得点したイニングには何が起きているんだろうという話
著:原島(監督) 編:梅村(部長)
皆様こんにちは。
ヘルシオという調理器具が猛烈に欲しい監督です(詳しくはこちらから)。これはただのオーブンではなく、「ウォーターオーブン」です。ウォーターオーブンとは熱水蒸気を使った調理器具を指すそうなのですが、最初は何それ?と思いました。だけどこれがスゴいんです。HPから引用します。
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※部長より:Amazonだともうちょい安いですよ。
諦めてラップでチンしようね。では今回も宜しくお願い致します。
1.調査のきっかけと定義
本章に入る前に、一度脱線させてください。
監督はポーカーの世界大会を偶に見ることがあります。ルールの説明は省きますので、試合の様子やルールはこちらをご覧ください。ここで見ていただきたいのは以下の画像(中継画面)です。
プレーヤー名の横に2枚のホールカード(手札)があり、その横に「73%」「27%」とあります。これは、現在明らかになっているカードの状況で、それぞれの勝率を「%」で表しています。この数値はコミュニティカード(ディーラーが出すカードで、そのカードはプレーヤーで共有となります)が出される度に変動し、この状況だと男性の手札の方が有利であるということが分かります。
コミュニティカードが3枚(♤Q、♤5、♧4)公開されました。この場合、男性はホールカードが♧8と♤4なので、コミュニティカードと合わせて4のワンペアが成立しています。対して女性の方は、♡Aと♢2でコミュニティカードと合わせてもハイカード(成立する役がない状態)になります。この場合ですと男性がワンペアで勝利となりますが、コミュニティカードが2枚公開されていないので、勝利はまだ見えません。しかし、現状として男性の勝率が73%あるということをこの数値では表しています。
ではこの後の展開を見ていきましょう。
コミュニティカードに♢4が追加され、男性は4のスリーカードとなり、女性は依然ハイカードです。そのため、確率が変動して男性が91%、女性が9%となっています。つまり、この状況からスタートすれば、91%の確率で男性の勝利というわけです。
コミュニティカードが出揃いました。最後のコミュニティカードが♡6でしたので、このまま勝負をすれば男性の勝ちという展開なのですが…結末は動画をご覧ください。
急にポーカーなんてどうした?ということなのですが、今回のnoteでお話しする内容は、「得点があったイニングでは、どのようなイベントが起こっているのか」という内容です。言い換えると、「あるイベントが起きると、そのイニングでは何点の得点が期待できるか」という見込みを検証してみようということになります。
(部長より)状況から推測される勝利確率の算出は野球でも行われていますよね。たとえば、以下は9月23日に行われたパイレーツVSレッズの試合のスコアボード。
一時9点差をつけられたパイレーツが中盤に大逆転し、終盤詰め寄られながらもなんとか逃げ切るというとんでもない試合展開ですが、このときの勝利確率の変動は以下の通りになります。
ビッグイニングと呼ばれるものがあります(今回は5点以上得点したイニングとします)。これを起こす要因としては、①攻撃側の成功(出塁/進塁/生還)、②守備側の失敗が挙げられます(必ず2つが必要ということではありません)。
では、ビッグイニングが起きるときは、①と②のどちらのイベントの方が多いのでしょうか?また、①の中でも単打や長打、四死球や犠打など、ビッグイニングの際はどのイベントが最も起こっているのでしょうか?
