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【TENET テネット考察】お守りの男は本当に死んでしまったのか?

 テネットの終盤で主人公とアイヴス隊長が爆心地に向かうと、アルゴリズムはセイターの手下・ボルコフと共に鍵のかかった扉の向こうにあった。このまま爆発が起きてしまえばアルゴリズムは回収不可能となりスタルスク12に封印される。それを未来人が起動してしまえば現代人は窒息死してみなお陀仏だ。

 この窮地を救ったのが"お守りの男"である。扉の向こうに倒れていたリュックに5円玉のようなコインのお守りを付けている男が鍵を開けてくれたのだ。そうして主人公はアルゴリズムを確保でき、地上にいたニールに引っ張り上げられ、爆心地からの脱出を果たした。世界は救われたのである。そして主人公は鍵を開けたお守りの男がニールであることに気付く。今からニールは再び逆行し、地下に向かい鍵を開けるのだ。そしてボルコフに撃たれ、斃れることになる。「起きることは起きる。」これから死ぬことが分かっている相棒を主人公はただ見送るしかなかった……。

 この主人公とニールの「美しい友情の終わり」に胸を打たれた人は多かったのではないだろうか。筆者は会心の一撃を食らった。ニールはいつ自分がスタルスク12で死ぬことを予期したのだろう。主人公になら殺されるなら良いかな、と答えた中盤のニールはすでに主人公=ボスのために身を捧げることを知りながら共に過ごす日々を噛み締めていたのだろうか。主人公との初対面でダイエットコークを頼んだ彼の心境は? こういったことを考えると泣きそうになる。筆者はこういった切ないストーリーに弱いのである。

 しかし筆者はウルトラご都合主義ハッピーエンドも好きだった。二次創作で生存IFとかすぐ妄想するタイプである。

 ということでこの記事は「ニールが生存している可能性はあり得るか?」を考察した結果を書いたものである。色々考えていたらテネットの矛盾のある個所を発見し、その解釈により可能性を見出した。それについてぜひテネッターに考えていただきたいと思ったので公開する。筆者は物理学を専攻しているわけでもなく、テネットを3回観ただけである。長々とした文でわかりづらいとも思う。それでも良ければ付き合って欲しい。

1. お守りの男の動きについて

 まず主人公(順行)視点から見て、逆行していたお守りの男は以下のように動いている。

 死んで倒れている→いきなり起き上がる→撃たれる→鍵を開ける→トンネルの外に出ていく

 つまりお守りの男は撃たれた時点の未来では生きており、過去では死んでいる。地下にあった死体は過去に向かって朽ちていっているのだ。過去に戻って順行視点で見ると腐った死体が徐々に血を巡らせ、生き返ることになるのだろう。

(余談だが、トンネルから出て行った逆行のお守りの男は回転ドアに入る。そのとき同時にニールが過去に向かうために回転ドアに入っている。これはパンフレットでいうところの"対消滅"であり、これ以降の未来にはニールは存在しなくなるのだ。スタルスク12を経験したニールはあの世界の未来から失われ、死体すら残らない。)

 この流れは果たして正しいのだろうか? 実は「逆行している人間が順行の物質に傷付けられた」例が作中に他にも登場している。それはオスロのフリーポートで過去の自分に腕を刺された主人公である。このときの動きを整理してお守りの男の場合と比較してみよう。


2. 逆行している人間が順行の物質に傷付けられたらどうなるのか?

「逆行している人間(主人公)が順行の物質(過去の主人公のペン)に傷付けられた」場合の流れを以下に示す。

◆フリーポートの主人公<逆行視点>
↑未来 ↓過去
⓪逆行する
①コンテナでオスロの空港に向かう
②腕に痛みを感じる (傷口が開いてきてる)
③傷が完全に開いて血が滴る (防護服にも穴が開いている)
④過去の主人公にペンで腕を刺される (★順行の物質に傷付けられる)
(⑤腕の傷が塞がる)
⑥回転ドアで順行に戻る

 ⑤は確かではないが、順行の主人公から見て逆行の主人公は刺すまで怪我をしていなかったと思われる。とすると順行の物質に傷を付けられた逆行の人間や服などのモノは過去に向かえば傷が治るのではないだろうか。
 とするとお守りの男の動きは以下のような流れになることになる。

◆地下のお守りの男<逆行視点>
↑未来 ↓過去
⓪逆行する
①トンネルに入る
②鍵を開ける
③頭蓋とヘルメットに穴が開く
④撃たれる (★順行の物質に傷付けられる)
⑤頭蓋とヘルメットの穴が塞がる
⑥倒れる

 これは不思議なことになった。まず③の段階でお守りの男は ”一時的に死んでいる” ことになる。そのあと⑥で倒れていたのが謎だが、撃たれた後、頭は綺麗さっぱりに治り、復活するはずである。
 フリーポートの主人公の場合と矛盾しないように考えると、お守りの男は生きているはずだ!

