だれかそいつを笑わせろ!(※英語で) ーー Humor, Seriouslyを読む
英検の2次試験で試験官を笑わせた、という話をちらっとしたところ、「どうやって英語で笑わせるのかについて書いてほしい」との仰せ。御意。
私の会話は、英語でも日本語でも、笑ってもらえることが多いです。ありがたや。ついなんか面白いこと言いたくなっちゃう。なんでどうやってって言われてもよくわからないのですが、とにかく口から出てくる。頭の中からわいて出てくる。身振り手ぶりや表情に出ちゃう。反射。もうそういう脳のプログラミングなんだと思います。バグですね。デフォなんです。そういうもんだから仕方ない。正直、それ以上説明しようがないところではあります。
かの明石家さんまさんが、「お笑いのワザについて本を書いてほしい」と頼まれるたびに断るんだそうです。いわく、「俺の『笑いの五輪書』は、1ページ目に『緊張と緩和』と書いてあるだけで、あとは真っ白、自分で書き込め」。さんま師匠にしてこれなら、私ごときが何をか言わんや。
とはいえわたくし、こう見えて、巷で話題の16パーソナリティーズでは論理学者と分類された身の上の者、こういうときは、そもそも笑いとは何ぞや、みたいなところから入っていこうとする。
そんなこんなで、Humor, Seriously を手に取ってみたわけであります。
この本は、例によってスタンフォードで何かを教えている先生が書いたもので、いかにビジネスの現場でユーモアが諸問題を解決するか、が説明されています。
そこでは「なんか面白いこと」のハードルが低く定義づけられていて、大爆笑をとる必要は全くないんだ、という点が強調されています。普段の、身の回りベースのネタで全然いいのだと。そのことを踏まえて、実際のテクニックがいくつか紹介されていくのですが、その前に、なにかと炎上しやすい現代に生きる我々が心して読まねばならないのは、「ネタにしてはいけないポイント」の方だと思います。ここはぜひご一読いただきたい。
私はうんと小さいとき、親に「相手の努力でどうにもならないことをあげつらって馬鹿にするな」と教えられました。たとえば、肌の色、珍しい名前、障害といったことです。これは笑いの対象にはならない。私は米軍基地の街で生まれ育ちましたから、すぐ近所を黒人さんたちが闊歩しているわけですが、彼らの外見は私にとってはジョークではない。中華街の人たちのアクセントも、沖縄タウンの人たちの苗字も。「自分がされて嫌なことは相手にもするな」という原則です。これは人としての大原則。
でも、やっぱりあれだけいろんな人が近くにごちゃっと住んでる以上、何かしら起きないわけがない。だから、「なんか知らんが行動様式や思考回路の異なる人間がすぐわきにいる」おかしみは、ジョークにできます。毎日が異文化交流とまでは言わないが、自分が常識と思っている基盤が他者によって崩される過程は、恐怖の一歩手前のスリルになりうるわけで、そのへんのズレは笑いとばせる類のもんです。
そんな背景もあってか、私は「国別ジョーク集」みたいなものを読むのがすきでした。あの、「イギリス人には『紳士たるもの飛び込むものです』と言え」でおなじみの沈没船のジョークとか、ああいうやつ。イスラエルやロシアのアネクドートなんかも、政治の混乱期だったからこそ、余計おもしろかったです。
こういったマインドが、英語でも相手を笑わせる際の大前提になっています、ときれいにまとめようとしたところで、ちょっとこぎれいすぎるので、もっと具体的な話もしてみましょう。
私個人の「なんか面白い話」の組み立ては、基本的には全て「言い換え」で成り立っています。と、今回改めて分析してみただけで、普段そんなこと1秒も意識してないですけどね。それはともかく、①何を②どう言い換えるのか、という方法論になりますが、
①ことわざ、昔話、有名人の発言、映画のセリフ、漫画などの決めゼリフ、CMのキャッチコピー、歌詞、曲名や題名を
②同音異義語、韻、反対語、外国語、流行語で置き換える
つまり、パロディにすることが多いかなーと、自分では感じています。パロディにせず、そのまま引用することも多いですが、いちばんは何かしらのアレンジを加えていると思います。だだ同僚に訊いたら、いやそれは違う、そんなんじゃない、全然違うパターンでしゃべってるよお前、って言われるかもしれませんが。
たとえばこの記事につけたタイトル「だれかそいつを笑わせろ」は、『だれかそいつをつかまえろ!』という古い絵本の題名のパロディです。無意識でそうしました。たまたまそうひらめいただけ。いつもこんなんばっかです。
こういうだじゃれみたいな言葉遊びみたいなものを、ちょっとムズカシイ用語で「地口」といいます。じぐち、ね。英語ではpun。パン、です。たとえばシェイクスピアなんかは地口の宝庫ですし、そこまでめんどくさいものを参考にしなくても、日本のCMやエンタメは語呂合わせ祭りだったりしますから、誰でも普段から聞き慣れてるはずなんです。
で、これらを私は、本歌取り、連歌、掛詞、なぞかけみたいな流れでやっています。本人そんなつもりはないんですけど。毎日が大喜利、一人脳内boketeですね。それを都度都度、英語と日本語のスイッチを切り替えているだけのことで、自分では特別な訓練を要する難しいことをやってる意識はないのですよ。
英語と日本語のスイッチを切り替えなくてもいい時もあります、状況によりますけど。相手がルー大柴知ってる世代だったり、ウィッシュって叫んで通じる世代だったら、深イイ話のオチを英単語にしたりアルファベット3文字にしたりします。そのへんも特に深く考えてなくて全然適当です。私の心の師匠はTJ(高田純次)ですから。
よく、英語のジョークとかユーモアは、日本人と感覚が違うじゃない?って話になりますが、さっき述べた大原則をはずさなければ、人類みな兄弟、ルイはトモを呼ぶ、たいていのことは笑えるし、笑ってもらえます。Mr. Beanで爆笑こそしないものの、ふふってなるのと同じです(個人の感想です)。