それが分かれば、「イニングの先頭打者がアウトor出塁したことで、その回にどれほどの得点を見込むことができるか」や「四死球と単打を出してしまったから、この回は〇点失点するかもしれない」という期待値というか、得点/失点の見込みを立てることができるのではないかと考えています。
先ほどのポーカーのように、ゲームが進む(=カードが公開される)につれて勝敗の確率が変動していくのと同じように、野球においてもあるイベントが起きることで入る得点を予想できれば面白いと考えています。
繰り返しになりますが、今回は「得点があったイニングでは、どのようなイベントが起こっているのか」を検証します。「得点」という一つのくくりでは分けられないので、以下の通りに分類します。
ビッグイニング(5点以上)
4点
3点
2点
1点
次に、イベントについてです。あらゆるイベントを計上するのではなく、出塁/進塁/生還に寄与したイベントのみを集計します。
※他に以下の項目を持ちますが、複数のイベントの合算となります。
⑴捕+送+FC(打球処理のミス)
⑵捕+送+暴投+後逸+FC(守備側のミス)
※得点に寄与したイベントですので、集計しないイベントもあります。例えば以下のイベントが起きたイニングがあったとします。
単打→犠打→二塁打(タイムリー)→三振→投フライ→四死球→盗塁→遊ゴロ
この場合、集計するのは「単打」「犠打」「二塁打」のみです。アウトはもちろん、「四死球」「盗塁」は得点につながらなかったので集計はしておりません。
調査対象は、2023年の全国高等野球選手権大会の全試合(8/6~/23)の47試合です。
2.実際に調べてみました
では、調査結果をご覧ください。
表についての説明と注意です。
〈注意〉
今回は単年のみの結果ですので、サンプル数がやや少ないです。そのため、この表の結果は偶然による影響が含まれています。どうぞご了承ください。
〈説明〉
ケースは各イベントを表します。「捕+送+FC(打球処理のミス)」は、打球の処理に対するミスで複数のイベントを合算しています。「捕+送+暴投+後逸+FC(守備側のミス)」は投球+捕球+打球処理に対するミスで、守備側が起こすミスのイベントの総計です。これらはいずれも合算なので、色付きの強調表示をしておりません。
赤色で強調しているところは、その条件において多く発生したイベントのTOP3です。
青色で強調しているところは、発生するイベントの確率が0.5以上を記録した時に付けています。数値は左の欄と同じものが表示されています。つまり、2.0であれば一度のイニングでイベントが2回以上発生していることになります。
何はともあれ分かりにくい…。要点をまとめます。
【イベントに着目して】
いずれの得点イニングでも単打が最も発生している。
いずれの得点イニングでも四死球(申告敬遠含む)が2番目に多く発生している。
二塁打を打てるようになれるといいね。
「捕+送+暴投+後逸+FC(守備側のミス)」が隠れボス。
【得点イニングに着目して】
3点以上得点時:点数に関わらず同様のイベント発生の傾向がみられる(数値は得点が上昇するほど増えますが)。
3点以上得点するときは、多く守備側の失策が発生している。特に「捕+送+暴投+後逸+FC(守備側のミス)」においては、3点以上の得点ではそのイベントが1回以上発生しているということになる。
1点得点をするときは、イベントが多岐にわたるため、何が起きても得点する可能性があると考えられる。
【攻守に着目して】
以下の表をご覧ください。イベントごとに発生率をランキングしたものです。
「各順位」とは、「ビッグイニング→4点→3点→3点→2点→1点」の順で発生数の多い順位を表します。例えば、犠打は「ビッグイニング(6位)→4点(5位)→3点(5位)→3点(5位)→2点(5位)→1点(4位)」ということになります。以下まとめます。
攻撃側は単打(というか安打)と四死球を多く発生させることが重要なので、打撃と選球眼の強化が必要である。
攻撃側は得点を上げていきたいなら二塁打を増やすことが重要である。
守備側(特に投手)は四死球を減らすことが最優先事項である。
守備陣(投手+野手)は3点→ビッグイニングで、「捕+送+暴投+後逸+FC(守備側のミス)」が1.11→2.25と増加している。つまり、失策が1つ増えることでさらに2点以上失点する可能性があるということを理解しておきたい。
※ランキングには入れていないが、「捕+送+暴投+後逸+FC(守備側のミス)」を順位に入れると「23332」になる。これは単打、四死球に次ぐ発生率の高いイベントであるため、これらのイベントを一つでも少なくすることを念頭に練習したい。
(部長より)
今回はどちらかといえば私の守備範囲かと思いますので、少し補足を入れようと思います。
上記の結果を見ると「じゃあ単打をいっぱい打った方がいいのか!」「粘って四球をもぎ取ろう!」「エラーを発生させればいいのか!」という発想になりそうなものですが、実際に戦略に活かすにはもうひと手間必要かと思います。というのも、各イベントの発生頻度は各々異なるからです。以下は2023年全国高校野球選手権大会の全イニングにおける、各イベントの発生頻度です。
なんとなくおわかりかと思いますが、「ビッグイニングで多く発生している事象」はそもそも普段から多く発生しているのです。
