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カクウ ゲイマッサージ ニッキ 第2話

3月28日 -第2話

この日は土曜日で、アプリで知り合って1度だけ遊びに行ったダイちゃんとダイちゃんの友達と飲みに行く約束をしている。ダイちゃんの友達は前にあったのに、名前は忘れてしまった。

ちょっと覚えにくそうな名前のほうが覚えていて、同級生にいたような馴染みのある名前のほうが意外とでてこなかったりする。

あとちょっとで思い出しそうなんだけど、そういう時は絶対にでてこない。

そもそも、名前をきいたかどうかもわからない。でも、失礼なので、向こうから名前がでてくるのを待っていたりする。

きっと向こうもこちらの名前を忘れていると思っていると、しっかり覚えてくれていて、いよいよこれはヤバいぞと思ってしまう。

タイプの名前は覚えているのに、タイプじゃない人の名前は覚えていない。

こうして「EARLY BIRDS」でダイちゃんと名前のわからない友達と飲んでいると、その時がやってきた。

「裕太くんは、アキマサのタイプってどんなのだと思う?」

マサアキかマサユキだと思っていたからおしかった。いいとこまでいっていた。心の中で半分だけやった!と思う。

「アキマサさ〜 今度GOGOやるんだよ。この身体でっ!」

アキマサくんの身体はたしかにいい身体だけどどこか緩い。自分が言えるような身体じゃないのに、他人のときだけそう思う。もっとも自分はそんなガラじゃないから、はじめからやろうと思っていない。アキマサくん本人もちょっと緩いのはわかってて、だからジムに行ってる。鍵束にエニタイムのキーがついていて、NORTH FACE のリュックにはジム用品が入っている。本当に自信のあるGOGOはGGに通っている。一周まわってエニタイムに戻ることもある。

みんな自分の居場所をみつけている。自分の居場所はどこにあるんだろう、って考えると、きっとここも居場所の一つだけど、ここではないもっとしっくりくる場所が他にあるような気がする。

ダイちゃんは短髪でスウェットが似合う秋田男児で肌がとても綺麗だ。ダイちゃんの居場所もどこか他のところにあって、自分たちは、その居場所が今日はいっぱいか、失ってまだ見つかっていない時だけ、こうしてお互いに会ってなぐさめあってる。

帰りの電車の中で、自分の居場所を探そうと思って、スマホを見ながらバイトを探していた。いくつかの停車駅で人が降りたり、乗ったりした。各駅停車だったので1時間くらいかかった。その間、ゲイマッサージの応募欄を閉じたり開いたりした。

駅からの帰り道、コンビニでお金をおろした。コーンパンと牛乳も買った。コーンパンは小さな幸せをくれる。今日の店員はイケてるナカムラくんではなかった。タイプだから名前を覚えている。なんだったら下の名前までフルネームで覚えてしまう。部屋の鍵をあけると、まだ引っ越して間もない、見慣れていないけど安心できる空間があった。どこかよそよそしい、でも親戚のおっさんと似てる人みたいな感じ。そう考えると、この部屋がおっさんに思えてきて、小さな幸せを浸食されそうだったので、ナカムラくんのことを考えた。

荷物を置いて、シャワーを浴びる。冷蔵庫からさっきの牛乳とコーンパンをだして食べる。お酒を飲んだ後のコーンパンはおいしい。自分はゲイマッサージの画面を開いて、応募の送信ボタンを押した。

押してから、応募する前に予約をしてみたらよかったな、と思った。

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