 が、待て待て、果たしてこの考えで合っているのだろうか? そもそも一時的に死ぬとか、刺される前から徐々に怪我をするというのはどういう状態なのだろう?

 ここで新たな思考材料を得るために、逆に「順行している人間・モノが逆行の物質に傷付けられた場合」を考えてみることにした。


3. 順行している人間が逆行の物質に傷付けられたらどうなるのか?

 「逆行の物質により傷付けられた順行の人・モノ」は作中で二種類ある。

◆パターンA (例、オペラハウスの銃痕、主人公の乗っていたBMWが逆行車にぶつかったことで割れていたサイドミラー、スタルスク12の作戦の5分目に下半分を爆破されたビル) <巡行視点>
↑過去 ↓未来
(①正常な状態で生まれる・生産される )
(②徐々に傷ができる )
③完全な傷になる
③逆行の物質に傷付けられる
④傷がなくなる
(⑤作戦5分目のビルの場合、④で下半分が元に戻るが、順行部隊により上半分を破壊される。これはパンフレットで「後にも先にもかわいそうなビル」として説明されている)

※①、②は作中では確認できないが、モノが生産されたときから傷ついていることは考えにくい。ビルを最初から倒壊した状態で作ることはできない。

◆パターンB (例、逆行セイターに腹を撃たれたキャット) <巡行視点>
↑過去 ↓未来
①正常な状態で生まれる
②逆行の物質に傷付けられる
③完全な傷になる (致命傷)

 パターンAの傷付けられたモノの場合とパターンBの傷付けられたキャット(人)の場合で、傷がなくなるか残るかの大きな違いがある。この違いがあるのはなぜだろうか?
 そもそも撃たれたキャットの解釈が異なっているのかもしれない。キャットの腹に傷が残っているのは、あのあと彼女が逆行したことが関係しているのではないかと仮定してみよう。ここで「逆行する弾丸に撃たれると大変なことになる」と始めの方の研究所でされていた説明を取り上げる。この説明は逆行弾に撃たれるとただ怪我するだけでなく、逆行の物質が人体に悪影響を与えることを言っていたのではないだろうか。つまりキャットが撃たれたときに問題だったのは銃により受けた傷ではなく、逆行のモノが体に触れたことが影響だったのだ。これは逆行性物質が出す放射線(核爆発の逆放射)のようなものを想定するとわかりやすい。 この影響を抑えて延命させるためにキャットは回転ドアを使って逆行することになったのだ。
 では撃たれたキャットの動きの流れをパターンAと矛盾しないように示してみよう。逆行放射線の影響について2パターン考えられる。


◆撃たれたキャット(パターンA-2) <順行視点>
↑過去 ↓未来
①正常な状態で生まれる
②徐々に傷ができる
③完全な傷になる
④逆行セイターにより銃で撃たれる (★逆行の物質に傷付けられる)
⑤傷がなくなる (※ただし逆行放射線を浴びたので致命傷)
⑥逆行する

<逆行視点>
↑未来 ↓過去
⑦傷口が開いてくる (※体内に残った逆行性放射線の影響)
⑧完全な傷口になる
⑨傷口と逆行性放射線を取り除く治療をする
⑩順行に戻る。逆行放射線の影響が完全に無くなり、傷が治り、痕が残る。


 もしくは

◆撃たれたキャット(パターンA-3) <順行視点>
↑過去 ↓未来
①正常な状態で生まれる
②徐々に傷ができる
③完全な傷になる
④逆行セイターにより銃で撃たれる (★逆行の物質に傷付けられる)
逆行放射線により傷が治らない (銃により傷ついた体の組織が逆行放射線により逆行の時の流れになった)
⑥逆行する

<逆行視点>
↑未来 ↓過去
⑦回転ドアで逆行したことにより、逆行性放射線の影響が弱まる。傷は開いたまま。
⑧傷口を治療する
⑨順行に戻る。逆行放射線の影響が完全に無くなり、傷が治り、痕が残る。