野球というゲームの性質上、当然ながら単打よりも二塁打、三塁打の発生頻度は小さい(=起こりにくい)ですから、ビッグイニングにおいて「単打のほうが二塁打より多く発生している」というのは「当然の結果にすぎない」と見るべきです。したがって、「大量得点をあげるためには単打のほうが二塁打より重要である」ということにはならないと考えます。
一方で、「ヒットが1イニングに2,3本以上発生している」という状況は野球というスポーツの特性上かなり異常な状態です。現代ほど野球のレベルが向上しても、「長い目で見ればファウルゾーンを含むフィールドに飛んだ打球の約30%程度がヒットになる」というBABIPの原則が大きく損なわれる事象はほとんど発生していません。
この原則にしたがえば、(アウトがすべて打球発生によるものと仮定しても)ヒットはイニング平均1本、多く見積もっても2本です。実際には三振によるアウト奪取が20%前後含まれますから、期待されるヒットの本数はもっと少なくなるでしょう。
つまり「エラーが出たから大量点につながった」「連打が出たから大量点につながった」と見るよりは、「大量点が出る場面では、一般的な状況では起こり得ない異常事態が発生している」と見るべきでしょう。
つまり、大量失点時には
・投手が非常に強い打球を打たれている
・投手の球威が低下し三振が取れない
・投手の制球が安定しない
・失策が連発している
など何らかのイレギュラーが発生している可能性が高いと言えます。そのイレギュラーを早い段階で察知し、防止することが大量失点を防ぐ鍵になりそうです。
反面、攻撃側としても
「何らかのイレギュラー(=相手側の戦術的・技術的ミス)が発生しなければ、単打や犠打のみで大量得点をあげることは困難である」という理解はしておくべきでしょう。もし相手のミスなしに大量得点をあげることができるとしたら、そこには長打(特にホームラン)の存在は必要不可欠です。長打(強い打球、飛距離の出た打球)の価値は、相手のミスに(比較的)依存せず得点を生み出しやすいところにあると言えます。
3.まとめ
とても疲れた。
前章で長ったらしくお話ししたので、ここでは調査をした感想を書かせてください。
意外とカギになるのは四死球かもしれない。
犠打ってどうなんですかね。
二塁打を打てるか、二塁打と同等の結果を生み出せるようにすることが得点を上げられるかどうかの分かれ目になるかもしれない。
⑴についてです。個人的に四死球多いなあと調査をしながら感じました。打撃が強化されてきた昨今では、厳しいコースに投げたりコマンドを多少捨てて強い球を投げる必要があったりで、四死球が出やすくなっているという現実はあると思います。
ただ、四死球がこれだけ出ている(しかも甲子園で)のなら、意図的に四死球を発生させる練習をする価値があるのではないでしょうか。ここまでやる必要は無いと思いますが、選球するというか、ボール球を振らないようにする能力は重宝されるべきでしょう。
(部長より)MLBではその日のトップ見極めをランク付けするなどするぐらいには選球眼を重視しているようですね。トラッキングデータによるフィードバックを利用して審判の精度が年々向上しているMLBならではという側面もあるかと思いますが。
⑵についてです。個人的に、犠打は1点か2点の得点イニングで上位に来るものだと思っていました。進塁する代わりにアウトを献上するというプレーなので、複数点はなかなか入りにくいとは思いますが、蓋を開けてみたらどの点数でも発生率は変わらないということが分かりました(前章で書きましたが、サンプル数が少ないので今年だけかもしれません。来年も機会とやる気があれば調査します)。ただこれだけで犠打の価値についてどうこう言えないので、いま別の角度から調査しているところです。まとまり次第noteに出します!
(部長より)
犠打を試みる場面は基本的に無死か一死ですから、(オールセーフにならない限りは)最大でも1イニングあたりの試行回数は2回ということになります。条件別に見ても差が出ないのはそのあたりに何かあるのかもしれません。
⑶についてです。まずは単打が基本ですが、二塁打を打てることが得点を上乗せしていくために必要な要素になるかもしれません。もしくは 「単打+盗塁」で二塁打と同等の結果(アウトを献上せずに)を引き起こせれば、得点圏にランナーが進むので得点する確率は上がるでしょう。部長が大好きな得点圏打率の話でもする?
上位4チームは1試合で2本以上の二塁打を打っていることになります。打ち過ぎやろ…。皆さんのチームはいかがでしょうか?複数得点をするためには二塁打を打たなければならないということではありませんが、複数得点を発生させるために重要もしくは効率的なイベントであることは間違いないと思います。
(部長より)
本件についても、二塁打を狙って打つというよりは、「二塁打(長打)を増やすために強い打球を打つ」にフォーカスすることが重要なのは確かであろうと見るべきでしょうね。
今回の調査は以上になります。調査結果が複雑なので、皆様が考えたことや発見したことをコメントで書いてくださると嬉しいです。
この調査で副産物も生まれたので、まとまり次第どこかでお話したいと思います。
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