたちの憩いの場であった。太い幹は砂嵐にも耐え、葉は生い茂り、枝を広く伸ばして、その下に休むものを太陽の日差しから守っていた。水場こそないが、広がった枝の下にいると、暑さが和らぐ気がした。  ある時、砂漠を渡っていた行商人が砂嵐にあい、命からがらその樹の下にたどり着いた。一緒にいた者たちは散りぢり

          砂漠の樹はなぜ枯れないのか ☆1分で読めるショートショート

          楽しい散歩の時間 ☆1分で読めるショートショート

           午前8時過ぎ、そいつはいつも朝の散歩をねだってくる。俺は眠い目を無理に開けて、そいつのおねだりに応えてやる。今日はどこに行こうかとでも言うように、そいつははしゃいでやがる。首にリードをつけ、玄関を出る。春がもう近いとはいえ、朝はまだ肌寒い。道行くやつらも少しばかり早足だ。元気な小学生が後ろから走り抜けていく。俺も若い頃は走り回っていた。今はこうして朝の散歩をするのも億劫だ。俺を散歩に連れ出したそいつは軽快なステップでリードを引いてやがる。おおかた、キョロキョロとメスでも探し

          楽しい散歩の時間 ☆1分で読めるショートショート

          放課後、体育館裏で ☆5分で読めるショートショート

           放課後の学校の体育館裏、僕の心臓は早鐘のように鳴っている。早鐘なんて聞いたことないけど、きっと僕の心臓と同じ音だろう。ポケットからスマホを出して、ここに来てから何十回目かの時刻確認。デジタルの表示はちっとも変わっていない。落ち着け、落ち着け、落ち着け。何度も呟いては、喉の渇きを感じてしまう。あぁもう帰ってしまおうか、いやそんな訳にはいかない。夢にまで見たシチュエーションだ。  放課後の体育館裏、女の子に呼び出されるなんて。  今日は朝からなんだか調子が良かったんだ。登校時

          放課後、体育館裏で ☆5分で読めるショートショート

          黒い洞窟 ☆3分で読めるショートショート

           男は目覚めてから延々と歩いていた。目覚めてからいくらの時間が経ったであろう。1時間か2時間か、それよりももっとか分からない。なにせスマホどころか腕時計も無い。何故無いのか分からないし、そもそもここがどこだか分からない。気付いた時には、暗く明かりのない洞窟のような場所で倒れていたのだ。  自分の手足も見えないほどに暗いが、何故か壁は黒く輪郭が見える。壁自体が黒く光っているのか、洞窟のような場所だということは分かる。すべすべした岩肌に、ひと2人がすれ違えるほどの幅。高さは

          黒い洞窟 ☆3分で読めるショートショート