 このどちらかのパターンならキャットが逆行すると容体が安定してきたことが説明できるのではないだろうか。また逆行放射線は生物組織には影響が大きいので、人間の場合は問題になるとこじ付けることができる。例えば体の大部分が順行で一部が逆行になると、血の流れや細胞の働きが上手く相互作用しなくなり致命傷になるのかもしれない。

4.仮説を積み重ねる

 ここまでに「逆行の人・モノが順行の物質によって傷付けられた場合」と、「順行の人・モノが逆行の物質によって傷付けられた場合」の流れを考えた。これによって筆者が得た仮説を以下にまとめる。

<仮説>
① 逆行の人・モノが順行の物質によって傷付けられても一時的に傷付くだけで、傷付けられた瞬間には傷を受けていない状態に戻る。
② 順行のモノが逆行の物質によって傷付けられても一時的に傷付いただけで、傷付けられた瞬間には傷を受けていない状態に戻る。
③ 順行の人が逆行の物質によって傷付けられた場合、逆行放射線の影響で身体に異常が発生する。

 仮説を基にさらに推測していく。

④ 順行のモノに逆行の物質が一時的に傷をつけられるのは逆行放射線の影響。逆行放射線の影響を受け始めると徐々に傷がつき始める。
⑤ 逆行のモノや人に順行の物質が一時的に傷をつけられるのは巡行放射線(順行のモノに逆行の影響があるなら逆もあると考える)の影響。巡行放射線の影響を受け始めると徐々に傷がつき始める。
人体において順行と逆行の状態が共存する大怪我をするのは致命的である。


 以上が推測に推測を重ねて筆者が得た仮説である。重要なのは仮説⑥だ。お守りの男は逆行した状態で順行の銃弾をくらっている。ということは順行の影響(順行放射線)を受けているので、致命的になってしまうのだ。やはりお守りの男は死んでいるのだろうか!? 「こんなに長々とした文章を読んできたのにやはりニールが死んでる結末なんて耐えられないよこの野郎!!」と読者は思っているもしれない。しかし、案ずることなかれ。筆者はニール生存パターンの完璧なプランを考えた。キャット(パターンA-2)の放射線影響の考えを採用した上で、主人公にも協力を仰ぐのだ!

5.お守りの男の生存パターンを見出そう

 以下に筆者が考えたお守りの男の生存パターンを示す。

◆地下のお守りの男<逆行視点>
↑未来 ↓過去
⓪ 逆行する
① トンネルに入る
② 鍵を開ける
③ 頭蓋とヘルメットに穴が開く
④ 撃たれる (★順行の物質に傷付けられる)
⑤ 頭蓋とヘルメットの穴が塞がる (※ただし順行放射線を浴びたため致命傷
⑥ 倒れる

ここでキャットと同じように助けるのである!

⑦ 逆行してきた主人公がお守りの男をトンネルの外に出す。
⑧ 順行に戻る

<巡行視点>
↑過去 ↓未来
⑨ 順行放射線の影響で頭蓋の穴が開き出す。
⑩ ブラックジャック先生の治療かキングスマンの技術により一命を取り留める
⑪ 頭に傷痕が残るも元気に復活

 これでどうだろう。最後の⑩にいきなり天才外科医やキングスマンが出てきて無理やりすぎるって? 「人体において順行と逆行の状態が共存する大怪我をするのは致命的である」という仮定と、逆行と順行の対比を重要視し、「逆行している人間が受ける順行の影響」と「順行している人間が受ける逆行の影響」を相似させるには、このような結論になるしかなかったのである。筆者の思考の限界であった。
 しかし影響を相似させないなら別の解釈もある。逆行中は順行の物質からの影響を受けない(回転ドアの技術によって保護されている)という考え方だ。この考え方だと、お守りの男は倒れていたが実は特に致命傷でもなく気絶していただけということになる。この方が分かりやすくてハッピーな結末かもしれない。

6.おわり

 どうだっただろうか。筆者としては割りと納得いくし、主人公が治療を受けたのにいつまでも起きないニールをずっと待つ展開も考えられるので美味しいと思うのだが……。ぜひテネッターの意見を聞いてみたい。コメント・感想・ツッコミ、気軽に下さい。
 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

2020/10/15記 蒼埼 鷏




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