ネットのミームmemeは、むこうの笑いの感覚を養うのに役に立ちます。なんでこれで笑ってるんだ? なんでこのキャプションが可笑しいんだ? これのどこがオチなんだ? みたいに、最初は頭使って理解しないといけないことが多いと思いますが、やがて背景知識や英語力が増すにしたがって、自然と何が可笑しいのか、わかるようになると思います。ありがたいことにミームの解説をしてくれる人も、ときどきネット上には現れますから、後追いで理解するのもアリでしょう。
それと、コメディドラマやトークショウも勉強になります。アメリカのエンタメは、ディズニーチャンネルをはじめとしてシットコムの宝庫ですから、そこでの英語表現を拝借したらいいですよね。私はドラマは観ませんが、サタデーナイトライブとかレイトレイトショウとかエレンの部屋はだいすきです。そういうものをかなり観てるので、英語のギャグというかダジャレというか言い換えが、ぱっと出てくる、というところはたぶんにあると思います。
英語圏に特化した話でいうと、世界史の知識、シェイクスピア、マザーグース、あたりは、知ってるとすぐ応用できて、現地人に異常にウケます。これは私がたまたま学生時代に専攻していた研究内容が関係しているので、一般的な日本人よりはネタのストックが多いため。これはもうしょうがない。英文学を専攻していなかった場合、小難しい「世界のエリートが教養でどうたらこうたら」系の新書とか読んで身につけるしかないかもしれない部分です。
時事問題は必須ですね。これは流行語みたいなもんで、何年も続けて使える持ちネタにはならないけど、一週間はそれで持つでしょう。時事ネタは、瞬間最大風速で一気に行くものであって、じきに腐り始めるので、一度ウケたらそこで捨てる勇気が大切です。
時事ネタや政治ネタで気をつけなきゃいけないのは、成金成り上がりや権力者を小馬鹿するのが目的であって、弱者を嗤ってはいけない、ということです。自虐ならかまわないけど。この点、女王陛下をいくらおちょくっても全く平気な英国王室とその臣民の余裕を見倣いたいところではありますが、とはいえやはり、わが国で皇室をいじるのは絶対の禁忌ゆえ、いくら面白いことであっても、ハートの女王に首をはねておしまいと命じられておしまいでしょう。どんな国にも、政治的タブーはあるもんです。革命とか起こしたいならいざしらず、命を賭してまでわざわざ触れなくともよろしい。
ほかにもう一点、我々オトナが気をつけねばならないことがあります。オトナであればあるほど、組織で若いひとの上にたっている可能性も高いわけですが、そんなアナタが気をつけねばならないことです。それは何かというと、
えー、まさかー、俺の話いつもバカウケよ?心はいつも十代よ?って思ったあなたのために、念には念をいれて、アメリカの上院議員エリザベス・ウォーレンの自伝からも。彼女はハーバードの教授ですから、学生さんの前でちょっとしたジョークを言って教室をあっためるわけですね。その様子をあるとき息子さんが見ていて、その帰り道、彼はずばりとこう言います。
おぅ。キビシイ。しかしここには一点の曇りもない真実が在る。若い人は親切で笑ってくれているのです。特にZ世代が我々のお相手をしてくださってる際は、彼らは実に優しいのだということを重々心に留めておきましょう。
最後に。Humor, Seriouslyで取り上げられているワザの一つ、relativeを、私はやったことがありません。誰かのあるあるネタで笑ったことがないので、興味がないんだと思います。特に日本のは、視野も守備範囲も狭くって、ただの揚げ足取り。あんな程度のあるある言いたいか? だから自分でも口にしない。口にしなけりゃすべらない。すべらないなら面白い人に見える。そんな程度のからくりなんだと思います。もし私があるあるだろうとなんであろうと器用にこなせるタイプだったら、今こんなとこでこんな記事書いてないで、プロの芸人さんやってます。
私はただの素人で、あるあるネタ(と親父ギャグ)(と下ネタ)が大嫌いな非常に偏った人間ですが、Humor, Seriouslyにリストアップされている、ユーモアを具体化する技術のほとんどを、これいつも実行してんじゃん私、と読んで気づきました。ロンドンで何かの討論中、クソ真面目な国民性では世界的に定評のあるドイツ人にすら、"You are funny." とあきれられ評価されたことがあります。よって以上のことから、おそらく面白さに関してはお墨付きをもらったといえるんじゃないかと思います。ね、論理的でしょ。
まあ今こんなとこでこんな記事書いてる時点で、やっぱちっとも面白くなくて、ただのクソ真面目にすぎないのかもしれませんが。
と、この、「先に触れた話題やキーワードに戻る」のも、笑いのコツの一つでして、実はそれもこのHumor, Seriously に書いてあったことなんで、それをこうやって実践できてるってことは、この本、読めば読んだでちゃんと効果があるはずです!(迫真
本日とりあげましたのは
Jennifer Aaker & Naomi Bagdonas, Humor, Seriously : How Humor Is a Secret Weapon in Business and Life (and how anyone can harness it. Even you.), Currency, 2021.
(ジェニファー・アーカー、ナオミ・バグドナス、神崎朗子訳、『ユーモアは最強の武器である:スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』、東洋経済新報社、2022年)
でした。ありがとうございました。
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