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ウルフという名のルイス

「俺は根っからの悪じゃねえ。お前が俺のことをリスペクトすれば俺もお前をリスペクトしてやるさ。」

ウルフという名のルイス

いや。。ルイスという名のウルフはしきりにこのセリフを繰り返していた。

ルイスの言い分はこうだ。

実はルイスは僕が契約しているこの店舗の大家であるディアナの父親で、つまりディアナの母親の夫なのだが、数年前から別居中で娘であるディアナの大学の学費の為にこの物件の家賃をディアナが受け取ることにしていた。

ルイス曰く。。ディアナの母親とは最近離婚したらしい。 

離婚したはいいけれど、ルイスは糖尿病が悪化して仕事を辞めてしまったのでディアナが学費として受け取っていた家賃を自分の生活費にしようとしたのだが、ディアナの母親、つまり元妻はディアナの養育費代わりにするといって聞く耳をもたないそうだ。

「知らんやん。。。」

そう胸の中でつぶやいた僕にお構いなしにルイスは話を続けた。

それで、ディアナに直接連絡してこれからは家賃は自分が受け取ると伝えたが、ディアナもディアナで全く相手にしないそうだ。だから、直接僕にこれから家賃はディアナにではなくルイスに払えと言いにきたそうだ。

「知らんがな。。。」

それは直接親子で話をつけて欲しい。とにもかくにも、契約書にはディアナの名前が書いてあるわけで、先ずはディアナに確認させてくれと僕は伝えた。正直、話が本当なら誰が家賃を受け取ろうが僕には関係ないことだし、とにかくこのウルフには早く帰ってもらいたかった。

ディアナに直接確認すると伝えた後、ルイスはバツが悪そうにしていたが、帰りのバスの時間が迫っているといって「とりあえず今日は帰る」と店を出ていった。

僕はすぐにディアナに電話して、一部始終を伝えた。ディアナは

「あのオヤジ。。。」とルイス(ウルフ)は自分の父親だと認めたが、家賃は今まで通りディアナ自身に払うようにと念を押された。路地裏のこの物件をディアナから借りてお店をはじめて約2年半。いきなりビザもないアジア人にパスポートも滞在許可証も必要ないと物件を貸してくれたディアナには感謝の気持ちがあったし、なによりも賃貸契約書にはディアナの名前がある。僕はとりあえず来月もディアナに家賃を支払に行くと約束して電話を切った。

ディアナの声を聞くのがこの時が最後になるとは、この時の僕には知る由もなかった。

つづく

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