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おじさん、扇風機に心を寄せる、の巻

2021年11月12日(金)、終日、在宅勤務。
子供たちは学校、妻もバイトだったので、家で一人、仕事。
妻が出がけにスタートさせていった「アイボちゃん」と二人きり。

アイボちゃん、久しぶりの活躍で張り切ったのか、夏の終わりにしまい忘れた扇風機に果敢に向かっていき、しばらくの間、扇風機の脚(土台)の上をゴリゴリと乗っかったり降りたりを繰り返していた。

「足元」(土台の上)を、アイボに行ったり来たりされている扇風機がなんとなく「旧式の家電の象徴」で、アイボが「ニュータイプ家電の象徴」のように見えて、、、。

アイボが「おりゃー!世代交代じゃ!おりゃー!お前ら旧式家電の時代は終わったんじゃー!」って、思い知らせているように見えて切なかった。
黙って自分の足元を蹂躙されるがままにさせている扇風機が、なんとなくしょんぼりしているようにも見えた。

で、そんな新旧家電対決をひとしきり見たあと、ダイニングテーブルでノロノロと仕事に取り掛かった。

夕方5時過ぎに、3人の子供のうちの一人目、産まれ順も一人目の長女(高3)が帰ってきた。
で、すぐに塾の自習室に行きたいから車で送れ、という。

もちろん娘にはデレデレなので、快諾して車を出した。走り出してすぐに娘が、ポリポリとポッキーみたいなお菓子を食べ始め、そんで、俺にも「食う?」と聞いた。

俺は、「パパは、ポッキーとかそういう細いお菓子を食べると、切なくなるから嫌いなんだ」と答えた。
娘が「これ、プリッツだけどね。え?なんで?」と聞くので、「だって、ポリポリポリポリーってあっという間に終わっちゃうんだもん。
なんか『食べた』感がないだろ?食べ終わった後悲しくなっちゃうんだよ」と答えた。


「そーお?(笑) 私は大好きだけどな」と娘が言うので、
「パパのオフィスの給湯室に、『オフィス・グリコ』って言って、100円いれれば好きなお菓子を一つ買える、セルフ・ミニ『置き菓子』システムがあるんだけど、そこにも、やたらポッキーとかプリッツみたいな『細い系』お菓子が多いのよ。パパはいつもそれに憤慨していて、会社の同僚たちに、『今度、オフィス・グリコの担当者がポッキーとかプリッツ補充してるの見たら殺す』って言ってるんだよね」と答えた。

娘は「殺す!って!(笑)」と言って笑い「とにかく、細いお菓子はすぐ食べきっちゃって、すぐなくなっちゃうからキライなのね?」と言った。

俺は「そうなんだよ!」と、強くうなずいた後、心の中で、「いや、待てよ…。そういえば、ポッキーにはやたらお世話になってた時代もあったなぁ」と古い記憶を呼び覚ました。

あれは、まだ20〜30代前半の若かりし頃。
「合コン」というイベントに頻繁に招かれ、今では懐かしい「王様ゲーム」が全盛期だった時代。

「王様」の命令で、その日初めて会った女の子とキスを「せざるを得なく」なった際、頑なにキスを拒む女の子を安心させる為に、ポッキーを取り出すのが常だった。
ポッキーを取り出して「じゃ、ポッキーをお互い端から食べ進めて、真ん中に達する前にそっちは噛み切っちゃえばいいよ」なんつって。
「ハヒ」って言いながら俺がくわえたポッキーの反対っ側を女の子にもくわえさせ、こっちからポリポリすごいスピードで噛みすすめて、結局最後は有無を言わせずベロチューしちゃうってのをさんざんやったなぁ…。
「下品でおおらかで、いい時代だったなぁ…。」「それに比べて今は、コロナで、キスどころか手も触れられない、つまらない時代になったなぁ…。」
なんて、心の中でしみじみ考えていたら、ますます寂しくなった。

娘に「パパ! 音楽かけて!」って声をかけられるまで、「いい時代だったなぁ。大らかで下品で…」ってボンヤリ考えていた。完全にボンヤリ運転である。

あんなエッチな合コンできる時代はもう来ないのかなぁ…。

少しだけ、あのしょんぼりしていた「扇風機」の気持ちがわかったような気がした。


おわり

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