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文学フリマ東京38を終えて

5月19日(日)開催の文学フリマ東京38。
『日本現代うつわ論』を携え、ゆめしか出版として参加してきました。
初回参加は2021年の11月。それ以降は仕事の日程調整がうまくいかず、出展はしていても他のメンバーにお任せで会場には行けない日々が続いていましたがやっと参加できました。
今回は大槻香奈さんと二人で売り子(この「売り子」って表現を自分のようなおじさんに使うのは抵抗がある)をしていました。

『日本現代うつわ論』を作り始めたのが2021年の5月で、そこから3年経った今回、蒔いた種が実を結んだり、思いもよらぬところに根が伸びていたり、意外なところで芽吹いているような手応えを強く感じることができました。
日本に生きる我々の感受性や芸術表現における言語化しにくい領域を「うつわ」というキーワードを設定することによってその輪郭や中身の形を捉えていくこの試み。面白がってくださる方々、すでに楽しんでくださっている方々、そして新たに興味を示してくれる方々に出会えることは大きな喜びです。
オンラインで購入していただいた方が、続きを買いに来てくださる機会もありました。ネットで見てずっと気になっていた、という声もありました。
先日の白白庵での大槻香奈個展『死んじゃいけない星』からの流れでお求めくださる方もいらっしゃいました。Art Complex Centerでの大槻さんキュレーション展からの認知もありました。
この三年、そして今年に入ってからの様々な取り組みから繋がって、また未来の可能性を掴めるような感触を味わえたことは数字には置き換えることのできない嬉しさでした。

しかも『日本現代うつわ論3』は持込み分完売。最高。

毎回持ち込んでいた大槻さん手書き完売札。
ついに。

個人的には『死んじゃいけない星』以降の奇跡的な流れを、自分の37歳の誕生日にこんな形でまとめて、さらには未来への希望までも抱かせてもらえるとは自分はなんと幸せな人間なんだ、と噛み締めてました。36歳怒涛のフィナーレから37歳希望の幕開け。第九の最後みたいな一ヶ月でした。
本当にありがとうございます。

それにしても、今回から入場料¥1,000になったのに来場者数は過去最大だっそうですね。不思議。書店はどんどん減っているのに、¥1,000払って本を買いにくる方々がたくさんいることは、出店しておいて言うのもあれですけど本当に不思議です。
僕は出版業界に関しては全くの素人ですし、業界全体とか産業構造そのものに対する知識も意見もないのですが。
しかし日本におけるクリエイティブのマーケットにおける傾向としてはアート業界とも共通する部分があるのかもしれません。
入場無料のアートギャラリーは閑散としているのにデザフェスは人で溢れていて、さらにはデザフェスで画集とかグッズを数万円単位で購入はするけれども、ギャラリー等で絵画/原画を購入することがない、という方もいらっしゃいます。似たような構図かもしれません。
批判でもなんでもなくそういうものかと思いますし、同時にその垣根を壊していろんな人が越境的に楽しめるようにするにはどうしたら良いんだろう、ということは常々考えています。(うつわ本はそのための取り組みでもあります)
こうした即売会に参加して購入すること、消費活動そのものがコミュニケーションツールになっているような感覚すらあります。
あるいは「作品の売買」ということが人間関係を担保するものという点では同じだとしても、昨今の状況は軸足が「作品」ではなく「売買」そのものにシフトして消費活動そのものが人間関係を構築するようなフェーズにあるのかもしれません。あくまでも印象論での仮説ではありますけれども。

僕は作品の力を信じる人間です。消費活動による繋がりは、次の金銭授受によって関係性が更新されるものであって、持続性が薄い。
作品は長く残ります。本でも絵画でも陶芸でもなんでも良いのですが、作品そのものに繋がりの証を見出すのであれば、極端に言えば作品とさえ繋がっていれば人間のコミュニティは成立するものだと信じています。
繰り返しになりますが『日本現代うつわ論』はそういう本でもあります。

次回から文学フリマ東京はビッグサイトに移るとのこと。こうしたイベントが大規模になっていくことは、文化発展のためには喜ばしいことだと基本的には思います。
しかし、規模が大きくなればシンプルに、物理的に回り切る時間が足りなくなり、有名なブースと知人を覗くだけで精一杯になるでしょう。大きくなればなるほど、裾野を広げれば広げるほど、一極集中が起きてすでに存在しているコミュニティが強化されることは明白です。

そういう懸念も含めて、何よりビッグサイトが遠くてめんどくさいし、あんまり場所として好きではないので、次回の文学フリマ東京は出展しません。

今年『日本現代うつわ論4』を刊行する際には別のイベントに参加するか何かしら企画するか、という形になると思います。
その上でやはり、でかい現場での見知らぬ出会いが必要になるのであれば、来年5月は出るかもしれません。

ありがとう文フリ、また会う日まで。

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